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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第四章 聖女と勇者と精霊と

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78.ヒンターは考える

イデアーレからの報告は、想定の範囲内だった。

やはり、仕込みがあった。

ヒンターは報告を聞きながら、静かに怒りを処理していた。怒りを表に出しても何も解決しない。今必要なのは、順序を整えることだ。


「よくやった、イデア。ブレスレットはそのまま預かっていてくれ」

「ええ。もう少し詳しく解析するわ」

「頼む。それと確認だが、このことはまだリリーには言うな」

「分かってるわ。けれど、リリーとマリーだけじゃなくて、エレナ様やデュオルくんもショックを受けると思う。そちらもどうしようかしらね」

「あ~!そうだ。二人も、だな……。下手したらいや、間違いなくリリーよりもショックを受けるよな……」


はあっ、と、イデアだけなことに甘えて、大きくため息を吐いてしまうが、許してほしい。


「精霊様たちにもだよね?」

「そうだな。リリーたちには内緒にしてもらうようにお願いして……」

「イルスから伝えてもらおうか?あのブレスレットの解析を手伝ってもらうつもりだし。それと、効果を打ち消すものを作らないと」

「ありがとう。そうしてくれると助かる。いろいろ頼んで申し訳ないくらいだが」

「ううん、むしろやらせて。前の事件の時も思ったけど、魔道具を人を傷つけることに使うのは許せないもの。隠してというのがますます気に入らない」


普段より圧が強めだったイデアーレが退室するのを見届けて、ヒンターは椅子の背にもたれた。

窓の外に、夜が来ていた。


シュマール嬢。


どこまで知っていて、どこまでやっているのか。

あの中庭でのお茶の時に感じた違和感を、今更ながらに思い出す。マリーアを見る目が、人を見ていなかった。物語の駒を確認する目だった。

ヒンターは長い付き合いだからこそ、マリーアのことは少し過剰に見てしまう自覚がある。だから最初は自分の思い過ごしかとも思った。

でもイデアーレが確認してくれた。


これは事実だ。


問題は、次にどう動くかだ。


シュマール嬢を問い詰める前に、もう少し全体像を掴みたい。彼女が単独で動いているのか、誰かと繋がっているのか。あのアーティファクトは、彼女一人で設計できるものではない。

誰かが、いる。

学園祭の時に現れた魔王の残滓との繋がりも、疑うべきかもしれない。

ヒンターは立ち上がって、窓際に歩いた。 


今夜、フィスに話すべきか。


話せば、フィスは怒る。リリアンナに関わることだから、怒るのは当然だ。でもフィスが怒りに任せて動けば、シュマール嬢を追い詰めすぎる可能性がある。


テンダーは冷静だが、リリアンナへの気持ちがある分、やはり判断が揺れるかもしれない。


マリーアは——おそらく、一番怖い。聖女の顔ではなく、リリーの姉として動いたら、シュマール嬢がどうなるか。


(……順序を間違えたくない)


ヒンターは窓の外を見た。

街の灯りが、点々と夜に浮かんでいる。


どこかの部屋に、リリアンナがいる。今日作ったブレスレットを手首に通して、何も知らないまま、笑っているかもしれない。

それから、どこかの部屋に、シュマール嬢がいる。

ヒンターは少しだけ目を細めた。

シュマール嬢が何を望んでいるのか、まだ分からない。でも一つだけ確かなことがある。

あの子は、リリアンナのことを道具だと思っている。

それだけは、許せなかった。


「フィス」


独り言のように、名前を呼んだ。


「明日、話す」


覚悟を決めて、ヒンターは書類に向かい直した。

今夜中にやれることをやっておく。

それがヒンターの、いつものやり方だった。


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