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茨罠のルパリウス

ジョブチェンジは、音がしない。


派手な光もない。


森の中では、それが助かる。


画面の文だけが変わった。


戦闘職:茨罠のルパリウス。


クラフト職:古森工房主。


モリは息を吐く。


選んだ。


選んだら、検証だ。


検証しないと、暮らしが壊れる。


今日は、戦闘職。


茨罠のルパリウスの検証。


工房主は、次。


次に回す。


急がない。


ユキが横で耳を立てた。


変化の匂いを嗅いでいる。


モリは指を一本立てる。


合図。


“落ち着け”。


ルパリウス。


狼猟官。


罠と狼。


画面には、アビリティが並ぶ。


【闇狼】


影に潜り、影から出る。


奇襲。


追跡。


そして、帰る。


【茨罠作成】


茨を“生やす”。


縛る。


逃げ道を削る。


角度を変える。


止めない。


事故らせない。


モリは読んで、森を見る。


影。


茨。


どちらも、森にある。


だからこそ危ない。


使いすぎれば、森が荒れる。


荒れたら終わりだ。


検証場所は、境界じゃない。


拠点の近く。


でも家からは少し離す。


失敗しても、生活の匂いに触れさせない。


それも段取り。


モリは枯れ木の陰で、メニューを開く。


発動。


影が、一枚増えた。


そこに“黒”が沈んでいる。


黒い狼。


毛並みは夜の水みたいで、光を飲む。


目だけが、薄く光っている。


名前は、まだ無かった。


無いなら、つける。


つけたら、呼べる。


呼べたら、戻せる。


モリは短く言った。


「アラシ」


黒い狼の耳が、ぴくりと動いた。


影の中で尻尾が一度だけ揺れる。


喜び方まで、静かだ。


それが助かる。


――アラシ。


闇狼。


ユキが一歩前に出た。


白い狼。


白いのに、森では目立ちすぎない。


光を反射しすぎない毛。


白と黒。


並ぶと、互いの輪郭がよく見える。


アラシは吠えない。


代わりに。


影へ、すっと沈む。


沈んだと思った瞬間、気配が薄くなる。


薄いのに、消えない。


“そこにいる”だけが残る。


モリは指を二本。


合図を増やす。


一つはユキ。


一つはアラシ。


言葉は使わない。


使うと、気持ちが浮く。


浮くと、手順が崩れる。


最初の検証。


影から影へ。


モリは木の根元に、小石を置いた。


目印。


アラシが動く。


影の中を滑って、別の影から出る。


音がない。


土も鳴らない。


怖い。


便利だ。


便利なものは、だいたい危ない。


次。


奇襲。


相手はいない。


だから代わりに、倒木の裏に吊った布。


風で揺れるだけの的。


それでも、段取りは同じ。


モリは指を一本。


“今”。


影が膨らみ、黒が跳ねた。


布の脇を裂く。


裂きすぎない。


一撃で終わらせる線。


ユキが、その一瞬だけ前に出た。


白い体が霧の薄い光を受けて、布の影を大きくする。


影が濃くなる。


濃くなった影から、アラシが跳べる。


アラシはすぐ影へ戻った。


戻す。


戻せるなら、使える。


戻せないなら、暮らしが壊れる。


ユキは静かに見ていた。


羨ましそうでもない。


競わない。


モリの狼は、もう増やさない。


増やすと、森が荒れる。


次。


茨罠。


モリは湿った地面を選ぶ。


乾いた土より、根が通っている。


根が通っていると、茨は荒れにくい。


荒れにくい場所で試す。


発動。


土が、少しだけ持ち上がった。


いきなり森を壊すほどは動かない。


安心する。


でも油断はしない。


茨が出る。


細い。


けれど硬い。


地面を舐めるように伸び、輪になる。


輪は小さい。


“足一つ分”。


止めない。


向きを変えるだけの大きさ。


モリは自分の足で、わざと踏んだ。


締まる。


でも、骨は折れない。


痛い。


痛い程度。


事故じゃない。


「……使える」


モリが小さく言う。


その瞬間。


ユキが耳を立てた。


風。


匂い。


どちらかが、変わった。


モリは指を一本。


合図。


“撤退”。


アラシが影から出る。


出る場所が、モリの背。


守る位置。


ユキが半歩前。


白と黒で、挟む。


森の奥で、小さな枝が折れた。


獣か。


プレイヤーか。


分からない。


分からないなら、近づかない。


茨罠を消す。


消えるのが早い。


痕が残りにくい。


それも大事。


三つ。


白い狼。


黒い狼。


そしてモリ。


足音を揃える。


速くしない。


静かに戻る。


拠点に戻ったら、火は起こさない。


まず手を洗う。


次に、狼の足を見る。


ユキの肉球。


アラシの肉球。


泥。


茨の擦れ。


血はない。


それでいい。


アラシは火の近くに来ない。


影に寄る。


暗い場所で伏せる。


そこが落ち着くらしい。


モリは包みを撫でた。


今日の収穫は、強さじゃない。


段取りだ。


闇狼は、影に潜る。


だから影の多い時間ほど強い。


逆に、昼は弱い。


昼に無理をすると、壊れる。


壊れると、暮らしが壊れる。


茨罠は、止められる。


止めすぎると、森が痛む。


痛ませない線を守れば、寄せられる。


寄せれば、短く終わる。


答えは出た。


“使える”。


でも、使いどころは選ぶ。


ユキが尻尾を一度だけ振った。


アラシは影の中で、目だけ瞬いた。


白と黒。


呼吸が揃うまで、時間はかかる。


だから、急がない。


明日は、古森工房主。


拠点を、拠点のまま強くする検証。


出さないことも、手順。

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