96.クリムの祠
「その祠って、どんな風に建てられたの……?」
私がそっと尋ねると、リリスは、少し遠い目をした。
『クリムが封印された後ね、しばらくは、みんなみんな、悲しみに暮れていたの』
小さな羽を、ゆっくりと震わせながら。
『でもでも、悲しんでいることを、ティターニア様たちの前で見せられなかったの。ティティ様たちが、一番、傷ついてるって分かってたから』
「それで、隠れて……」
『うん。夜な夜な、こっそり集まったのよ。妖精たちだけじゃなくてね、クリムに助けられたことのある人間たちも、一緒になの。みんなで、手作りの小さな祠を建てたの』
当時を思い出しているのだろう、空を見上げるようにして、リリスは話を続ける。
『石を運んで、彫刻を彫って……窓には、みんなで月の模様を入れたのよ。クリムが、夜空を何より愛していたから』
その光景を想像すると、わたしの胸がじん、と、熱くなるのがわかった。
「そんなにたくさんの人に愛されていたのね……クリム様」
思わず、そう零れた。
(悲しかった時期は、確かに、あった。でも、それだけじゃなかったんだ)
古い石造りの、月の模様が彫られた祠。それは、ただの不気味な魔王の拠点などではなく、かつて誰も救えなかったクリムのために、妖精さんたちや人々が密かに心を寄せ合って建てた場所なのだ。
千年前に、彼を慕っていた人たちが確かに、いて。その想いは、時を超えて今もなお、あの祠に静かに宿り続けている訳で。
――すれ違いって、本当に残酷で、ままならないものだなあ。
いや、でも。
今、彼……クリムが、その祠を拠点?って言うの?依り代?って言うの?に、しているのであるならば。---リリスたちの気持ちも伝わっていたのでは?
封印から少しずつ漏れ出た残滓がたどり着いた場所が、自分を慕う思念の残る祠になるのは、自然な気がする。……想像、だけども。
(だったら――)
その想いの続きを、届けることができたなら。
「――行きましょう」
気づけば、そう口にしていた。
「シュマール領の祠へ。クリム様に、会いに」
その場にいたみんなが、静かに頷いた。
「でも、リリー。わたくしたちだけの判断では行けないわ」
「あ、そうだよね。確かに」
エレナの言葉に、はっとなる。
そうだ、事は魔王と言われる人に関わっていることなのだ、ここで勝手に動いて万が一があるのはいけないよね。マリーアにサーフィスと愛し子のみんな、陛下とかオベロン様たちにも報告しなきゃだし。
それと。
「ソーニャ様。さすがに陛下に報告はしないといけないから、話すことになるわ。けれど、クロ……クリム様が関わっていることだから、きっと大きな処分にはならないと思う。わたしたちもフォローするし」
「リリアンナ様……」
「幸い未遂だし。……でも、騒ぎを起こしたところもあるよね?そこは、きちんと自分で反省しようね」
「リリー、ソーニャはわたくしに預けて下さいな。義妹のことだもの」
『そうそう、癒しのウンディーネちゃんもいるからね!』
「ふふ、うん。きっと陛下も納得されるんじゃないかな」
ウンディーネの協力はきっと大きな盾だ。
ソーニャはまた目に涙を浮かべながらも、「はい!」と、力強く頷いた。隣ではデュオルがしっかりと肩を支えている。
『リリー。我らも精霊の国へ一度戻る。封印も確認せねばならぬしな。帰りは大丈夫かの?』
「うん。サバンズ家の馬車に来てもらうよ。それで、そのまま王城へ行けるように手配するから」
『うむ。ではまた夜にでも参ることにしよう』
私たちはそれぞれに動き出した。




