~敵国にて戦士と賢者は語らう~
「やれやれ、敵国は呑気なもんだな。そう思わないか? ラヴ」
紙を静かに打つ音が、ホールの中に響いては消えるを繰り返す。それ以外に連なる音は無く、似合わぬ顎髭を蓄えた青年は一つの書類を、指先で退屈そうに叩き続ける。
卓上に腰を掛けた二人の男は、クレランスの『賢者』と『戦士』。それ以外の姿は影も形も無い。勇ましい黒くうねった墨を身体に刻む戦士、『ラヴ・オクタルフ』は男から書類をつまみ上げ、内容を目で追った。
「……呑気ってのは少しだけ違うぜ、兄弟。 奴さん共は気付いてねぇ。気付かねぇ程に対応に追われてるんだ。
二度目の潜入任務。しかもやってんのは擬態能力を持ったアニシモじゃねぇ。……な?呑気してても気付ける事に気付いてねェんだぜ、『ビウス』」
書面に記されているのは、アカツキに関しての報告書。……『プロトタイプ計画』の廃棄、所属する兵による内乱、逃亡。━━全貌が赤裸々に綴られていた。
進軍都市国家の名前は伊達じゃなく、彼等はアニシモの残した芽を継続させていた。
いつ、何処で。それを考えるにはもう遅いだろう。 全てが筒抜けに、白日の下に晒される。恐らくはこの書類も、その一欠片でしかない。
「あー…その女の名前を出さんでくれ。股座が反応しちまうからよ」
「……まァいい女なのは認めるが、お前その内アニシモに首取られるぜ、きっと」
賢者『ビウス・ワスパイダ』は突拍子もなく、唐突に口走る。同時に『それよりも』と一呼吸を置いたラヴ。発言の主導権を横から奪い去り、止まらなくなる色情魔を抑制する。
「『仲間』は多いに越した事は無いよな? 幽閉された要塞から、外に旅立った。……奴等にとっては今、何もかもが不足してる。それを狙わない手は無いと思わないか?」
何もかもが内側で解決する世界。生きる者全てが歯車として生を受ける世界。
閉ざされた要塞から一歩を踏み出した事に、彼は尊敬した。
一切の嘲笑無く、多大な咎を背負う事になる一歩を賞賛した。
屍の上に立ちながらも尚、此所まで歩いてきた罪に畏怖を抱いた。
故に『利用』する。何もかもが不足している彼等の立ち位置を、此所に至るまでの軌跡を、原動力を、持ち物を、命を。彼等の全てを肯定する事と引き換えに、彼の全てを上書きすると、睨み据えた瞳が語っていたのだ。
「あー…そうなれば我々にとっては一番『面白いかも』ね。アニシモのお陰でアイツ等の隠し玉は分かってたし。
━━━━━━も居るからね」
不敵に笑むビウス。それに釣られる形で強面のまま笑声をあげるラヴ。 ━━今現在、いつ如何なる時に戦火が広がるかも分からない渦の中だ。 仲間は多いに越した事は無い。この国の在り方は生き物だ。━━糧を得なければ衰退し、いずれ待つのは崩落か焼失だろう。
白んだ沈黙の走る空間を、一つの答えだと受け取ったラヴは一つの拍手の後に、発言を続ける。
「…決まりだな。善は急げ…だっけか? 良い言葉だぜ。なんせ俺達にとっての善にも適応される位に便利だからな」




