癒やし手の力(後)
「私がどういう年の取り方をするかは未知数だから、君への伝え方も迷っていたんだ。もしかしたら、君とは将来的に釣り合いがとれるかもしれない。レティシア嬢が儀式を終えて、【魅了】の力で私の仕事を手伝ってもらえるならね」
「一体、どんなお仕事でしょうか」
「私は父の仕事の手伝いの他に、自分では癒やし手の力を使って療養所の運営や治療や薬学の研究に携わっているんだよ。【魅了】の力とは元々相性がいいから、私や他の治療師の力の増幅役になってもらえたらありがたいと考えてたんだ。つまり、私と結婚しても、聖女と殆ど変わらない仕事をしてもらうことになる。【魅了】の力で光魔法の増幅をしていると、使い手と同じように光魔法で老化が遅くなるものなんだ。長く務められた聖女の方々とお会いしたことはあるかな。年に比べて、外見がお若い方が多かったと思う」
「はい。そういえば……」
言われてみて思い返すと、そのことには納得がいった。
引き合わされた教会に残る聖女達はかなり年かさのはずであるのだが、誰もがかなり若々しい外見をしていたのだ。
「司祭達も皆、長命だろう。光魔法を使うから、基本的に体が頑健なんだ」
「そうなんですか」
聖女教育に携わる司祭達は、誰もがかなりの年嵩だ。随分と元気だと思っていたが、てっきり、摂生した生活を送っているためなのかと思い込んでいた。
(だから、アルベール様は許嫁がおられなかったのね)
アルベールの身分ならば、幼い頃からの許嫁がいてもおかしくない。彼がこの年まで誰とも婚約をしていないのは、不思議ではあったのだ。
(だったら、確かに私は婚約者としても都合がいいのかも……)
長命の体質のことを聞けば、自分が婚約者に選ばれたことにも理解ができる。
彼の言うとおりならば、自分は【魅了】持ちだからこそ、アルベールに寄り添えるのかもしれない。
「私は父の仕事を手伝っているから教会には所属できないが、代わりに母の実家とも協力して、民間での療養所を広げていきたいと考えているんだ。【魅了】の力を持つ人は、仕事をするつもりならば教会に所属しないとだろう? それを今後、療養所所属でも職業として確立できないかと考えている。そのままだけど、治癒力増幅師のような名称をつけて」
「! 賛成! それ、大賛成です!」
アルベールの語る展望にはっとした。それはまさにレティシアが夢見た事柄である。
彼のように具体的にどんな職業とは思いついていなかったが、【魅了】の力が貞淑な聖女か男をたぶらかす悪女か、といった二分化された印象を持たれることのない、役に立つまっとうな仕事として受け入れられるようにならないかと願っていた。
水属性や土属性の魔法が農業や土木工事にまつわる職で使われるように、【魅了】が役立つ事で働くことが出来れば、何かが変わっていくはずだ。
(すごい、この人……同じことを考えてくれてる)
興奮で乱れる呼吸を落ち着かせるようにと、レティシアは両手で口元を押さえつつ、アルベールの姿を見遣った。
こうしないと心臓がドキドキして、身体から飛び出てしまいそうだ。
「レティシア、君は少し自分の力の使い方を知った方がいいと思うんだが、私が手ほどきをしてもいいだろうか」
「手ほどき? アルベール様、そんなことができるんですか」
思いがけないことを言われて、驚いて尋ね返した。
「ああ。私は癒やし手だから、治癒の魔法を増幅させる【魅了】の力の使い方を教えることも出来る。きちんとやり方を学んでいて、これまでにも教会に属して修行をされる方の手伝いをした経験が何度もあるんだ。……まだこの家の周囲には障壁が出来たままだから、今なら察知されにくい状態で、【魅了】の力の使い方を少しだけなら教えることが出来る。教会では儀式を終えるまで教えない方針だけど、レティシア嬢は何も教わらなくてもあれだけのことが出来るから、むしろ自分で力を制御するために使い方を少し知っておいた方がいいと思うんだ。やってみてもいいかな」
「お願いします」
アルベールの申し出は、今の自分には願ってもないものだ。
レティシアは力強く頷いた。
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続きは明日更新予定です。
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