57.白日の下、再開を果たす
決まった目的地へと進んでいる筈なのに、寸毫が悠久に感じられる。途方もなく続く暗闇の中、耳に入るのは鉄の車輪の音だけ。
何時間もの間、列車に揺られるウスズミ達。彼は変わる事のない車窓の先をじっと見続けていた。
「………………」
『きっと、いずれ。僕は近い内に殺されるだろう』 彼の脳裏に揺蕩っている言葉だった。
張り付いて消える事のない、漠然とした未来予想。正当か不当か等関係無く、一つの国に楯突くという事はそういうことなんだと自覚している。した上でこの列車に乗っている。 トクサを空へと連れていったその先、何事も無く生き残る姿を、ウスズミは想像出来なかった。
……否、彼自身がそれを━━
「……!」
一度、僅かに強く振動する。次に速度が低下する。その連続は、目的地への到着の合図なのだろう。 『裏切りこそあったものの、一人として欠ける事なく、アカツキの向こう側へと辿り着く事が出来た』と考えるウスズミの傍ら、二人の少女は目を覚ました。
「…着いたのか?」
「………ふぁぁ…」
静かに問い掛けるスオウと、寝惚け際に欠伸をするトクサ。列車内での静けさの中、その光景は唯一の平凡だった。 残されたタスクは、ローライトの到着を待つばかり━━
「━━!!」
目を見開き、胸元の襟を強く握り締めるトクサ。怯えにも受け取れる彼女の震えは、二人の気をより強く張り詰めさせた。
同時、ウスズミにもそれは表出化する。『かえし』の付いた悪意が等身大の刺となって脳裏を穿つかのように、裏返った感覚が風に晒される。 具体像は浮かばない。剥き出しとなった第六感が警鐘を鳴らし続ける。
『悪い予感がする。到着する場所に、間違いなく何かがある』と。
「どうした!? 二人共!?」
「━━戦闘、準備。したほうが、いい。
…何か、いる。駅にきっと、敵がいる…!」
車輪が一度鳴る度に、駅との距離は近付いていく。 『何かが居る』と伝えられるのが、今の彼女にとっての限界点。精一杯だった。
「(………違う…その『気配』……僕は知っている…ッ!)」
「……信じられないけど、ゴメン。スオウ。
━━━"其処に居る"」
『まさか』と思った刹那。記憶に新しい、鋭利な感触がウスズミの頚に、一文字を描いた。刃物とは異なる僅かに熱を帯びたそれを、彼は知っていた。
『爪』。哺乳類生物の指先にある、硬質化したタンパク質。しかし、それは人のモノだと謳うには、あまりにも長過ぎる。
「━━まさか、ちゃんと辿り着くことが出来たなんて嬉しいわ! まさか本当に"白日の下"で会えるなんて、思いもしなかった!」
其処に無かった形を伴って、視界の内側に現れる。屈託のない声には、行動と裏腹に敵意を感じさせない。 それでも、トクサとスオウは警戒を解く事は無い。『対立』の体を崩さないかの如く、強い目付きで彼女の築いた精神の牙城を睨んだ。
アカツキで交えた彼女の爪は、今度は止められる事なく、ウスズミの首に突き立てられている。クレランスの『英雄』、アニシモ・リオニグレはボックスシートの背凭れの上、器用な体勢を崩して木目の床に着地する。
「もう間も無く到着する。ローライトは貴方達の同盟国ではあるけど、根本の立ち位置は機構国家ではない『中立国』。
大きな提案があるの。貴方達にとっても決して悪い話じゃないと思うわ!」




