29 運命の岐路
マリウスが目にしたもの。
それは異様な雰囲気を放っていた。
中は紅い液体で満たされているが、装置は起動していない。が、マリウスはすぐに理解した。
これは賢者の石の製造装置であると。
「……おいおい、キイラがそうだったから存在するとは思っていたがまさかここかよ」
マリウスは呟いた。
さらにマリウスは近くにあった本棚からファイルを取り出し、片っ端から目を通す。
直近ではこの研究所で2つの賢者の石が製造されていた。完成したのはマリウスたちがパロの町に到着する少し前。だが、それ以降の管理記録――本来は毎日つけられていたようなもの――が途絶えている。加えて、資料には1枚の付箋が貼られていた。
賢者の石2つが行方不明となった。
事実確認のため、ガネットさんの派遣を要請。
今回の戦いと何かがつながった。
だが、未だつながらぬピースはある。
賢者の石2つの行方。それが誰の手に渡ったか。持ち主次第では新たなる戦いに発展するだろう――
マリウスは資料を手にし、その部屋を後にした。
「……嫌な予感がする。事実確認に来たあの女が死んだとなればΩ計画も何かしてくるだろう。こうしている場合じゃねえ」
そう呟き、マリウスは足早に医務室へと戻るのだった。
マリウスは医務室に入るなり、資料を見せてこう言った。
「聞いてくれ……Ω計画の連中がこの研究所で何をしていたか」
すると、医務室にいた面々――特に錬金術師たちがファイルを見て表情を変える。
ファイルに書かれていたタイトルはこうだ。賢者の石研究・製造・管理記録。
「見た感じ賢者の石でも作っていたみたいだね」
リルトはそう言った。
「そうだな。さっきな、賢者の石を作っているとおぼしき設備を見た。動いちゃいなかったが、この記録を見た限り俺たちがパロに来る前に賢者の石が完成したらしい。ま、所在がわからなくなったみたいだが。それでガネットが派遣されたってことだ」
と、マリウス。
「Ω計画ならそうするだろうな。問題は賢者の石が今どこにあるかどうか。キイラの体内にあったものとは別物だ。間違いなくこの研究所から持ち出されている……」
今度はパーシヴァルが言う。
すると、今度は傷の深い――片腕を切り落とされたうえに未だ失血で顔色の悪いニッテが口を開く。
「賢者の石についてなんだけどさ……オレたちで研究所を接収して色々と調査する。調査した結果も踏まえてオレたちパロ支部とあんたら、ここにいる全員で情報網を共有する……ってのはどうだろう?」
その言葉を受けて、医務室にいる面々はそれぞれ顔を見合わせた。
よく知った者もいれば、今回の戦いで初めて会った者もいる。
「零、前にも鮮血の夜明団と関わったが信用できるのか?」
パーシヴァルは零に尋ねる。
「支部長クラスだぞ。しかも、何かあれば俺が全員殺してなんとかできる。問題はリルトか」
と、零は答えてリルトに冷たい目線を向ける。
「問題ねえ、リルトも信用できる。ソイツ、あたしらを欺くことに興味もクソもねえよ。多少世間知らずだけどな」
そう言ったのはミッシェルだった。
こうして、タケル一行、パーシヴァル一行、鮮血の夜明団、リルト一派の協力体制が成立した。
――ガネットの死は当然Ω計画にも大きな衝撃を与えていた。
「だそうですよ、院長。あなたのことを最も慕っていたガネットが北の地で無惨にも殺されました」
大陸中央部――スラニア山地、山の中腹にある拠点。ラオディケはカノンに言った。
「ああ……彼女は大切な幹部だった。錬金術師として、研究者として優秀なだけでなく、戦闘力もアイン・ソフ・オウルで上位に入る。彼女を喪うことは我々に打撃を与えるだろう……」
と、カノン。
「アイン・ソフ・オウルが新たに2人の新入りを迎えるとしても、ですか」
「その通り。単独であれほどの戦闘力を持つ者はそうはいないさ」
カノンはラオディケが尋ねると答えた。
2人はつかつかと歩き、いつもの会議室へと入ってゆく。
そこには生き残ったアイン・ソフ・オウルの面々とアノニマス、新たに幹部となった2人の男女がいた。
「遅刻だ、と言いたいところだが我々が早すぎた」
カノンとラオディケの姿を見るとアノニマスは言った。
彼の言うとおり、会議までの時間はまだある。だが。
「とはいえ、こちらにも時間があるわけではない。会議を始めよう。まずは新たな幹部――No.12とNo.13の紹介だ」
空気が変わりそうだったところでアノニマスは言った。
参加者の雰囲気が変わる。
「彼女はNo.12のルシーダ・アノニマス、私の元研究助手だ。それから……彼はNo.13の望月雫、元々教会あたりを受け持っていた」
2人の新たなアイン・ソフ・オウルはラオディケらにとっても見覚えのある顔だった。
「ご紹介にあずかりました、ルシーダ・アノニマスと申します。天体観測と旅が大好きです」
「望月雫です。先日の倉庫の大爆発から無事生還しました。次の目標は白銀の一族です」
2人は順に名乗る。
「となると、No.11は相変わらず欠番のままですか。ヴァンサンからしてみれば朗報ではあるのでしょうが」
そう言ったのは木。
このところ、裏切り者によって施設が破壊される中、逃亡した幹部候補――No.11となるはずだったタケルについて口にすることはタブーとなりかけていた。
「そうだね……朗報だよ。必ず彼を見つけ出して……こちら側に引き込みます。タケルの隣にいるべきは僕ですから」
ヴァンサンは不敵に笑った。




