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助けたい!




 伝言を携えたアルベールからの使者に連れられて城に出向いたレティシアは、人払いを済ませた奥の一室に入ってからその事態を知らされた。


「ナターリア様が……そんな……」


 ナターリアはただでさえ気鬱が続いていたところに、己れが母国の一大事を知らされて衝動的に服毒をしたのだという。

 彼女はきっと、この国に頼るものがなかったのだろう。夜会で見た、寄る辺ない、淋しげな姿が思い出される。


(なんておいたわしい……)


 年若い彼女が悲観して命を絶とうとするなど、よほど思い詰めたのだろう。


「解毒剤でできるだけ毒の成分は排除した。後は治癒をかけて、ナターリア様の体力を回復させるのが重要なんだ。そのために君の力を貸して欲しい」

「私の力、ですか?」


 力と言われたことにピンとこず、レティシアはアルベールの顔を見返した。


「前に君の家の庭で、林檎の木に癒やしをかけたのと、同じ事を行って欲しいんだ。私の力の増幅をして貰いたい。そうすればナターリア様の生存率が上がる」


(それは、つまり……)


「ナターリア様は、かなり危ないんですね」


 よく見れば分かることだった。目の前の彼は、先日よりも更に顔色が悪く、かなり疲れた様子をしている。治癒魔法をかなりの頻度で使って、体内魔力を減らしているのだ。


「やります、アルベール様。お手伝いをさせてください」

「よし。すぐにやろう」


 レティシアはすぐに王女が横たわる寝台の傍らへと通された。その枕元にはトラバース伯爵がおり、彼女の状態を監視している。

 寝台に横たわる彼女は、ひどく青ざめた顔をしていた。


「いけるね」

「はい」

 

 王女の片手を取ったアルベールに手を重ね、レティシアはあの時の感覚を思い起こしながら、ただ一心に願った。

 以前にアルベールに導かれたときは、彼と思いを重ね合わせた。王女の身に何が起こったかをあらかじめ話してくれたのは、レティシアがより強く願いを込められるようにとの配慮だろう。


 異国にやってきた、まだ幼さの残る少女。

 どうか、彼女を助けたい。

 アルベールならば助けられる。彼に思いの全てを委ねて、願う。


(助けてあげて……!)


 アルベールの手と触れあった箇所が、熱を持ち始める。彼の気配と温もりがレティシアの全身に広がっていく。

 熱い。

 そう思った瞬間、王女の周囲がまばゆい光に包まれた。


「……どうですか?」

「うん。かなりいい。かなり状態が良くなった。魔法自体が、段違いの出力になったな」


 施術の後に王女の状態確認を行ったトラバース伯爵は、期待に満ちた光を眼差しに浮かべた。

 先ほどの治癒で、アルベールはかなりの魔力を使ったらしい。レティシアの補助があったにも関わらず、彼は肩で息を吐いていた。彼に引きずられてなのか、レティシアの側にもかなりの疲労感がある。



「これを時間をおいて何度か繰り返そう。これなら助けられる」

「何度か、ですか?」


 ここまで消耗する治療を繰り返すのかと純粋に驚いて、レティシアは思わずトラバース伯爵に尋ね返す。


「ああ。少なくとも、あと三回はやって貰うだろうな。頑張ってくれ、レティシア嬢。貴女の体力と力の強さなら、きっといける! 貴女は本当に聖女に向いているな!」

「三回もですか……?」

「生死の境を彷徨っている魂を取り戻すには、強い力が必要なのです。アルベールと貴女がいなければ、どうにもならなかったでしょうな」

「すまない、レティ。治療はこういう感じになるんだ……ここまでのことは滅多にないから、今夜は一緒に頑張ってくれ」


 助けられる、と意気込むトラバース伯爵の横で、アルベールは取り出した回復薬を飲みながら申し訳なさそうな顔をする。


「わかりました、頑張ります」


 こんなに負荷の高い治癒を何度も行うのかと驚いたが、人の命がかかっているのだから、取り組むことに全く異論はない。


「助かるよ。疲れすぎたら少し休んでもらえるように、隣の部屋で仮眠がとれるようにしてある。休みたくなったら、遠慮せずに声をかけてもらえるか。あと、レティも強壮剤を飲んでおいてくれ。強壮剤を飲んでから少し休むと、体力の回復が速くなるから、効率がいいんだ」

「……はい。いただきます」



 彼の言葉に、レティシアは自分が儀式の乙女に選出されて以来、とにかく体力があるのが良いと口々に褒められることを胸の内に思い起こした。

 他に褒めるところがないためかと思っていたのだが、この状況を鑑みるに、あの褒められ方になんとなく合点がいった気がする。


(ものすごく、体力が必要な役目って事ね……)


 先ほどまでは紙のように白かった王女の唇に、微かに赤みが出てきている。

 自分が日々身体を鍛えていたことが王女を助ける力となるならば、この上ない。

 

 傍らに控えて治療を見守っていたマルタンから、効果は高いが少しまずいという強壮剤を貰い、レティシアはそれを意気込んで飲み干した。






お読みいただきありがとうございます。



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