65.新兵器導入
白い群像の中を、黒い影が紡いだ。
淡く、目映く、実体を伴った緑色の閃光が影に混ざると、宙の上。その姿形が露となる。
『自己改造型蹂躙戦獣トクサ 戦闘態』、黒染めが侵食しながらも彼女は己を保ち、隊列を組む労働力の悉くを蹂躙し続けていた。
「━━動力液足りッかな…これ」
彼女は一個として、人間だ。しかし事実として兵器としての機能を保有し、それを運用する算段も存在した筈だった。結果としてそうはならなかったが、迎撃を目的としてこれから運用される。
例外に例外を重ね、勝機を増やす。その一つとして、彼女を『運用』するに至った。保有する戦闘能力・権能を、短時間の中で彼女は支配しなければならない。スオウはトクサのバックアップとして、ラヴの隣で仁王立ちをしている。
「ッッ━━!!!(前方20……充填問題なし━!!)」
最もたる『例外』は、ウスズミだった。
烏羽色に光る、鎧を彷彿とさせる外骨格が彼の右腕を覆い、常に淡く放電している両刃が、彼の回りを切り裂くように迸る。
トクサが縦横無尽を往く中、地に足を付けて雷電を纏う彼は。労働力を横に、縦に、薙ぎ払っていた。
「電力、電圧良好━━。残量80%━━。刀身の磨耗・損傷は10%未満━━。
動ける。……まだやれる値だ」
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「━━これは?」
時は少し遡る。ラヴに呼び出されてたウスズミ。その興味は目下に置かれた鈍色のケースに注がれている。小さなテーブル目一杯に置かれた、型番号のような文字羅列の描かれたケースの留め具を外しながら、ラヴは続ける。
「兄弟にも戦場には出てもらう。駅で見せたお前の瞳は、例え人の良さでも誤魔化せんぜ」
「なっ……ちょっと待」
問答は無用、とでも彼は言いたげなのだろう。外された留め具をは多きな音を立ててウスズミの言葉を遮ると、ケースに保管されていた携行兵器が、彼の眼前へと提示された。
「天性の才能でも与えられた権能でもない。平々凡々ながらも突き詰められ、裏打ちされた技術。…そこに『こんなもん』を追加したら、どうなるかな?」
「どうなるっ……て……。 そもそもこの兵器はなんだ?見た感じは軍鉈に見えなくもないが…」
アカツキにも同様、軍刀をベースとした錬鉄強化軍刀『カマイタチ』なる近接戦闘用兵器は存在する。提示された物も恐らく、同様の目的で製造された刀剣類の兵器なのだろう。
ただ、相違点は幾つもあった。両刃の際立ったような刀身は、刀身とも砲身とも見れる造りをしており、持ち手も内側に内包されている。鞘も存在せず、何かしらの外媒体と繋げる為の管が付いている。
造型は至って普通にも見えるが、用途を上手く総合する事が出来なかった。
「そうさな…命名するなら『雷電鋼刃』って所か。管に付いてる端子を外骨格に取っ付けて、一緒くたに運用する携行兵器。外からは勿論、少しでも穴が開きゃそこから敵兵器をショートされられる優れモンってな。
外骨格とは電力を供給し続け合ってるから、下手に外すんじゃねーぜ?」
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「━━何考えてんだ。お前」
「意外な駒が戦場に居れば、まず動揺を誘える。加えて新兵器の投入だ。アイツは決して弱くは無いが、如何せん『色味』が無ぇ。
新兵器はアイツの色味になってくれるだろう。あの外骨格もワカバのデータから算出して作り上げた、いうなればプロトタイプの従兄弟みてーなモノだからな。すぐにゃ壊れねぇし、壊れるような運用も兄弟はしねぇだろう」
「試運転はしたのかよ。実用化のされてねぇ外骨格と専用装備に、信用に足る部分は何処にある?」
ラヴの沈黙の向こう。ウスズミはただ刃となって、群れを薙ぎ払う。何かしら抱えているにせよ、彼は至って『普通』の範疇にいた。別世界の記憶を保持してるとはいえども、ただそれだけだ。
何処か、欠けた場所から崩れるように。彼は至る箇所が変質するだろう。…スオウはその可能性を見据え、もたらした張本人であるラヴに、『答えろ』と睨んでいた。
「……俺としても不本意だ。決して副作用が無いとは言えない。大きな問題として、時間が限りなく不足している。
ウスズミはリスクを飲み込んだ上で雷電鋼刃を装備した。この後身体にガタが来たのならば、俺達は全力でサポートをするつもりだ。……彼には敬服しかない。平々凡々でありながら、彼は他の者には絶対に出来ない選択が出来る」
……問いはすぐに返ってきた。 耳こそ疑わない、想像に難くない返答。
しかし、やはり。試験運用すらも無い不明瞭な兵器によって、彼は限界を越えた力を手に入れていた事を事実だと認めたが、スオウはそれでも言葉を飲んだ。
━━仕方の無いことだと、小さな胸に言い聞かせて。兵器の名前の如く雷電の弧を描くウスズミを見て、彼女の表情は少しだけ切なくなっていった。




