↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生を果たした、おば、コホン、お姉さまは、お嬢様生活のために悪役回避、頑張ります!  作者: 渡 幸美
第四章 聖女と勇者と精霊と

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/121

87.ルシールの動揺

その夜、屋敷に戻ってからも、わたしはずっと考え込んでいた。


あの後みんなと合流して、流れを話して。みんなの心配と気遣いを感じながらも、どこか上の空になってしまっていた。考えることは、


(ソーニャ様……もしかして、転生者、なの……?)


これである。


「イレギュラー」という言葉。「物語」という言葉。あれは、ただの比喩じゃない気がした。まるで、本当に何かの「物語」があって、その筋書きを、ソーニャが知っているかのような。


(でも、それなら――)


もし、本当にソーニャが転生者で、この世界のことを、何かの物語として、いや、『サファイアの君と共に』を知っているんだとしたら。


(悪役令嬢を排除して、何がしたいの)


ヒロインなら……マリーアなら、その思考になるのは分かる。でもあの物語のようにするなら、悪役令嬢必要じゃない?


分からない。ただ、意地悪をしたいだけには見えなかった。あの、鬼気迫るような目。あれは、もっと切実な、何かを守ろうとするような目だった。


ふと、ソーニャの口癖を思い出す。


『わたくし、聖女と勇者のお話が、大好きなんです』


無邪気に笑いながら、そう言っていた。いつも、ただヲタ話だと聞き流していたけれど。


(いや、まさかね……)


「ないないないない」


「あーっ、もう!」と一人叫び、ベッドに横になって、天井を見つめた。


『――我が愛しのリリアンナよ。まだ起きておるのか』


不意に、低く落ち着いた声が響いた。


「ルシー!」


ふわり、と風が渦を巻くようにして、シルフのルシールが姿を現す。相変わらず綺麗な風の精霊さん。


「久しいな。息災であったか」

「うん、久しぶり、ルシー。会いに来てくれて嬉しい……けど、ちょっとこの時間はどうなのよ。レディの寝室よ?」

『そう言うな。なぜだか精霊界が慌ただしくての……例の話を聞いて、心配でリリーの顔を見たかったのに、なかなか来られなんだ。少しでも顔を見たかった』


ふわりと目を細めて、そっと頬に触れられる。顔面偏差値がMAXの精霊さんに、甘く心配されてしまうと、いつも弱い。


「まっ、まあ、今回はいいけどね?!……ちょうど、聞きたいこともあったし」

『聞きたいこと?』

「うん。ルシー、『クリム』って名前、聞いたことある? 妖精さんか、精霊さんか、分からないんだけど……」


その瞬間だった。

ルシーを取り巻く風が、一瞬、激しく乱れた。


『――っ』

「ルシー?」

『な、何故、その名を』


明らかに、動揺していた。いつも余裕たっぷりに振る舞うルシールが、こんな風に言葉を乱すのは、初めてだった。


「少し前に、夢で、見たの。……もしかして、あの、ブレスレットのせい?」

『例のブレスレットか。ソーニャとかいう娘に渡されたという』


ルシールの声が、さらに低くなる。周囲の風が、ぴたりと止まった。


「ルシー、教えて。クリムって、誰なの?」

『……それは』


言いかけて、ルシーは、ぐっと押し黙った。逡巡するように、風がゆらゆらと乱れる。


『すまぬ、リリアンナよ。我の口から、軽々に語れることではない』

「ルシー」

『本当に、すまぬ。これは、我一人の裁量でどうこうできる話ではないのだ。ただ――』


ルシーは、しばらく黙り込んだあと、意を決したように、低く続けた。


『クリムというのは。魔王が、まだ『魔王』と呼ばれる前の、闇の精霊であった時の、名だ』


心臓が、大きく跳ねた。 

漠然と、やっぱり、と思う自分と、まだソーニャを信じたかった自分が、同じように下を向く。


「……魔王、の」

『うむ』

「じゃあ、あの夢は」

『詳しいことは、本当に、我からは語れぬ。許せ』


苦しそうに、ルシールは目を伏せた。


「大丈夫、無理に聞かないわ。でも……」 


わたしは、深呼吸を一つした。


「これってもしかして、精霊の国の、ティターニア様や、オベロン様に伺えば、分かることなのかしら」

『――それは』


ルシーが、少し驚いたように、こちらを見て『いや、もしや今の精霊界の揺らぎも……?』と、呟き、少しの間を置いて口を開いた。


『……うむ。あのお二方になら、語れることもあろう』

「なら、みんなで、精霊の国に伺いたいの。マリー姉さまや、フィス、みんなと一緒に」

『そう、さな……』


ルシーは、しばらく考え込むように黙っていた。それから、小さく頷いた。


『うむ。我から、ティターニア様に取り次いでおこう』

「ありがとう、ルシー」

『ふ、礼には及ばぬ。そなたのためであれば、な。あ、たがやはり礼にハグでもしてもらおうかの?』

「だっ、今、そんな流れだった?!」


じたばたしていたら、結局いつものようにふわっと抱きしめられた。


『――リリー』

「なあに?」

『あまり、思い詰めるでないぞ』


その言葉に、優しさと、それから――何か言えない苦しさのようなものが、滲んでいる気がした。


「うん。ありがとう、ルシー」


窓の外、夜空に浮かぶ月を見上げながら、わたしは、まだ言葉にならない予感を、静かに抱えていた。


(クリム……)


その名前が、これから自分の運命に、どれほど深く関わっていくことになるのか。この時の私は、まだ、知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。