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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
六歩目:戦獣奪還、開戦す
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56.砕かれた宝玉は鋭さを向く



 「宝玉体質……?」



 青髪の少女が居た。彼女はとても気弱だった。それが災いして、彼女は自らの居場所から幾度となく、望まぬまま手を離さざるを得なかった。


 ある時は自らの弱さが、ある時は相手の狡猾さが理由となって。悪辣を纏った正義の鉄槌を彼女はその身に受け続けた。 ━━しかし、此度は違う。



 「……少し入り組んだ話になるが、端的に言うのならば継承記憶体に込められた願いが『異端』過ぎた。こんな願いじゃどう生きても辛くなるだけだが、『出自』を掘り進めりゃ納得しちまう。


 ルリ・ベルトロール。…お前の血筋は、この国にとって『素材的な価値』があるんだよ。残念な事にな」


 「……素材的な……」




 理由は鍵にも炸薬にもなる。幾つもの要素が拮抗し、生まれた軋轢によって離れ離れとなった。瓦解した。崩壊した。


 ━━その一因となる理由は、自分には無いとルリは思っていたのに。対峙するツクヨミ中将『ロマネスク・クーガー』は、彼女に理由を与えようとしていた。



 「アンタにゃ高い潜在性が秘められている、本来であればエリートになりやすい体質だ。……だが、この国が第一としているのは『繁栄』。残酷であろうとそれによって国の歯車の潤滑剤となれば、躊躇なく決行しやがった。


 …ルリ・ベルトロール。お前の両親は既に死んでいるな?」



 その問い掛けによって、ロマネスクの鋭い眼差しは酷く冷徹に捉えられただろう。聞き返す余裕もルリには無く、ただ塞がらない口から困惑の息を漏らす事しか出来なかった。



 「……何故…今? そんなことをなんで聞くんですか…?」



 ━━ロマネスクの顔が歪む。『事実』を告げて良いものか、彼女の中に怨嗟の種を撒くような事をする事は正しいのか。それが責務であっても、誰が彼女を救うのか。


 事実は救わない。決して目の前の少女を幸福にはしない。……けれども、このままでは彼女は再び居場所を失ってしまう。ウスズミに与していたという事実は、間違い無く彼女を奈落へと陥れるだろう。



 「……暗部によってずっと隠されている、アカツキの汚点。 それは、『宝玉体質を持つ者を材料として浪費している』事だ」




 ━━ロマネスクの選択に、沈黙が広がる。


 感情、記憶、情緒、記録。全てが脳漿の中で混ざり合い、一つの答えへと導かれる。いくら彼女であっても、此所までくればもう『呑み込めてしまう』。


 彼女は拒否する。否定する。しかし、そうとしか考えられない。故に彼女はその身体を震わせ、自らの両手で頭を強く締め付ける。



 「違っ……絶対無い…父さんと母さんは……そんなっ……!!」


 「━━━━━━」



 あぁ、と。ヒビの割れた硝子のように。返された沈黙と苦渋の表情で、ルリの瀬戸際に抑えていた理性は、情動が牙を為した。


 在るがままに叫び、金切り声を発して、ロマネスクに向けて振りかざすナイフ。怒りの感情が暴発して、止まらなくなる事はロマネスクも分かっていた。『一端を知る自ら』に矛先は向くだろうと。



 「……アンタは悪くねぇ。機械的に淡々と言われて、『はいそうですか』なんてなる訳がねぇんだ。嫌な情報ばかりを押し込められてよ」


 「……ッッ!! ………ッッッ!!!」


 「だがよ。アンタはそれ以上に清らかで優しい子さ。


 こんな状況下ですら『一回だけ』だ。急所でもなんでもねぇ、腕に一ヶ所掠り傷を加えた程度で、そんな悲しげな顔をするなんてよ。 …そりゃ弱みでもなんでもねぇ、アンタの慈悲深さの現れだ」



 褪せた鋼の壁に突き立てられたナイフは、ロマネスクによってルリへと返される。穿たれた一線は、彼の腕の肉を切り裂くに留まるも、鮮血は僅かに壁と床を赤色に汚した。



 「……ルリ二等兵、お前の上官はこの国の中将よりも立派だ。デカイ博打に自らの首を賭け金として差し出した。 この国の秘匿兵器(たくらみ)を間違ってると審判して、俺なんかとは違って楯突いたんだ。


 誇れ。残った二人とは違う道を歩んだアンタは間違っていない。……だから、決断してほしい」



 ルリは未だに震えている。それは恐怖ではなく、自らの罪悪による物だ。ロマネスクが良しとしても、それは変わることがないだろう。


 しかし同時に、彼女は頷いた。罪悪の泥を被りながらも、その先に待つ物が何であろうと。自らの両親の命を奪った『この国』への忠誠に



 「━━私はもう、泣きません。第8班の皆との日常が返って来なくても、私自身が救われなくてもいい。


 この国の在り方を根本から否定出来るのなら……私は全てを捧げますッ━━!」



 中指を立てる、鋭い気概は残っていた。

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