~暴走、そして励起~(1)
「地下居住区確認されていた懸念点…反国家組織は壊滅状態となりました。我々には免罪符もあったし、『軍罰主義者を匿っていた』事実も裏付けされています。
目に見えない意思は知らぬ間に増えますからねぇ。土壌すらもめちゃくちゃにしてやりましたよ。ゼロを越えてマイナス…この国の反国家組織は、しばらくは出てこないでしょう」
人の生き死にが交錯した。赤炎の襲う地下のとある場所を黒煙が覆った。その残滓は未だに消える事無く、地下居住区において最も高い浄化機構の作動が確認された。
…にも関わらず、その語り手の紡ぐ言の葉には誰も取り合おうとせず、其処にいる全員が座した卓上に映り込む自らの顔を眺めていた。
「……おやおや、どうされました皆様方?」
まるで変わらない彼の抑揚、彼は至って大真面目だ。あくまでも彼自身が変容しないだけで、求められている要素を否定しているだけ。
そんなキナリを察してか、一人。アサギが場の空気を残したまま彼に発言する。
「……キナリ。善意で教えるが、キミの心証は今最底辺にあると考えておいた方が良い。信用も支持もない、虚ろな権威でなんとか踏み留まっている暴君でしかない」
「………………」
「『プロトタイプ計画』の廃棄から、キミはいつになく躍起になっていた。それは妄執か報復が原因だと僕は推察する。
軍罰該当者となった理由…プロトタイプを持ち出した罪がトリガーならば、キミの性格上怒りの矛先は彼に向く。 それが今回。本当に、本当に上手く回っていただけだ」
キナリは反論しない。朽葉が風に振り落とされるように、ただ迫る言の葉に身を任せている。
「━━今こうして、嬉々と報告を続けられるような立場ではないだろう?ありもしない信用を担保にするのは……まるで自棄としか思えない」
━━10秒。
━━20秒。
やはり、彼は口を開かない。何処か余裕のある表情は相変わらず、テコでもそのスタンスは動きそうに無かった。
望まぬ臥薪嘗胆。比較穏やかであったアサギの瞳には明確な『怒り』が浮かんでいる。
「話の腰を折るようで悪いが、ツクヨミでも一つだけ、この場で改めてほしい事項が確認された。元帥、発言の許可を」
声を挙げたのはロマネスク。断ち切られた会話の隙間に収まる様に挙手をすると、一つ紙を携えて奥まった席を向いた。
「━━許可する。報告を続けよ」
申請許可により、彼は座した席から立ち上がる。同席していたウグイスからいくつかの書類を受け取り、彼は続ける。
「…アカツキには生粋の破綻者以外にも、スサノオやアマテラスに配属される兵。その個体戦力の維持や後発の兵器研究におけるデータを取得する為に管理している人工破綻者が存在する。勿論、戦場に出張ってもらう事もある、貴重な戦力だ。
…そのデータが、一部『消失』している」
━━反応は無い。しかし空気は変わっていた。
空気に蔓延する不信に火が付けば、後は確信が広がるだけ。沈黙の中、やはりというべきか。
そこにいる者の視線は最も黒い者…キナリへと向いていた。
「……皆様揃って、私を悪者扱いですか?」
此処に居る者は少なからず、詳しい説明を求めるだろう。『何故居なくなったのか?』と。それは誰に求める? …勿論、一番疑わしいヤツだ。
「疑心を招く行動、不遜な態度、素振り。……全部お前の撒いてる種だぜ、キナリ」
不信が確信に。1が10に。要素が積み重なれば何れ、100を迎える。飽和した確信は『確定』へと変質する。
━━彼の手に握られている一つの書面は、それに値するモノだった。
「俺はお前に事の、主に『関係性』についての説明を求める。お前がツクヨミから引き入れた、『クロガネ・ホーマ』に何をさせている?」




