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学校とは


 この国の学校制度は、貴族の子弟が幼年学校で基礎的な学問と体術を、上級学校ではそれに加えて教養や語学、魔術ほか専門的な科目を一部選択制で学べるようになっている。

 基本的には男子と女子で校舎が分かれており、双方への立ち入りは厳重に管理がされている。男女別の校舎を繋ぐように中央には合同での授業を行える棟があり、領地経営や外国語などの専門性のある選択授業は男女混合で行われるカリキュラムとなっていた。これは近年、校舎の建設から制度まですべて新たに作られたものである。



 昔から魔術の使い方や騎士としての技術を磨くための学舎があるにはあったが、学校制度は今の王の代で劇的に変革された。

 大陸の中央に存在する、政治的に中立な学園都市に運営資金の寄付と参加の宣誓を行い、学校教育の参考とするための視察団を送り、全面的な改革を行ったのだ。そのために十五年ほど前から、この国の貴族の子弟はこれまでとは全く違う新しい教育を受けられるようになった。


 大きな戦乱が終息し、各国が平和への連帯を進める中で、これから必要になるのは語学や経済学、衛生学、領地経営についてなどの座学だと指針が立てられ、同時に女子教育にかなり力が入れられるようになった。国の貴族のあり方を大きく変えるべきといった方針が定められたのだ。

 それまでは個人で家庭教師を雇うしかなかった科目も、一部は学校で学べるようになった。これは台所事情が厳しい弱小貴族にとっては大変にありがたい。

 これが今の王と、宰相であるスルト侯爵の尽力の結果である。

 だから、レティシアとアストリッドは、アルベールの父である現侯爵に尊敬と憧れと感謝を抱いているのだ。




 中でも男女ともに経済学や領地経営についてを学べるのは、かなり大きな成果だろう。まだまだ困難はあるが、女性が一人で身を立てていきやすくもなった。

 これまではごくまれに女侯爵など、高位貴族の家で女性が当主になることがあったが、下級貴族でもそれが認められるようになったのも大きい。アストリッドは一人娘なので、いざとなれば自分が爵位を継ぐのだと真剣に語っている。


(アルベール様かあ……)


 教科書を開きながら、レティシアは自分の婚約者についてを考えた。

 アルベールは早々に留学をしてしまったが、それでも国内にいた期間には、彼は新しい学校教育において、常に一番の成績を出してきたという。新しい学校教育とはつまり、性別や身分にとらわれず、忖度せずに、実力のみを見て成績を出すという環境だ。

 彼の父親がこの教育導入の主導者であったために、初めこそアルベールの成績は父親におもねった評価だと吹聴されたが、彼は実技試験や授業中の受け答えで皆の目の前で実力を見せて、その疑惑をはねのけたという。

 実力主義の成績評価のおかげで、兄も騎士団に幹部候補で入団という抜擢をしてもらえた。


 そういったことを考えると、スルト侯爵家の父子には本当に感謝しかない。

 制度改正の恩恵に預かるだけでなく、生活面でも補助してもらえているのだから、全く頭が上がらぬ状態だ。

 しかし、レティシアがアルベールと婚約したからこその待遇だと思うと、この環境に慣れてしまうことが逆に怖かった。



(すごく、ありがたくはあるんだけど)


 

 婚約破棄をして彼がレティシアから手を引いていったら、元に戻るだけだと分かっていても、護衛やメイド、料理人の派遣や、不自由のない生活物資の持ち込みと金銭的援助が無くなるのは惜しいと感じてしまうことだろう。

 それが慣れるということだ。

 かといって、かなり前から聖女になって教会に属して生きていこうと思っていたために、自分が誰かと結婚するという未来像はどうにも描きづらい。


(私、あの人を好きになれる?)


 基本的に貴族間の婚姻は政略結婚や、血筋で決められて、形ばかりの義務を果たす婚姻が多い。跡継ぎとなる子を産み育てることも、貴族女性の義務だ。

 それが理なのだとわかっているけれど、自分の両親は互いを恋慕っていたことをレティシアは知っている。わかる範囲では、生まれてすぐに許嫁になったというアストリッドの両親もかなり仲がいい。

 だから自然と、そういう関係に憧れていた。



 我が家も、母は後妻であるので兄とは血はつながっていないが、そんなことは関係なしに家族皆が仲の良い家族だった。

 自分はそんな家庭をアルベールと築けるだろうか。



(実感がない……けど、贅沢なんだろうな。こんなこと考えるのは)



 互いを恋慕える相手と結婚したい。

 それがレティシアの描く理想であるし、父への恋を貫いた母が若い女性の間で憧れとして語られるのは、どこかでそれを夢見る娘が多いからだろう。

 だが、そんな理想を叶えるのが難しいと分かってもいるので、聖女になる方がいいと思ってもいたのだ。

 今とて聖女となる方が安全だと思えるのだが、それでもアルベールと結婚する可能性もやはりある。事がどう転ぶかは、まだ予測が全くつかない。



 兄の知己で、年齢も近く、才能に満ちあふれたアルベールが結婚相手となるのは、ものすごい幸運だとはわかってはいる。ただし、彼の中身はまだわからない。

 それでも歳の離れた男の後妻や妾になることを考えたら、天と地の差ではある。


(あの人が本当に、いい人でありますように)


 実のところはもう一つ大きな気がかりがあるのだが、まず一番に願うのは兄がとにかく生きて戻ってくることだ。

 久々の授業を上の空で聞きつつ、レティシアは心の中で大神に深い祈りを捧げた。




お読みいただきありがとうございます。



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