侯爵家嫡男と、その腹心にして幼なじみ(前)
元気の良さとハキハキとした受け答えがいいと思った。自分を前にすると、恥ずかしげに頬を赤らめ、口数も少なくなる令嬢が多い中、はじめからしっかりと自分を見据える彼女の振る舞いはなんとも凜々しく感じられた。
兄が行方不明の今、自身がその代わりを務めるのだと気を張っている様子がうかがえて、そんな気丈さがかわいらしいと思える。
婚約を申し入れても、胡乱な話ではないかと疑ったらしく、こちらの出方を探っている様子がしっかりとあった。うまい話に手放しで飛びつかず、地に足のついた考え方をするところはかなり好ましい。
その点は弟と二人、慎重なところが大変に良かった。
(ああいうところは、まさに手助けをしたくなる感じだな)
姉弟共に、自分たちの出来ることは精一杯やろうとする態度がよく、友人から受け取った手紙に書かれていたとおりに、「見所を感じる」といった姿だ。
自分がそういう人間を好むことが、エルキュールにはすっかりと見抜かれている。
レティシアのみならず、ステファンも将来の部下として、手元に欲しいと思える感触がある。
(まったく、野生の勘は見事だよ)
レティシアが母方の親戚との押し問答する声も聞こえてきたが、その内容から彼女は頭の周りが良く、はっきりと物を言えるタイプであることがよく分かった。
自分と直接対峙したときの、警戒をする様子もよい。差し伸べられた手に飛びついてきても、それはそれで可愛いと思えただろうが、きちんと疑うところを持つような性格の方が安心が高い。むしろ、そうでなくては家に迎えることはなかなかに難しい。侯爵家に嫁いでくれば、海千山千と渡り合う機会もあるのだから。
将来を誓い合う相手を全身全霊で守ろうとは思うが、ともに戦える女性であるならばより一層心強い。
彼女ならば自分と並び、戦ってくれるだろう。
レティシアはそういう女性だろうと見当がついた。
(よかった。ものすごく良かった)
つい、笑いが漏れた。
やっと直接会うことが出来たが、実際に言葉を交わしてみると、彼女は思い描いていた以上に可愛らしかったし、良かった。
物怖じしない態度は以前と変わらない。
はじめに、かつてレティシアの母と相対した思い出を口にしてしまったのは、レティシアの姿にその時のことを思い出したからだ。
あの時の愛らしい少女は、想像の通りに、母親によく似た美しい姿に育っていた。
美しいながらも、その眼差しには強い光が宿っていて、綺麗で、心奪われた。
すごく良い、と思う。
「楽しそうだな」
にやにやと笑うアルベールに、友人は呆れた様子で声をかけてくる。遠縁でもあるマルタン・トラバースはアルベールの遠縁で幼なじみであり、同い年の友人で、片腕でもある。昔からの気の置けない仲だ。
彼としては、人を呼びだしておきながら何を一人で笑っている、と文句の一つもつけたいところなのだろう。
「うん。ようやく彼女に会えたけれど、かなりよかったよ」
レティシアに会いに行くことは、マルタンにはあらかじめ伝えてあった。
サフィール子爵家へ向かう直前にもマルタンと会っていたので、足取りが浮かれていてみっともないと釘を差されたほどだ。
「姿が?」
「姿も性格も。すべてだ。気に入った」
彼女の美しい姿も、声も、その一挙一動も、今でも目にしっかりと焼き付いている。
自分の妹なのだから、あれは絶対に気丈な女になるとエルキュールは言っていたが、その通りだった。
気丈で、凛としていて、美しい。
「媚びない感じもいい。あと、慎重だ。求婚したら、二人とも私のこと疑っていてね。しっかりとしているよ。きちんとこちらの出方を探っていたし」
彼女に感じた美点を並べ上げて、アルベールは友人に向けてにこっと笑う。
「とても面白いよ、彼女は。それに弟もエルキュールの推薦の通りだったな。役に立ちそうだ」
「またか……」
楽しげにするアルベールを見て、マルタンが顔を曇らす。
「なんだ?」
「また、おまえの変わり者好きか。悪い癖が出ているぞ。婚約者までそうやって選ぶ気か」
アルベールには悪い癖がある。
彼がいう「面白い」とは何かしらの一癖があることで、そういった人員で周囲から浮くタイプの者を勧誘して自分の配下に置くことがよくあるのだ。
「心外だな。俺は本当にレティシアがいいんだ。それに、いつでも俺が見込んだ者は優秀だろう?」
才能はずば抜けていても、少し変わっていたりで周囲とあまり折り合わないタイプを配下にして、アルベールは彼らをうまく使っている。
実のところ、マルタンも真面目すぎて、融通が利かず、仕える者を選ぶタイプだ。本人はまったくその自覚はないようだが。
「そもそも、変わり者といえば、俺自身がそうだろう」
「おまえは……そんなことを言うな」
アルベールが口にした言葉に、マルタンはますます難色を示す。
留学時に学んだ知識でこの国を変えていこうとしているアルベールは、年若故に侮られて、影で変わり者だと言われる事が多い。マルタンはその陰口を心底から嫌っており、たとえアルベール自身が口にしても、ひどく怒るのだ。
彼のそんな生真面目さもまた、アルベールにとっては好ましいと感じられるものだ。
「そんなに気負うな。俺は本当に人を見る目はあるよ。小さい頃、おまえを選んだこともだ。本当にまずかったら、おまえが止めてくれるだろ、マルタン」
「まあな」
「信頼しろ。おまえもきっと、レティシアのことを気に入る。そうだな。できるだけ早めにおまえにも会わせよう。彼女も、彼女の弟のことも気に入るよ、きっと」
「そんなにか」
「ああ。俺は絶対に彼女を逃さない。……うん。好きなんだ、彼女が。ずっと」
アルベールが決心した様子で独りごちる。
その姿を、マルタンは目をすがめつつ見遣った。
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