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27 運命という呪い

 思えば数奇な人生だった。

 私の生まれた村は北東レムリアの一族がルーツの一族の村だった。外部からは南進派だと言われている我らは因習ある戦闘民族だった。


 忌み子。

 これが私の立場だった。

 後から生まれた私は良くて出涸らし。悪くて一族に破滅を齎す象徴だった。


 その扱いは私だけでなく、私と姉を産んだ母親にまで及んだ。


「どうして生まれてきたの……せめてあんたが死んで生まれていたら私が責められることもなかったのに……!」


 母親は毎晩私に当たり散らした。何度も殴られ、蹴られ、髪を燃やされても私は死ねなかった。私が強かったから。


 姉は私を何度も崖から突き落として殺そうとした。そうされても私は生き残ってしまった。


 ある時、何度目かも分からない姉からの仕打ちを受けた。私は崖の下で呟いた。


「……そうか。私は、生まれてくるべきじゃなかった」


 解りきっていたことだ。

 因習あるこの一族で、双子として生まれた私が生きていて良いはずがなかった。すでにこの時、私の心は壊れていただろう。


 どうすれば私は――


 あるとき、姉が死んだ。

 崖の崩落に巻き込まれて死んだらしい。これで双子の片割れは死んだのだから、私を取り巻く状況が変わるだろうと踏んでいた。

 その認識が甘かった。


「どうしてお前が生き残ってしまったんだ……!」


「忌み子が生き残ってしまった……もうお終いだ」


「ムルじゃなくてあいつが死ねばよかったのに……」


 村民の怒りの矛先は私に向いた。

 私は母親ともども隔離され、ある夜その家に火を放たれたのだ。

 草で建てられた家はすぐに燃える。パチパチと燃える音とまばゆい炎の光で私は目を覚ました。そして私は母親を置いて逃げようとした。

 だが。


「ガネット! 助けなさいよ! 娘でしょう!?」


 燃え盛る炎の向こう側から母親が醜い手を伸ばす。助けてと言っているがきっとそれは違う。やつは私に死んでほしいだけなのだ。

 だから私はやつを見捨てて家を出た。誰にも見つからないように崖から飛び降り。村を離れようとした。


 そんな時だった。

 私が、自分の運命を変える出会いをしたのは。


 この地域には珍しい銀髪に白い肌。彼は月光を受けていたからかとても神秘的に見えた。


「おや、珍しい。南進派の村民が降りてくるとは。それもぼろぼろの姿で。何かあったのかな?」


 銀髪の男は私の姿を見て言った。


「何のことだ。意味がわからぬ」


「わかるさ。私は君をヘッドハンティングしに来た。その髪色、瞳の色。間違いない。私の求めていた人間だ」


 男はそう言った。

 おそらく彼は初めて私を必要とした人間だろう。それにしても物好きな男だ。なぜ私か。


「ああ、なぜ私かと思っているだろう? 簡単だよ。君の面構えは運命さえ打ち砕きそうだからだ。同じ一族でもぴんと来る者がいなかったものでね。私の名はカノン。新たなる世界、楽園を創造する者だ」


 その男――カノンは私の考えを全て見透かしていたかのようにそう言ったのだ。


「楽園、か」


「ああそうだ。これから起こる災厄をすべて打ち払った後の世界。あらゆる問題が解決した世界。それを私と先生は楽園と定義した」


 などと言うのだが、問題は私を選んだことだ。


「その楽園に、私はきっと新たなる災厄をもたらすだろう。知っているか? 村で私が災厄をもたらす忌み子として扱われていたことを」


 私がそう言うと、カノンは笑い。


「科学的ではないな。私は君が、災厄をもたらす存在ではないと証明しよう」


 そう言って手を差し伸べたのだ。

 本当に物好きな男だ。だが、私を拾ってくれた唯一の人間だ。私はこの時に決めた。この男、転生病棟院長カノンに一生ついていこうと。




 その後、私は錬金術を学び。Ω計画で地位を得た。カノンに幹部入りを祝うため、何をしたいかと聞かれただから私は答えた。


「将来的に災厄をもたらす私の故郷を滅ぼしたい。禍根を残すことなく、一人残らず殲滅したい。やつらの因習は楽園にほころびをもたらすのです」


「言うようになったじゃないか。その通り、因習に囚われた村は楽園にふさわしくない。あの村を地図から消してやろう」


 そうして、私を含めた当時の幹部アイン・ソフ・オウルとカノン院長で私の故郷へと赴いた。


 爆発音。燃えさかる家。逃げ惑い、殺される村民たち。私の同胞ではあったが、何も感じなかった。


「次はもっと派手に爆破してやりましょう」


「ケヒャァッ! その程度なんだね。戦闘民族が」


「……汚いじゃない。死に際に血をアタシにかけないで」


「何も感じない……悲しくもない。私と同じ一族だというのに」


 このとき、私は無だったのだろう。

 おそらくこの事件で私はすべての一線を越えた。


 客観的に見れば狂っている、倫理観の欠片も無い研究にさらなる提案までしてしまった。

 それが『ROSE』。

 元はただのクローン人間だったが、私が提案したのはエネルギー器官のために他の器官の発達を極限まで抑制したタイプ。それを聞いたカノンは苦笑したが。


「そちらの方がエネルギーの枯渇を気にせず楽園を築いていけるのではないでしょうか」


「一理あるな。だが、それが失敗したらどうする?」


 カノンは私の提案を認めてくれたが。


「バックアップのため、元の『ROSE』を確保しておきます。万一失敗したり全滅したときのための保険です。きっとヴァンサンの研究にも役立つでしょう」


「そうだな。そうしよう」


 Ω計画は良い。

 成果を上げ、根拠を示せば認められる。ここでは生まれなど関係ない。すべてが実力で決まるのだから――




 †




 ――もし運命や因果が本当にあったのならば。


「運命……か……ぁ」


 ガネットは何かを言いかけてその鼓動を永遠に止めた。

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