64.戦士の独白
一方のクレランス陣営。先に控える戦闘に備え、防衛の策を講じる最中。主張が拮抗しながらも、着実に。堅実に話し合いは進んでいた。
「……ホンキで肩入れしてるってんじゃないよな? ラヴ。
脱走兵とはあくまでも同盟を組んだに過ぎない。切り捨てる手段だって、切り捨てざるを得ない手段だってあるんだ」
「あら、ビウスは意外と消極的なのね? ホント、その辺りしっかりしてるわよねアナタ」
「からかわないでくれよアニシモ。アンタの声は首裏にくる」
ラヴの回答はすぐに返ってきた。
「……同盟だとしても兄弟は兄弟、だからな。そう易々と掌は返せねぇ。それにワカバの予測もある。
敵国の誰が首謀者で動くかは明確だが、其処に付随する不確定要素は多い。ならば俺達の誇りをかなぐり捨ててでも、『守り』にタスクを裂くのが最も有効だ」
彼等にとって『進軍』…悉くを呑むかの如く前進する攻撃こそが在り方であり、誇りだった。誰がいったか、『攻撃は最大の防御』をままに再現した戦い方は、アカツキに『国の形をした災害』と例えられた。
それをねじ曲げて初めて、今回の戦いは釣り合いが取れる。それがラヴの考え方だったが、誇り・矜持を捨てる事を、彼と同じく『将』である英雄と賢者は容易く首を縦には振らなかった。
「妥当ではある。…でも妥当なだけじゃ定石は崩せないぜ、ラヴ。 『終末の蜥蜴』のオリジナルも居るからって、慣れない守りに手を染める必要はない。いつも通り雑兵を呑み返せば良いじゃないか」
特にビウスは強く反論する。彼は状況の妥当性ではなく、『クレランス』が主体となって動く事に意味を見出だそうとしている。 既にウスズミ達がアカツキ陣営には無いとしても、あくまでも彼等はビウスにとって脇役でしかなく、何より彼等は常に『勝利』してきた。
それは、『だからこそ』の慢心と言えた。
「ははっ、賢者らしからねぇ発言だ。 …そもそも、戦争に定石なんてもんはねぇだろ。あるのは不定形の理不尽のみ。いつでも突拍子でふざけているし、この世で一番の『無駄』を生み出す。
一時の気の迷いをまるで『天啓』扱いするんだ。それは俺達だって例外じゃない。━━準えるなら、それが唯一の定石だろう」
一呼吸置いて、ラヴは続ける。
「俺達にとって勝利は当然であり必然。進み続けた先にあるのが俺達の未来。……だが、今回。それが通用するかすら不明瞭だ。
かつて存在した大国も、潤沢な資源を保有する中立国も俺達はこの掌に収めた。…近い未来その『ツケ』を払うかもしれない。『誇りに生きる』だなんて言えばカッコいいが、『死人に口なし』で捨てられるのが常だろうぜ」
独白のように、何という事もなく。綴られる言葉の末に、彼は自らの軍服の胸元のポケットを開けた。
……一本の煙草が指には挟まれていた。今となっては銘柄も分からないその煙草の意味を、アニシモは分かっているようだった。
「━━ラヴ、それに火を付ける事がどういう事なのか分かってるのかしら。私達は常に必勝……それは今回も変わらない。
そう願っていれば結果は自ずと着いてくるのよ?」
「アニシモ。…アンタなりの励ましってヤツだろうが、今回ばかりは聞けねぇな。 死ぬつもりは毛頭にねぇが…」
忠告の言葉を横切った彼は、くすんだ銀に照らされたジッポライターを器用に開き、揺らぐ炎の中に煙草の先を包み込む。
「それでも…『やって来ちまった』時。せめて煙草を吸っておかねぇと妻の顔すら思い出せなくなっちまいそうだ」
最愛の者、彼にとって、この世で最も尊い存在の為に、煙草は吸わないと誓った。……『死の間際』までは。 だからこそアニシモはラヴの煙草を取り上げようと、思い止まらせようとした。 ……しかし、ラヴは良くも悪くも『クレランス』の在り方に染まろうとはしなかった。
背後に常に付きまとう死神の存在。現象として、人生の先にある『死』。この灰塵世界大戦の中で、彼は最も大きくそれを感じていた。
「……まぁ、タダでは死なねぇさ。アニシモは念の為、本国に増援要請。俺とビウスは人工労働力に動力液の充填と、ウスズミ達のウォームアップ。短い間だが、忙しくなるぜ」
煙草の灰が少しだけ揺蕩い、そのまま卓上に散っていく。切っ掛けとなったのか、ラヴは自らにフォローを入れる。
しかし、それは宛ら『付け焼き刃』でしかないと、きっと誰もが思うだろう。




