9-3. トントン攻撃にやられた
(*景虎視点)
今日は未依沙が練習を見に来ていた。
バレー部の男子たちは
可愛い子が見に来るときは、
いつも以上に気合が入る。
でも、未依沙はいつも静かに見ているから、
練習の邪魔になることもない。
練習が終わってストレッチをしていると、
トントンと肩をたたかれた。
誰だろうと思って振り向くと、
ほっぺにプニっと指が当たった。
その相手は未依沙だった。
「なんだ、未依沙か!」
未依沙はくすくす俺の方を向いて笑っている。
瑠飛に呼ばれて、
未依沙は向こうへ行ってしまった。
目線を戻すと、部員二人が
俺をじっとみてニヤニヤしていた。
「なんだよ、ニヤニヤと。気持ち悪いな」
2人に向かって言うと
「いやいや、だって、ねぇ~」
「あの、鉄壁の未依沙ちゃんからスキンシップって…レアすぎん?」
2人して意味深な目くばせをしている。
「そうなのか?」
未依沙からのスキンシップってレアなのか?
てか、鉄壁ってなんだ?
「はい~、かげ、ニヤけてるし~。隠せてないし~」
「もうやめろって!」
今まで女の子とのことで
いじられたことがなかったから、
恥ずかしくて仕方ない。
「……ほら、早くストレッチしよーぜ! 」
男同士のバカ話ならいつも通り付き合えるのに、
女の子絡みで茶化されるのは初めてで、
どう切り返していいかさっぱり分からない。
まるで、守り重視でじっくりラリーを続けていたのに、
急にノーサインで高速クイックを
叩き込まれた気分だった。
ストレッチが終わったころに、
未依沙が俺の方に来た。
なんか近くないか?と思ったら、
俺の肩に小さな手がそっと添えられ、
すぐ近くから未依沙の甘い吐息が
耳元をかすめた。
俺の全神経が肩と耳に集中する。
「帰り、待っててもいい?」
肩に触れる暖かい手、耳元に感じた熱に、
耳が赤く燃え上がるかと思った。
未依沙の顔をバッと見ると、
いたずらっぽく笑っていた。
恥ずかしくて腕でとっさに口元を隠した。
「うん」
俺は一言、生返事をするのが限界だった。
未依沙からのアピールが強烈すぎて、
頭の処理が追いつかない。
……でも、嫌いじゃない。
自分の心をなんとか落ち着けようと
スポドリを飲んでいたら、
瑠飛が後ろから声をかけてきた。
「かげ、未依沙と付き合うことになったの?」
ブフっ!
スポドリでむせた。
驚くでもなく何気ない声色だったことに
引っ掛かったが、俺はそれどころではなかった。
「いや、ごめん。大丈夫か?」
むせた俺を心配してくれる瑠飛の表情は、
どこか柔らかくて…
まるで見守られているようで、
なんだか居心地が悪かった。
「うん、大丈夫」
落ち着いてから返事をすると
「で、お前ら付き合ってんの?」
「え、なんでそうなる?」
「いやだって、未依沙の目からめっちゃハート飛んでるから、そうなのかな?と思って。」
なんでこいつは、驚きもせず、
普通に聞いてくるんだ?
もしかして、未依沙から聞いてたのか?
「付き合ってはないよ」
「付き合って”は”ってことは、なにかあったってこと?」
こいつ、こういうところは本当に鋭いんだよな!
「ま、まあ…」
俺が言葉を濁して応えると
「そっか。まあ、見るからに、時間の問題そうだな」
ポンと肩をたたいてそのまま行ってしまった。
瑠飛は茶化すでもなく、いつも通り、
フラットに向き合ってくれたことに、
俺は安堵していた。
瑠飛の背中を見送りながら、
なんでだろう、胸の奥がほんの少し熱くなった。
さっきの未依沙の“トントン”が、
まだ肩に残ってる気がする。
……落ち着け、俺。




