73.戦獣奪還戦(4)
三回の呼吸程、間が開いた。答える時間は十分あった筈だったが、彼女はその時間を『臨戦態勢』へと裂いた。
駆ける。一歩踏み出したかと思えば、いつの間にかラヴがそれを抑えている。二人の動きが不自然な程に滑らかに、素早く処理されるようにウスズミの視界には映されていた。
一閃を。弧を。穿ちを。打撃を。ラヴは海洋生物の権能と自らに蓄積された経験を以て、ルリは与えられた有り余る権能を以て、命を刃に乗せたまま互いの手札を制する。
しなやかに、柔らかくラヴは避ける。刺突は空を貫くも、ルリ自身も堅実に、顕著に反応してラヴの鉄塊による斬撃をいなしている。
━━しかし、その均衡はすぐに、崩される。
ラヴが槍の柄に押し退けられたかと思えば、トクサを見向きもしないルリはウスズミの位置へと辿り着いた。
外骨格に連結された雷電鋼刃は既に励起状態にある。故に、ルリの持つ槍とぶつかり合った瞬間、ウスズミとルリは迸る青白い電流に包み込まれた。
「━━『人はかくあるべし』。ウスズミさんはそんな風に思ったことは?」
「…ある。きっと、誰しもそう思うだろうッ…!」
「はい。私もそう思います。…私が何より、そう思ってました。
どん臭くて、何をするにも半端。せめて一つでも得意分野があれば。『これさえ出来れば』なんて、毎日考える自分が、正直な所嫌いでした」
「……ッ!!」
━━脳裏にかつての、彼女が映る。だが集中する。
ほんの少しだけの間。確かに押し負けた。今此処で雑念を抱くべきではないと、ウスズミは再度腰に力を入れる。
「…………そんな、『そうだったら良いのに』『こうありたい』。そんな抽象的な、漠然とした象徴を表出する技術力が、アカツキにはあったんです。けれどもそれは、人を信じられないが故に『完全凍結』されていたみたいで。
私に授けられたのは━━」
「━━それだと?」
憐憫。悲哀。今のルリが浮かべる表情に名前を宛がうならば、それらが当てはまるだろう。
手を差し伸べようとも救えない。そんな自分自身への哀れみ。最大の自己嫌悪の末、彼女はウスズミに自ら吹き飛ばされた。
「……呼称を、『人為破綻者:英雄』。強くあるべしと願う姿を『能力』とした、独善的でなんでもアリな破綻者です。
本来であれば私の役目はもう一人のモノでしたが……こうして話せたのなら、あながち不憫という訳でもなさそうです」
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「敵の破綻者を自由にさせるな! A、B部隊は可能な限り妨害を続けよ!」
一方の地下、襲撃は殆ど同時だった。否、厳密には此方側の方が少し遅かった。
迫り来たのは総合防衛行動師団『アマテラス』を主体とした編成部隊。一瞬の閃光が視界を埋め尽くしたかと思えば、次に耳と頬を引き裂いたのは銃口から鳴り響く雷火の音。
数は不明。人工労働力もその銃撃に応戦するが、それを許さない存在が一人。鉛飛び交う戦場を跋扈していた。
「っざけやがって!! テメェアイツに着きやがったのか!!アサギッ!!!」
「……僕は、与えられた任を全うするだけだ。 怪我したくないのなら大人しくしていた方が良いですよ、スオウ!」
かつての同志。かつての仲間。同じアカツキの破綻者だったターコイズの懐刀。スサノオ中尉『アサギ・フツミタマ』は、躊躇と容赦を排して立ち塞がる。




