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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第四章 聖女と勇者と精霊と

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95.届いた声

精霊の国から戻って、数日。

日常は、何事もなかったかのように続いている。授業も、クラブ活動も、いつも通り。けれどわたしの中では、多くのことが静かに渦を巻いていた。


(クリム様……)


千年前の、あの悲劇。その意味を知った今、「クリム」という名前を聞くたびに、胸の奥がじくじくと痛んだ。

そしてその痛みは、そのままソーニャへの想いにも繋がっていた。 


---ソーニャには、まだ会えていない。


(あの子もきっと、似たようなものを抱えているんだと思う)


前世の記憶。もしかすると、愛されたいという、切実な願いがあったのかもしれない。それが、歪んだ形で暴走してしまった。クリムとソーニャ。二人の姿が、わたしの中で少しずつ重なっていった。


押し付けがましくはしたくない。けど、ずっとこのままでもいられない。

デュオルも、毎日門前払いと聞いた。きっと私が行っても同じだ。


「どうするか……。会わないと、話もできないし……。あっ!これはどうだろう?!」


前世と合わせてウン十年、閃きましたよ!


『……で?これがリリーの閃きとやらか?』

「そう!精霊さん飛べるもんね!もっと早く気付けばよかったよ!」


そう、ルシールに抱っこしてもらい、ソーニャの部屋に直撃だ!ルシールは微妙な顔をしているが、知ったことではないのだ、なにせ緊急事態ですからね!


「これは、不法侵入では……」

「うおっ、精霊様、すげえ!」


イルスに抱えられて付いてきてるくせに、うるさいな、デュオル。レントールはサラに抱えられて、はしゃいでいる。


再度私が一人でソーニャの元へ向かうことに反対だったみんなも、四大精霊とエレナたちと一緒なので許可が降りた。ふっふっふ。


「ウンディーネ様、わたくしまですみません」

『いいのよ~!しっかし、リリーは面白いわね!』

「みんなありがとう。やっぱり当事者は揃った方がいいと思って、と、リリス?」

『おや、どうした?このようなところまで……』


ルシールも聞いていなかったようで、少し驚いたように声をかけた。


『うん、あの、あのね。クリムのところへいくのよね?よね?……わたしも、ちょっとおはなし、したいの』

『まだ関わっているかは定かではないが……それにお話とは……お主らは……危険だろう』

『大丈夫なの!お願い、シルフさま』

『しかし……』

「連れて行こうよ、ルシー。リリスにもきっと何かがあるんだよ」


リリスはクリムを怖くないと言っていた。きっと何か想いがあるのだろう。


「ずっとわたしの肩にいてもらうから。ね?」

『……仕方ない。気をつけるのだぞ』

『わあい!ありがとう、シルフさま!リリーも!』


くるくると飛んで喜ぶリリスが今日もかわいい。


ルシールの風に包まれ、私たちは音もなくソーニャの屋敷の二階、部屋のベランダへと着地した。


「失礼しまーす……っと」


解錠をルシールに頼み、窓をそっと開けて部屋に滑り込む。よい子は真似してはいけません。


そして静かにお邪魔すると、ベッドの端で膝を抱えて丸くなっていたソーニャが、びくりと肩を震わせて顔を上げた。


「……リリアンナ、様……?」


驚きと恐怖で目を見開くソーニャのすぐ傍で、黒い靄のような影がさっと身を引くのが見えた。黒い……犬?あれ、私どこかで見たような、見ていないような。


『っ……眩しいな』


その犬の姿が不鮮明に揺らぐ。


「クロ……?」

『……邪魔が入ったみたいだね。また来るよ、ソーニャ』


それだけ言い残すと、クロの気配はまるで煙のように消えてしまった。


「待って!一人にしないって……!」


部屋に残されたのは、呆然とするソーニャと、息を呑む私たちだ。


「ソーニャ様!」


私は駆け寄り、彼女の前にしゃがみ込んだ。


デュオルとレントール、エレナも急いで駆け寄る。


「ソーニャ……! 無事か!?」

「デュオル様……どうして、ここに……」


ソーニャは、次々と部屋に入ってくる私たちを見て、混乱したように目をパチクリとさせている。不法侵入とはいえ、ここまでされては逃げられないと思ったのか、彼女の目にみるみる涙が浮かんできた。


「どうしてって、婚約者だろう?心配するに決まっている」

「こんやく、しゃ、なのに……ごめんなさい……ごめんなさい、わたし、あんなことを……! 私、あなたたちを裏切って、あんなことを……これから私、どうなるの? 処刑される? 家を取り潰されて、一生牢屋に……!?」


パニックを起こしかけ、頭を抱えてブルブルと震えるソーニャ。


そんな彼女を見て、真っ先に動いたのはレントールだった。


「ソーニャ」


落ち着いた声で名前を呼びながら、レントールはソーニャの前にしゃがみ込む。


「……レン……」

「俺たちは、お前を罰するために来たわけじゃないぜ?ただ、お前が一人で抱え込んで、変な奴にいいように使われてないかとかが、どうしても気になってな」


「だって、私……もう取り返しがつかないことを……」

「取り返せるかどうかは、これからだろ」


レントールがフッと柔らかく笑うと、続いて私がポンと手を叩いた。


「そうよ! やらかした分の反省はあとでたっぷりしてもらうし、めちゃくちゃ美味しいお菓子を奢らせるけど、断罪なんてさせないわ。ね、デュオル様?」

「ああ。君が無事で戻ってきてくれるなら、僕は何度だって迎えに来る」


デュオルのまっすぐな瞳に、ソーニャの潤んだ瞳が大きく揺らぐ。


怯えきっていた彼女の肩の力が、ふっと抜け、その目から大粒の涙が零れ落ちた。


「……怖かったの……。誰にも言えなくて、どうしたらいいか分からなくて……本当は、分かっていたの……これは正しいことではないって。でも、正しい話ではないと自分も消えそうで、だから……でもそれも、自分の、ため……」


消えそう、か。前世を思い出した弊害もあるのかな。詳しくは分からないけれど、いつか、彼女の傷も聞いてあげられますように。


エレナはそっと近づいて、彼女の背中を優しくさすってあげている。


「エレナ様、わたし……ごめんなさい、ごめんなさい……!ひどい、ことを」

「……そうね。悲しくなかった、とは言わないわ。でも、あの時あなたに救われたのも確かなの」

「……エレナ、様」

「……わたくしも、間違えたの。今度は一緒にやり直しましょう?」


その女神のような優しさに、ソーニャは子どものように泣きじゃくり、エレナは彼女をそっと抱き締めていた。


ソーニャが泣き止むまで、精霊さんたちも優しく見守ってくれていた。



そしてソーニャが少し落ち着いた頃、私たちは椅子に腰掛け、彼女の話を聞くことにした。


「ねえ、ソーニャ。その……クロっていった?あの子と出会ったのって、いつなの?」


私の問いに、ソーニャは申し訳なさそうに視線を落とした。


「……領地にある、シュマール家の別邸の裏庭です」


そしてソーニャは、今までの全てを話してくれた。


『そのクロとやらは、自分は闇の精霊で、魔王を復活させたいと?』

「はい、そう言ってました」


ルシールの言葉に、しっかりと頷くソーニャ。


『微妙なとこだよね。確かに封印場所とは違うし』

『封印、あと少しとか言ってたみたいだけど、緩んでないわよね?』

『また幻覚かの……?確認が必要かもしれぬ』


イルスたちもそれぞれに呟く。


「森の祠、ねえ……」


私が腕を組んで考え込んでいると、ふいに、私の肩のあたりからパタパタと小さな羽音がした。


『――ねえ、それって、もしかして』


ひょっこりと顔を出したのは、花の妖精・リリスだった。


彼女はきょとんとした顔で、ソーニャを見つめる。


『その祠って、古い石造りで、窓のところに月の模様が彫ってあるところ?』

「え……? はい、そうです!……え、どうして知ってるのですか?」


ソーニャが驚いて聞き返すと、リリスは少し悲しげに微笑んで。


『やっぱりそうだったんだ……。そこはね、昔、クリムのために――私たちが、みんなで作った祠なの』


「……え?」


部屋にいた全員が、絶句してリリスを見た。


『奴を……クリムを封印後に、理解しつつも悲しんでおった妖精はたくさんいたのだよ。わたしたちに隠れて偲んでおったな』


私は、オベロン様の言葉を思い出していた。




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