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一番近くて、一番遠いーネット越しの恋を、君とー  作者: りなる あい
第八章:初夏の風と、二つの想い

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8-11. もう一人いた…

(✳︎瑠飛視点)


「もう一人いた」

部活へ向かい、仲間と共に練習を始めた。

コートに入ると、案の定、

完全に心ここに在らずのヤツが視界に入った。

そう——かげだ。


集中できていないのが一発でわかる。

いつもは的確なトスを上げるやつが、

今日は微妙にズレていた。


あいつ、どうしちゃったんだ?

……まさか、未依沙と何かあったのか?


胸の奥に芽生えた不安の種が、

静かに広がっていく。


「かげ、集中しろ。怪我するぞ」


「……ごめん」

(よし、集中だ。集中……!)


素直に謝るあたり、ますます怪しい。

けれど、その後は何とか立て直していて、

ひとまず安心した。


モップがけのタイミングで

俺は声をかけた。


「さっき、ちょっとぼーっとしてたけど、なんかあった?」


「いや、別に……」


めっちゃ気まずそうに目を逸らすじゃん。

かげ、隠すの下手すぎ。


本当はもっとツッコミたいけど、

今は未依沙との約束が大事だ。

かげへの深入りはまた今度だな。


急いで着替えを済ませて外に出ると、

ベンチに未依沙の姿があった。


「お待たせ」


「こちらこそ、ありがとう」


笑顔を見せてくれるけど、

どこかぎこちない。

——やっぱり、何かあったな。


「瑠飛、急いで帰ると思ったら未依沙ちゃんかよ〜」


「ほんと、二人は仲良いよな」


背中越しにそんな声が聞こえる。

無視して二人でカフェテリアへ向かった。

閉店間際の時間帯なら、

ゆっくり話せるだろう。


「飲み物買ってくるね」


そう言って、未依沙はすぐに立ち上がった。

少しして戻ってくると、

手にはペットボトルが2本。


「はい、まずはこれ」


渡されたのはプロテインドリンクだった。


「おお、プロテイン!ありがとう、助かる〜。未依沙はできる女だな」


思わず髪をくしゃっと撫でると、

たまたま通りがかった女子二人が


「めっちゃラブラブじゃん」

「美男美女すぎる」


と、小声で笑い合っていた。

気恥ずかしくなって未依沙を見ると、

笑顔の奥に少し影があった。

……やっぱり。


「未依沙、何かあったんだろ? 俺でよければ話してみない?」


「うん……」


小さくうなずいて、

昨日の出来事を一言ずつ語り始めた。


「そっか。未依沙、勇気出して伝えたんだな。偉かったよ」


俺はそっと頭を撫でた。

けれど、彼女の表情は晴れない。


「未依沙は、なんでそんなに思い詰めてるの?」


それは純粋な疑問だった。

だって、未依沙が何にそんなに傷ついてるのか、

俺にはまだ見えなかった。


「だって……“今は応えられない”って言われたんだよ」


「うん」


「たぶん、すぐに振るのは可哀想だから、そう言ったんだと思う」


——なるほど。

そういうことか。


「でもさ、実際のところ、かげがどんな気持ちでそう言ったのか、わからなくない?」


「……言われてみれば、そうだね」

(わたし、かげちゃんの表情だけで“ダメだ”って思い込んじゃったのかも)


「かげって、多くを語らないタイプじゃん? 正直、何考えてるか分からない」


「うん、そう思う」


「だからさ、未依沙が勝手に落ち込むのはもったいないと思うんだよ」


「……もったいない?」


「かげの本音を聞かないまま落ち込むのって、もしかしたら自分から可能性を捨ててるかもしんないじゃん?」


「自分から……?」


「いや、つまり——かげも未依沙のこと、好きかもしれないってこと」


「えっ、なんでそうなるの? だったら、すぐに返事くれるよ」


「“好き”まではいってなくても、気になってるかもしれないだろ。前に聞いたことあるんだよ。“幼馴染の未依沙のこと、好きにならないの?”って」


「……!」


「そしたら“未依沙は高嶺の花だから”ってさ。恋愛対象っていうより、なんか手を出しちゃいけないみたいな、尊敬とか憧れのほうが強かったんだよ、あいつの場合 」


「高嶺の花……嬉しくないね、それ」


「だろ? でもさ、“釣り合わない”っていう意味でもあるんだよな。だからこそ、かげは臆病になってんじゃないかって思う」


「そっか……わたし、そう思われてたんだ」

(ちょっとショックかも……)


「でもさ、かげ、最近よく未依沙の話してたぜ。“バスケ部の先輩と仲いいの?”とか、SNSのストーリー見て気にしてたし」


「……そうなんだ」

(それだけで、なんか嬉しい)


「だから、落ち込む前に、ちゃんと本人に聞いてみなよ。それが一番、気持ちに正直な方法だと思う」


「……そっか。うん、そうだね」

(落ち込む前に、まだできることがあるんだ)


「よし、それでいい」


未依沙は苦笑いしながらも、

瞳の奥に光が戻っていた。

その瞬間、俺はほっと息をつく。


もう大丈夫だ。

彼女の目に、再び前を向く強さが宿っていた。


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