~暴走、そして励起~(3)
その場から動ける者皆が対抗すべく、動いた。
腰に携えた己が装備を自らの手に握り締めた。
…しかし、同時。タイムラグの一秒も無く、銃口は中将達の動きに合わせて再び突き付けられた。 年長者達が構える錬鉄補強突撃銃『クズリュウ』によって、拮抗した緊張はより冷たさを帯びる事と相成った。
「……『破壊特化型蹂躙戦獣』とやらの説明をするんだろ?お前がいったんだぜ、ネタバラシって」
…けれども、その選択をキナリは取らないだろう。彼が自らこの状況を作り上げた。その理由は転覆でも殺戮でもなく、提示だと彼は宣ったからこそ。ロマネスクは沈着な口調を崩さなかった。
「そうだったそうだった。失敬。…では皆様方、ご静聴ください。 これからの提示、独白……いや」
「━━『暴露』を」
見据える瞳は対面に座す男。かつて自分自身の傾倒していた計画を、廃棄へと導いたターコイズへと向けられていた。包囲網さえ無ければきっと、彼は懲罰を覚悟で首を落としに向かっただろう。
━━しかし、不可能だ。彼は渦巻く可能性の中に閉じ込められ、ただ焼き切れんばかりの怒りを堪えていた。
「まず、ロマネスク中将の提起した問題に関して。『クロガネ・ホーマ』は所謂、犯罪者に与していたホーマ家の面汚しです。『頼んでもないのに』、独断で保管庫へと侵入。奪取した情報を僕に提供してくれましたよ。
関係性があるとすれば…僕に信奉して『勝手について来る』鼠。とでも言っておきますよ」
━━しん、と静まり返る中。キナリは続ける。
「僕の理念というか…プロトタイプ計画が廃棄された時から基本的な設計は変わりませんよ。この国には決定力が欠けている。切り札…爆発力のある交渉材料が無いんですよ。
そうなれば何れ、大国に呑まれるでしょう?クレランスは現在も尚、勢力を拡大している事でしょう。…ですから、僕が設計しました。独断ではありますがやむを得ません。なにせ、今は戦争中ですからね?
ですから、提供された情報を元に『協力』して頂きました。志願してくれた者達には感謝しきれません」
静寂は継続する。…否。結果的に継続しているだけだ。誰もが、ただ一人の暴露に対して疑心と不和を抱いていた。
『然るべき時に備えての致し方の無い選択』だと、キナリは語る。信用の在処すら不明の口から垂れ流される言葉の何処を真実だと受けとれば良い?
残っているのは『呆れ』を通り越した何か。虚無でも怒りでもない、ただ言葉を出すのも億劫になる程の嫌悪。感じられるのはそれだけだった。
「破壊特化型蹂躙戦獣は自己改造型の基本設計を参考にしています。今回の一件で不要だと分かった『自己改造』という機構を排斥し、蹂躙戦獣の名に相応しい権能を搭載しました。
まず総合的な戦闘能力に特化していなければ蹂躙は出来ません。その為、幾つかの戦獣、破綻者のデータを参照、実験的に運用し、最適化された『モノ』へと構築致しました。形態の変化に関しては最小限に留め、外側からも内側からも………」
「もう良い」
故に、事切れるのも時間の問題だった。普段であれば荒げた声で噛みつく筈のターコイズが、静かな一声でキナリの暴露を停止させる。
腰に下げる太刀を抜刀━━。旧世代の武器ではあるが、その鈍く、黒く反射する刃。此処までターコイズの命を繋ぎ止めてきた愛刀の切っ先は、必然としてキナリへと向いていた。
「破壊特化とは笑わせる。壊れた己を投影して悦に浸り、非認可兵器を独断で開発。愚行を得意気に語る姿は実に滑稽だったが、もう面白くも何ともない。
その首、此処で差し出せ。貴様は此度よりアマテラスの師団長ではなく、ただのならず者だ」
無論、抵抗に対して反応を示す年長者達。現に一人は突撃銃の弾丸を一発、ターコイズへと放った。
━━縦に描いた一文字は、撃鉄を裂いた。
破綻者ですらない、人としてその所業は異常━━。彼の一閃は『剣』としての象徴を、体現するモノだった。 一切のブレもなく、無駄もなく。彼は彼の身体一つで『斬鉄』を成し得た。
「あぁ、一つ言い忘れていたことが」
━━笑っていた。
人の身で練り上げた技術を鼻で嘲るように、彼はターコイズの言い分を無視した。端から彼の事などキナリは眼中に無い…『同じステージにすらいない』と、彼はターコイズを尻目に見つめた。
そして、場面が━━
「ぁがッッ!?!?」
場面が、動いた。
座していた椅子も、テーブルも。
ターコイズよりも後ろにあったモノの全てが、強風に吹き飛ばされたように強く、押し出されていた。
「━━実戦投入はこれから行われるんですよ。『戦獣奪還』という、僕が主体となる作戦で!」




