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異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第四章 聖女と勇者と精霊と

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91.精霊の国へ行こう!その4

始めは、小さな恋心。


『――クリム、聞いて。今日ね、オベロンが』


その日の夜も、ティターニアは星空の良く見える庭で、彼--クリムにそんなふうに切り出した。


『また、オベロンの話か』

『だって、聞いてほしいんだもの』


その頬は、いつも、ほんのりと赤らんでいた。


まったく、この間は何もかもうまくいかないと泣いていたのに……とか思いつつも、そんなことは顔に出さずに、いつも話を聞いてくれる人。


『今日、魔法の制御の練習後に水を差し出してくれたの。何でもないことのはずなのに、なんでだろう、すごく、どきどきしちゃって』

『……それは、良かったね』


クリムはそう答えながら、視線を少し逸らした。


『ニアが幸せそうで、よかった』


と、微笑みながら。


そう、ティターニアは、彼の優しさに甘えていたのだ。彼も同じく、自分に友情を感じていてくれていると、彼の優しさは、誰に対してもであると、思い込んで。


後で聞いた。オベロンも似たようなことをクリムに話していて。


『クリム。お前は、あれだよな。恋愛とか、そういうのに、疎そうだよな』

『急に何』

『いや……その、ティターニアの、ティティの気持ちが、いまいち、読めなくてな』


珍しく歯切れの悪いオベロンに、クリムは思わず笑ってしまった。


『お前、ニアと話す時、いつも無駄に格好つけてるだろう。素直に言えばいいだけだよ』

『言えたら、苦労しない』

『……くく』


そのじれったいやり取りを、クリムが複雑な気持ちで見守っているなんて、思いもせず。


でも、彼が二人のことを応援してくれていた気持ちに偽りはなくて。……だからこそあとあと拗れたのだ。



ある夜、星空の下で、ティターニアがクリムにそっと打ち明けた。 


『クリム。わたくし……勇気を出してみようと、思うの』

『勇気?』

『オベロンに、ちゃんと、気持ちを、伝えてみる』


その瞳は真剣で、そして、少しだけ不安げに揺れていた。


『クリムは、どう思う? わたくし、うまくやれるかしら』

『――大丈夫だよ』


クリムは、静かに、けれど、はっきりと、そう答えた。


『ニアの気持ちは、きっと、届く』


その、優しい笑顔の裏に気付かずに。 


『ありがとう、クリム。あなたが、いつも、背中を押してくれるから』


無邪気に微笑むティターニアを、クリムは眩しそうに見つめていた。



それから、しばらくして。


『オベロンと、番うことになったの』


弾むような声で、ティターニアが、そう報告した日。


『そうか。……何となくわかってたけど。夜の庭に来なくなったし?オベロンと会ってるんだろ?』

『ま、毎日ではないわよ?!近頃は女神様にも褒められるんだから~!』

『はいはい。……よかったな、ニア』


優しい微笑みに隠された、彼の崩れていく気持ちに気付かずに--


そんな平穏な幸せの時間もありながらも、魔との戦いは激しさを増す。


闇に強いオベロンもまた、少しずつ、余裕を失っていったのだ。


ある日、些細なことから二人は口論になった。


『ティティ、お前は少し、クリムのことを気にかけすぎじゃないか?』

『え……?だって、大切な仲間で、だんだんと闇に呑み込まれそうで……』

『奴はお前のことを、まるで、一番自分が知っているみたいに――』


その言葉には、明確な悪意はなかった。ただ、不安と、未熟な独占欲が、うっかり言葉になって、こぼれ落ちてしまっただけだった。


『オベロン、それは……』

『悪い。今のは、忘れてくれ』


すぐにオベロンは、自分の失言に気づいて謝った。けれどその言葉は、ティターニアの心に小さな傷を残してしまっていた。


『……わたくし、クリムに、迷惑をかけていたのかしら』


その夜、沈んだ顔で、ティターニアが夜の庭に姿を見せた。

---つい。落ち込むと、足がここへ来てしまう。


『ニア? 何かあったのか』

『オベロンが……ううん、何でもないの。ただ、少し、考えごとを』


その、無理に取り繕った笑顔を見た瞬間、クリムの中で、何かが音を立てて切り替わった。


『――誰に、何を言われた』

『クリム?』

『言え』


その声の冷たさに、ティターニアは、思わず、たじろいだ。


『オベロン』


その夜のうちに、クリムは、オベロンの元へ乗り込んでいった。


『クリム、何を……』

『お前が、ニアを、傷つけたと聞いた』

『それは、誤解を招いただけで、既に、謝罪も――』

『謝って、済むと思っているのか』


その瞳には、既に、以前のクリムにはなかった昏い光が宿っていた。


『お前は、彼女を傷つけた。なら、僕は――』

『クリム、待て――』


止める間もなく、その場は激しい魔力のぶつかり合いへと発展していった。

夜空を、闇の魔力が、ぎらぎらと切り裂いていく。


『――やめて、クリム!』


ティターニアの、悲鳴のような声が、その場に響いた。


その一声で、クリムの動きが、止まる。


『ニア……』

『そうじゃない……そうじゃないの、クリム。オベロンを、傷つけることはわたくしが望んだことじゃない』


震える声で、ティターニアがそう訴えた。

その言葉に、クリムの表情が、大きく揺れた。


『――何が、違う』

『暴力で、返すことは、わたくしを守ることには、ならないわ』

『なら、どうすればいい!』


叫ぶような声だった。


『傷つけられて、黙って耐えろと言うのか! それじゃあ、また、いつか、お前が――』

『クリム』

『守りたいだけなんだ! 僕は、ただ、ニアを――』


そこまで言って、クリムは、はっと、口をつぐんだ。


自分が、今、何を口走ったのか。ようやく、自覚したように。


『……そうか』


その呟きは、あまりにも、静かだった。


『だから、もう、僕とは一緒にいられないって言うんだよね』

『クリム、それは、違う――』

『もう、僕は、要らないってことか』


その目から、すっと、光が消えていくのを、ティターニアははっきりと見た。


『待って、クリム、そうじゃなくて――』


けれど、届かなかった。


クリムは何も言わずに踵を返し、夜の闇の中へと姿を消していった。

後には、立ち尽くす、ティターニアとオベロンだけが、残された。


様々な、想いを絡ませながら。



景色が、そこでまた、途切れた。


『――あの日から、クリムは、少しずつ、わたくしたちの前から、姿を消すようになっていったの』


ティターニアの声が、深い後悔と共に、そう続けた。


『彼が、本当は、何を、想っていたのか。あの時のわたくしは、気づいていながら、見て見ぬふりを、していたのかもしれない』

「ティターニア様……」

『だから、彼を、引き戻したくて。当時の勇者と聖女に、力を借りることにしたの』


その言葉に、マリー姉さまが、静かに、息を呑んだ。


「その先が――わたしの見た夢に、続くのね」

『ええ』


ティターニア様は、静かに、頷いた。


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