55.汽笛
やはり僕は冷静とは言い難い状態らしい。自分自身の言葉の整合性を取ることが出来ていない。
僕達を狙った襲撃によって、街の一角が包囲されている中。商業区はひたすらに慌ただしくうねっている。 そんな中で物資の調達なんて出来る訳もない。
弾薬も心許ない。価値のあるブツは自らの命を守るための武器のみとなった今。
「…此所だね」
━━僕達は、なんとか駅舎まで辿り着く事が出来た。
鉄の柱を組み木細工とした意匠の門構えの向こう側、暗く薄ぼんやりとした山吹の灯りが延々と続いてる。胡蝶の夢で語られる『スチームパンク』を彷彿とさせる、鉄と灰塵を織り混ぜた『発展』を象徴するそれは、まるで僕達以外の者を寄せ付けないように静まり返っていた。
「……おおきい、広い」
目下に広がるのは天辺の白熱灯に照らされる、薄ら淋しい鉄道のプラットホーム。見慣れたようで見慣れない、来た事があるようでやっぱり無い。生まれ故郷の筈なのに、何処か異国を訪れたように思える造りは圧巻の一言だった。
「なんか……上とは全く違うな?やけに豪華っつーか…、ただの移動手段なのにこんなデカくする必要あるか?」
が、この大きさはスオウにとっては疑問の塊らしい。年齢にそこまで差は無い筈なのに、何故こうも感想が違うのだろうか。
「僕達が普段使っていたのは単なる一直線の管だけど、これはどちらかといえば『巣』になる。 此所も一つの終点でありながら、別の目的地への始発点になる。 きっと、いくつもの流通品が各所から届くんだろう」
記録の一端として、僕は知っている。列車は決して単なる移動手段ではない、世界基盤の支柱を担うインフラ設備の一つだと。 物流の雪崩を駆け巡る貨物列車、道中を景色や食事で彩る観光列車。出勤や通勤に用いる電車。恐らくこの地下に存在するのは前者…貨物線のみだと推察出来る。
「……おーおー、アンタ等か?カラスバが必死になって渡そうとしてたのは」
駅舎に木霊する、およそ人のモノとは思えない声。響いて渡ればざわめきのように空間を跋扈し、トクサは怯えてスオウは青ざめる。
「……駅員の方で間違いはないか?」
「まァね、厳密には違うが…。どうせ来るだろうと思ってローライト行きの臨時列車は止めてあるよ。
あの騒ぎだと、もうカラスバはダメだろうなぁ」
しかし、そんな些細な声の違いを気にも止められなかった。僕も同じように考えていたからだ。
出入り口の向こう側、極彩色に紛れた炎の色が明滅を繰り返しているのが見えた。それが答えであり、結果だった。
「……カラスバさんから、託された物です。話は通っているやもしれませんが、受け取ってくれませんか」
懐にしまった乗車券を、有無を言わさず駅員の手に握らせ、トクサとスオウの二人を列車まで先導する。後は動力さえ動かせば、何事もなければローライトに到着するだろう。
……その時、確かに駅員の顔は引きつっていた。僕の行動を決して良いものとして見なかっただろう。
「━━律儀なヤツだ、バカ野郎」
その時、駅員から漏れだしたのは『悔恨』を、僕の耳は聞き取っていた。しかし、それすらも気のせいだったかもしれないと、呟きを覆い隠すかの如く甲高い汽笛は、広いホームに鳴り響いた━━。
六歩目 終




