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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第四章 聖女と勇者と精霊と

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98.馬車の中にて

「――さ、お茶にしましょうか」


マリーアがそう言って、袖をまくった。


そう、部屋丸ごと移動のようなファーブル王国の馬車は、今日も今日とて快適だ。そして発明したイデアーレと共に乗る奇跡。なかなかだよね!


「相変わらずすごいよね~、この馬車!ありがとうイデアーレ様だよ。ほとんど揺れないし」

「ふっふっふ。緩衝の魔法陣を底に敷き詰めてあるの」


イデアーレは、珍しく少し得意げに笑った。


「馬車で長旅は大変だったでしょう?長旅こそ快適さは大事だと思って」

「イデアは本当にすごい才能よね」


エレナが改めて感心したようにそう言うと、イデアーレの頬がほんのりと赤らんだ。


「そ、そんな、大したことじゃ……」

『大したことだぞ。イデアの発明品は、精霊界でも噂になってるもん』


イルスが得意げに口を挟む。


「え、精霊界でも……?」

「あら、知らなかったの?」


マリーアがそう言って、みんなも一緒に笑う。


お茶の準備が整うと、みんなそれぞれの席に腰を落ち着けた。けど、サーフィスだけは立ったまま、窓の側に立っていた。


「フィス、休んだほうがいいわよ?」


マリーアが、そっとフィスに声をかけた。


「ん、大丈夫だ。少し考え事をしてただけで」

「クリム様の、こと?」


フィスは、静かに頷いた。


「正直、まだどう向き合えばいいのか、分からなくて」

「わたしも正直、同じ」


私は、カップにそっと口をつけながら同意する。


「でも、逃げずに行くって、決めたから」

「うん」


フィスが少し微笑んだ。


「リリーがそう言うなら、俺も腹を括るよ。……って、人に言われてとか、情けないか」

「そんなことはないです!フィス様は、いつも頼りになります」


エレナが珍しくはっきりとそう言うと、フィスは少し照れたように、視線を逸らした。


「そんな、大したことじゃ……」

「大したことよ」


マリーアも、きっぱりとそう言い切る。


「王太子として、皆を率いる立場なんだもの。その重さ、わたしたちも分かってるつもり」


その言葉に、フィスは少し驚いたような顔をした後、静かに頭を下げた。


「――ありがとう、マリー」


そして、その後笑って、ぼそっと続ける。


「マリーにはいつも厳しくされてるから、何か起こりそうで少し怖いが……」

「ちょっと、どういう意味?!」


確かに空から槍が降りそうと、全員思ったことは内緒だ。


「そうだ、テンダーは家族への手紙、渡せた?」


私が話題を変えると、テンダーは頷いた。


「うん。執事が涙ぐんでてさ。ちょっと大袈裟だよなって思ったけど」

『テンダーの家族も、みんな優しいからのぅ』


サラがそう、口を挟む。 


「まあ、心配性なんだよな。俺が小さい頃は、体弱かったから」

「今は、すっかり逞しいのにね」


私がそう言うと、テンダーは少し照れたように笑った。


「リリーのおかげだよ」

「わたしの……?」

「サラの愛し子になれたのも、いつも真っ直ぐに向き合ってくれたのも。リリーがいなかったら、俺、今もきっと、うじうじしてたと思う。図体だけはでかくなったけど」


その真っ直ぐな言葉に、私は少し照れくさくなって視線を逸らした。


「そ、そんな……テンダーの、努力の結果でしょう」

「リリーのおかげ」

「いやいや」

「ふふ、二人とも、相変わらずね」


マリーアが優しく笑って、みんなにも微笑ましい顔で見られて、こそばゆい。



馬車が街道を進んでいく。窓の外には、王都の景色から少しずつ、緑豊かな田園風景へと変わっていった。


「――皆、少し聞いてほしいことがあるの」


不意にマリーアが、そう切り出した。


「マリー姉さま?」

「わたし、実はずっと、迷ってたことがあって」


その珍しく真剣なマリー姉さまの表情に、みんな静かに耳を傾けた。


「クリム様の過去を聞いて、思ったの。想いを伝えないまま、失うことの恐ろしさを」

「マリー姉さま……」

「だから、この旅が終わったら――わたし、ちゃんと伝えようと思うの。ヒンターに」


その告白に、馬車の中が一瞬、しん、と、静まり返った。


「マリー姉さま!」


わたしは思わず声を上げた。


「や、やっぱりそうだったのね……!」

「リリー、声が大きいわ」


ちょっとはにかみながら微笑む聖女。やっぱりヒロインのキラキラは眩しい。


「だって、だって! ずっと気になってたんだから!」

「リリーに気づかれてるとは思わなかったな~」

「気づくよ!姉さまのことだもん!」

『ははっ、リリーの方が興奮しとるな』


ルシールのからかうような声に、馬車の中にまた温かい笑い声が広がった。


「ヒンターもマリーをすっごく大事にしてるもんね?きっと大丈夫よ!」

「そ、そうかな?ありがとう、イデア」


初顔合わせの時から、実は気になっていたらしい。恋愛残念とか言ってるけど、結構人を見てるよね。うんうん。そして美少女マリーアの久々ヒロインムーヴが眼福すぎる。恋する女の子はかわいいのぅ。


「――応援、してるわ。マリー」


エレナの、優しい声。


「ありがとう。……エレナも、いつか、ね!」

「えっ。……ううん、そうよね。いずれ、必ず」


いいね、いいね、恋バナ~!こんな時だからこそ、余計に輝くよね。


「俺、まったく気づかなかった……」

「しょげるな、フィス。俺もだ」


残念男性陣に、周りからまた笑いが起きる。

「でももちろん、応援するぞ」と、二人。


『キャー、恋バナ恋バナ!大好物!』と、はしゃぐウンディーネを筆頭に、精霊たちも楽しそうだ。


重い旅路の中に、ふと灯った、小さな温かい光。


それぞれの想いを胸に抱えながら。わたしたちを乗せた馬車は、シュマール領へと近づいて行った。


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