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どうして今更やってくるのか


 母方の叔父がやってきているという知らせに、姉弟は互いに顔を見合わせて、一体なんだろうかと首をかしげた。執事曰く、昨日もステファンが家を出た後に連絡なしの来訪があったそうだ。


「お通しして」


 一応は親族でもあるし、門前払いにするわけにも行かない。

 なにをしに来たのだろうと訝りつつも、叔父を応接室に通すように伝え、二人は出迎えのために身だしなみを整えた。

 婚約を公表した翌日にやってくるとは、あまりいい予感はしない。



「婚約とはどういうことだ、レティシア!」



 二人が応接室に入ると、中で待っていた叔父は挨拶もせずに、レティシアとステファンをいきなり怒鳴りつける。



「私は聞いていないぞ! そんなことは許さない!」

「言っていませんので。叔父上には関係のないことですから、あらかじめ言う必要もないでしょう」


 叔父のその態度によほど腹が煮えたのだろう。

 身勝手な叱責に、先に冷たい声で切り返したのはステファンの方だ。勿論、レティシアとて、叔父の物言いには怒りしか覚えない。

 これまで、ろくに会うこともなく、親戚として付き合ってもいない相手に、こんなにも強硬な態度で口を挟まれるような筋合いではない。



「叔父上は何をしにおいでになられたのですか。姉の婚約は、我が家の当主である兄のエルキュールの決定です」

「子どもが生意気に口を挟むな!」

「兄がいない間は、ステファンが当主代理です! それに、婚約は兄の意向で決まっていたことです。叔父様に許しを請うことではありません」

「そんなわけがあるか。あの男は死んだんだ」


 その言葉には、カチンときた。

 

「兄は行方がわからないだけです」

「違う! 死んだんだ! おまえは私に頼るしかないはずだ!」


 目を血走らせ、叔父は苛立った仕草でレティシアに近寄ろうとした。


「っ!」


 しかし、すぐさま控えていた護衛が彼の前に立ちはだかり、その動きを阻止する。屈強な体つきの数人に取り囲まれると、さすがに分が悪いと悟ったのか、叔父は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「なんだ、この扱いは! 無礼ではないか!」

 

 がなることしか出来ない叔父を、レティシアとステファンは冷たい眼差しで見遣る。


「あなたたち、ありがとう。……叔父様、私の身柄は婚約者であるアルベール様が守ってくださっています。この家も、弟も、保護してくださるとお約束いただきました。ご心配をかけることはありません。どうぞお引き取りください」

「レティシア、おまえっ!」

「お引き取りください」



 退去の勧告を二度繰り返すと、先ほどと同じように護衛が叔父との距離を狭め、彼に退室を促す。

 最後には、護衛の彼らに引きずり出された叔父は、それでもずっと何かをわめき立てていた。


(なんなの、一体)


 叔父が何故こんなにも強硬な態度を取るのか。そのことがどうにも訝しい。

 てっきり叔父はスルト侯爵家との縁組みを聞きつけて、おこぼれに預かろうと取り入りにやって来たのかと考えていたのだが、まさか婚約を反対されるとは予想外だ。


(相手が侯爵家と分かっているのに、あんなことを言うなんて、一体どういうことなの)


 少しすると叔父が敷地内から出ていったことを執事が知らせにやって来て、この後は敷地内にも立ち入らせないようにすると請け負ってくれる。

 素早い手配にレティシアは安堵したが、ステファンは尚も顔を曇らせたままだ。


「どうしたの、ステファン。あんな人の言うこと、気にすることはないわよ」


 特に、兄について言われたことはあまりにも腹立たしかった。

 それを気に病んでいるのだろうと弟の様子を伺ったが、しかし彼は何かを考え込むようにしている。


「姉さん、おかしいと思いませんか。兄さん、もしかしてあいつになにかされたんじゃないでしょうか」

「なにかって? なにも……出来るとは思えないけど」


 なにかされたという言葉がピンとこなくて、レティシアはきょとんと弟の顔を見返した。

 あまりにも腕自慢の兄なので、すぐにそれは無理だという考えに行き着いてしまう。長身で鍛え抜かれた身体を持つ兄と痩躯のあの叔父では、体つき自体が二周りか三周りほども違うだろう。


「……姉さんがなにを考えているかはわかりました。でも、僕が言いたいことは違うから、真面目に聞いてください」


 ステファンがまずはこほんと咳払いをした。


「確かに、だいたいの人は腕っ節では兄さんにはかなわない。でも、それは兄さんと正面切っての喧嘩や決闘をする場合で、もっと違うやり方も出来るはずです。言いたいのは、兄さんが襲撃されるようになにか手を回されてたんじゃないかってこと。ジュリエット殿下を襲撃した犯人も、主犯はまだ判明してないんですよね。それを計画した奴らに、あの人がなにか関わりがあるのかもしれません」


「ステファン……それは……」


 捕らえられた実行犯の一部は、国境付近の街でたむろしていた盗賊崩れだという。

 裕福な商人の娘が留学のために通るので、荷物を奪って、誘拐して身代金を取るのだという話で雇われたそうだ。話がおかしいと分かったのは襲撃を開始してからで、相手が王族ならば、はじめから請け負わなかったと言っていると聞いた。

 現地の混乱に乗じて、襲撃を指揮した数人はすぐに姿を消してしまったらしい。

 捕らえられているのは雇われ者ばかりで、そのためにまだ事の全貌はつかめていない。

 得体の知れない相手であるが、それと通じているのではないかと言われると、やっと弟の言いたいことが腑に落ちる。


「それにあの人、なんであんなに姉さんに執着するんだろう。おかしいですよ」


 ステファンの指摘通りに、叔父はやけにレティシアに執着している。

 前回の訪問の折は、エルキュールが戻らないうちは、年長のレティシアこそが弟の盾にならねばと気負って彼に対応していた。

 そのために自然とレティシアの話になるのだと思いこんでいたが、縁組みとしては破格の筆頭侯爵家との婚約話に反対を受ける理由がそもそもわからない。


(まさか、あの夜のことと関わりがあるの?)


 もしかしたら、夜会の日のかどわかし未遂に、あの叔父も関わっているのではないか。



「……」 


 一応は血の繋がった叔父なのだから、まさか、そんな。


 そう言って弟の言葉を否定したかったが、二の句を継げずにレティシアは黙り込んだ。


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