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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
六歩目:戦獣奪還、開戦す
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66.約束




 「……………っ」



 脱衣場にて、一人。ウスズミは雷電鋼刃(インパルスブレード)ごと外骨格を腕から取り外す。

 直後に走る疼きにつられて、全身が強張る。息を縛り、疼痛が六回程波打った所でようやく、目を開く事が出来た。


 ……信じられない事に、外傷は一つも無い。

 外骨格の熱が肌を焼いた訳でもなく、新兵器の電撃が肉を裂いた訳でもない。至って健康的な肌色の下、そこだけ風化させられたかのように身体がダメになるような痛みが襲っている。


 ウスズミは落胆と同時に感覚で、『きっとこうなるだろう』と呑み込めていた。呑み込んだ上で、彼は戦場の外から指揮するのではなく、戦場の上でかつての友と相見(あいまみ)える事を覚悟した。



 演習とは言えども、雷電鋼刃(インパルスブレード)の威力に『(ぬか)り』は無い。高圧の電撃を帯びた刀身が一瞬迸れば、後に続くのは必殺のみ。故に、外骨格との併用でなければ使用者への負担は今以上に大きくなる。……ラヴの思惑は一つではなく━━━



 「リーダー」



 "ガチャン"という大きな音は、ウスズミの思考を塞き止めた。扉を開けたのはスオウ。場所が場所という事もあり、ウスズミの顔には一瞬焦燥が垣間見えた。



 「……誰も居ないから別に良いだろ。それより、身体は?」



 彼女の表情は、少しばかり険悪だった。ウスズミの脱力した右腕へと視線を集中させ、投げ掛ける言葉も『追及』を思わせる強いものだった。



 「あ、あぁ…。『見ての通り』だよ。()()()()()()()()()()()()()()



 しかし、彼女の望む答えは出さない。ウスズミ自身の決断、彼を縛り付ける決断に対しての責任。心配させれば、スオウは必ずラヴに対して『交渉(こうげき)』を仕掛けるかもしれない。


 ━━ウスズミに一歩、一歩と近付くスオウ。視線の先に引き寄せられるように彼の側まで辿り着いたスオウは、『彼の纏った化けの皮を剥がす』。


 右腕を強く掴み、その腕に彼女は抱き付いた。



 「痛ッ………!!」


 「……ほらな、嘘付くの下手くそ過ぎんだろ。実用化されてない試験機の導入に、副作用が無いなんて都合の良いことがあるか。


 高威力、高出力。引き出す為には堅牢な部品(パーツ)が必要だ。…それでも限界ってのはあるんだよ。堅牢だろうが放出される力が強けりゃすぐに磨耗して、ダメになる」



 抱き付く腕を話さず、彼女は続ける。



 「アタシの得物なら、リーダーも扱えるだろ。……なら交換してくれ。私がそっちを使う。


 戦闘慣れだってしてるし、何よりアタシは破綻者(イレギュラー)なんだ。部品としての質は私の方が━━」





 「スオウ」




 絡んだ彼女の腕をほどく。強く握っていた力は諦めからか、次第に弱々しくなると自身の力のみで腕を引き抜くに至った。



 「……空を、見るんだろ。トクサと」


 「分かってる。ありがとう、スオウ。


 ……でも、(キナリ)からは逃げられない。逃げちゃならない。僕の命を嘲笑われても、一番あってはならないのがトクサの道が断たれる事だ」


 「だったら!!」



 ほどいた腕を、更に掴んで。

 ウスズミの聞いた事の無い、腹の底まで裏表のない彼女の泣き声が部屋を埋めた。



 「私を…使ってよっ…! あんな危ない物…私に任せれば良いじゃん…っ!!


 トクサは仕方ないかもしれないけど…、っ今まで私は…!」



 彼と彼女の問答の末。先に糸が切れたのはスオウだった。トクサを守る為の懐刀として此処まで在った彼女は、たった一人の少女としての顔をウスズミに覗かせる。


 アイデンティティの欠如。役割の損失。━━否。たった一人の男、『開けた世界』に親友(トクサ)と共に連れ出してくれたウスズミが、悲惨な死に様を迎えるかもしれないと訴えていた。


 ……腕が痛む。スオウの涙も、ウスズミに突き刺さる。



 「━━戦争、なんだよ。これは」



 だからといって、折れる事は無い。彼女の涙に負ける事は、此処に来るまでの軌跡を、犠牲への裏切り。掛けられない天秤に無理矢理宛がう事は、何よりも彼自身が許さない。


 今、戦争の渦中に居るウスズミ達。スオウだって理解している。僅かな共感が彼女を脱力させ、二歩だけ後退する。



 「現行の労働力(スレーヴス)では耐え切れないから、僕が選ばれた。僕がやらなければ誰かがやる。…誰もやりたがらない以上は強制執行も已む無しだろう。


 残酷な決断も、戦争では致し方のないモノ。君は僕以上に分かっているだろう?」


 「…………」



 黙り込むスオウ。


 だから、今度はウスズミが彼女へと歩み寄る。



 「一つ━━いや。()()()に頼まれてくれないか?」




 彼はそのまま、スオウに対して一つの『約束』を交わした。静けさが再び広がる室内、約束の内容は否が応にも耳へと届き、脳は理解した。それは人としての生態上、仕方の無い機能が果たした物だが。


 スオウは心底、『聞きたくない』と思っていた。

 だが━━回答は返さなくてはならない。



 「………うん、約束するぜ。リーダー ……絶対に、死なないで…よな?」


 「善処はするさ」

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