夜会(3)
「こちらでお休みください」
声をかけてきたのは、先ほどのメイドのようだ。彼女はレティシアをソファに座らせてくれている。
(大丈夫……なの……?)
ちゃんと休ませてくれているのだから、怪しいと思ったのは間違いだったのかも知れない。
そんなことをぼんやりと思う。
けれど、それが本当かどうかも分からなかった。
「あ……アルベール…様…を」
掠れた声で、なんとかアルベールの名を絞り出す。そこまでしか言葉に出来なかったが、レティシアが何を言いたいのか、メイドは察したらしい。
「お連れ様はすぐにお呼びして参ります」
「ん……」
彼女の返答にホッとしたが、先ほどまで気持ち悪さとはまた違う、おかしな感覚が身体を巡っていることに気付く。
(なに……これ……体が熱い……)
水が欲しいと言いたかったが、メイドは既に姿を消した後だ。
レティシアの身体を支えていた女も、どこにもいない。
あれは一体誰だったのだろう。
考えようとすると、ズキッと頭が痛んだ。
「っ……」
意識がもうろうとする。アルベールはどこだろうか。いつ、ここに来てくれるのだろうか。
早く、早く来て欲しい。
(頭が…痛い……)
目尻からつぅっと涙がこぼれ落ちて、頬を冷たく濡らす。
涙が冷たいと思うほどに、頬が火照っているのだ。
「たす…け…」
苦しさに呼吸が荒くなる。釘を打ち付けるような激しい頭痛が苛む箇所を片手で押さえながら、ぎゅっと身を縮こまらせる。
そうやって、なんとか苦しさに耐えながらアルベールを待っていると、ドアが開く音がした。
「!」
室内に、数人が入ってきた足音がする。
増していく痛みのひどさに目を開けることもままならないが、部屋に入ってきたのがアルベールでないことは気配で分かった。
男たちが発しているのは、アルベールを取り巻く清洌な、安心できるオーラとは全く違う。生臭いような、嫌な感覚だ。
「準備ができたか」
入ってきた者たちが、小声で何かを話し合っている。
知らない男の声だ。
(なに……?)
痛みにのたうちながら震えていると、腕を強引に捕まれ、身体を引き起こされた。
「きれいな顔をしているな。これならいい」
大きな手がレティシアの顔を掴んで検分する。ぞっとするような声だ。
「はな……して……」
なんとか声を絞り出した。
「怯えなくていい。このままおとなしくしていれば、すぐに何も怖くなくなる」
「や……」
このままでは、何をされるか分からない。恐怖に震えながらも、レティシアはソファの肘掛けに必死にしがみついた。どんなに苦しくても、手を離してはいけない。咄嗟にそう思った。
(助けて……!)
頭の中にアルベールの顔が浮かぶ。
「っ……!」
アルベールの名を心の中で呼んだ瞬間、レティシアの全身をまばゆい光が包み込んだ。
「なんだ!」
「障壁だ、触れられないぞ」
光に弾かれた男たちが、悔しげにチッと舌打ちをする音がする。
「仕方ない。もう人が来る。行くぞ」
彼らのリーダーはすぐさま撤退を決めたらしい。男たちの気配が去っていく。
(痛い……苦しい……)
しかし、身体はますます熱を持ち続けて、激しい頭痛は続いている。自分がどうなるのかわからなくて、レティシアは肘掛けにしがみつきながら身をよじった。




