怨嗟の声
「くそ……どういうことだ」
姉の遺児たちからていよく追い払われて、ルーセル子爵はギリッと唇を噛んだ。
(なんと生意気な……)
なんとしてでも、姉によく似た姿のあの娘は手に入れなくてはならない。
それが自分の道が再び拓かれる唯一の手立てであることはわかっている。
高貴な方にその身を望まれたというのに、自分の言いつけに従わないとはとんでもない小娘だ。あれは一度、目に物見せてやらなくてはならないだろう。
(いや、怪我をさせてはまずいか)
白い頬を撲ってやるか、はたまた腕を思い切りねじりあげてやるか、と考えたが、尊い方からは傷を付けぬようにと言われていたことを思い出す。
そうだった。だから、猫なで声であの娘を連れ出して、御前に差し出そうと考えていたのだった。なのに、先日も自分の誘いを断った上に、勝手に婚約をするなどとはなんとも不届きで、ふしだらな娘だろうか。
そんなところまで、あの女にそっくりだ。
「……」
苛立ちが腹の底から湧き上がったことに、チッと舌打ちする。
あの時のことは、未だに思い出すだけでも忌々しい。
あの時、姉は大公の寵姫となることを望まれていた。
家が属していた派閥が祖父の代で主流から追い落とされ、凋落の道を辿っていた我が家にとっては、姉が大公に見初められたことは希なる幸運だった。
数少ない【魅了】の力の持ち主であるし、姉が寵姫となれば、家の復興が果たせるはずだ。
そんな期待がかけられていたというのに、姉は家を裏切り、儀式の乙女の座を捨てて駆け落ちをした。そのことで一族全体が大公の不興を買い、どんなにか迷惑したことか。
大公が亡くなり、今の王の世に変わるまでの数年、家は更に困窮した。それが理由で、自分の人生は潰されたのだ。
(あの女め)
姉が駆け落ちした三年後に大公は病没した。その、たった三年間を姉が寵姫として仕えていれば、今とは全く違う未来があったはずだった。
家は再び主流派に返り咲けたはずだ。
自分はもっと高い役職に就けたはずだ。
持参金の高さで選んで縁付いた今の妻ではなく、もっと身分も高く美しい女を娶れたはずだった。
(どこまでも、私の邪魔をする)
やっと貴き方に取りたてられる道が掴めたというのに。真に仕えるべき方に手を差し伸べられたというのに。
どうして、邪魔をするのだ。
(あの、小娘め)
この責任は、姉の娘にとらせなければならない。そうでなければ、自分はどこまでも報われない。
今度こそ、あの女をどうにかしなくては。
ブツブツと恨み言を口の中で零しながら、ルーセル子爵は己の主の元へ向かった。




