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22.戦火の訪れ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 「クレランスの奴等め……我々をコケにするような真似をっ………!」



 現在置かれている状況の報告を受けるのは、総合攻撃行動師団『スサノオ』中将、『ターコイズ・アグヴァルロ』。告げられた言葉は、老いた血肉を強く疼かせた。


 受けた報告は以下の通りだ。



 『内部からの攻撃行為に端を発した、敵国の奇襲作戦が展開中』



 この国は敵国(クレランス)に、『まんまと出し抜かれた』。常軌など逸するのが当たり前と言わんばかりに、容易くこの国のセキュリティを越えてきた。


 浮き彫りになる筈の境界線すらも、彼は見る事が出来なかった。


 鮮やかで、完璧な潜入だと。だからこそ、彼は強く(いきどお)る。そう思わざるを得ない時点で、彼等に一つ勝ち越されたのだから。



 「……ターコイズ中将。アマテラスのキナリ中将からの協力要請が届いています」



 ワナワナと震えながら、シワの寄る額に青筋を浮かばせるターコイズの右隣。深刻な状況下であるにも関わらず、冷静さを保ち続ける若い将校が、通信端末に流れてきた信号情報を読み上げる。



 ターコイズはキナリを気に入っていない。双方の価値観や思想の基礎は根本的に異なっている。共同で行う作戦など、確執をより広げてしまう他ならない。


 ある種の不安の汗を浮かべる補佐『アサギ・フツミタマ』は、少しばかり眉が歪んでいた。



 「………致し方あるまい。こうなってしまっては仕方がない。


 『矛と盾を以て、敵国戦力を蹂躙し尽くせ』。キナリ中将に伝えよ。アサギ」



 ただし、その回答が杞憂である事を示していた。


個よりも集団を優先する。それはターコイズ自身も分かっている。……同時に今の状況が『切迫』していると、アサギは認めざるを得なかった。



 「了解しました」



 軍部に居る者達の全てが今。


『壊れる』まで、分け隔てなく動き始める。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 周囲の臭いが鉄粉と火薬の混ざり合った臭いに侵されている。金属製の壁には黒く煤けた焼け跡や、扉を抉じ開ける事に試行錯誤した爪痕が残されている。


 僕はこの光景を、幾度となく目の当たりにしてきた。しかし、少なくともこのアカツキで、軍部に此処までの戦火が迫ってきた危機を感じた事はない。



 「…………攻撃……そんな馬鹿な……っ?!」



 少なくともこんな所で突っ立っている訳にも行かないのに、反射的に言葉が詰まった。


 攻撃は何処まで及んでいる? 敵勢力は恐らくクレランスだろうが、そうであればアマテラスが防衛に走る筈で、彼等は少なくとも此処まで侵入を許す程ヤワではない。


 …一つ一つをゆっくりと噛み砕き、情報を整理する。しかし、『軍部関係者しか使えない路線』までも攻撃されている事実が、僕の中で最悪な回答を導き出した。



 「まさか…内部攻撃…? 何故誰も気付けなかった…?」


 「ウスズミ……、みんなが、心配だ」



 トクサの声が震えている。……物陰があれば、すぐに隠れてしまいそうだった。



 「此処に居ても解決しない。……取り敢えず、何とかして第8には帰ろう。この非常時じゃ、僕も上官に報告すら出来ない」



 彼女の言うとおり。僕も第8班の皆が心配だ。

 責務と個人の領域を越えても良いものか、疲労が少し解消されたからこそ、考える余裕が生まれていた。


 トクサは依然として足を負傷している。地下居住区で更なる処置を受けたからか、巻いている包帯は清潔な物へと変わっていた。


 『ならば』と、僕は彼女の身体を背負い、爪痕の深く残る基地内へと歩みを進める。



 「本、落とすなよ。地下居住区にはそう何度も行けないし……。それに、もう手に入らない気もするから」


 「うん。…大事にする」



 この国で必然的に選択されるのは『籠城』。だからこそ、通路の壁を初めとした遮蔽物には事欠かない事は幸いだった。


 通路を進めば進む程、砲撃の反響が太く、大きくなっていく。それに伴う覇気を伴った砲口や、アンダーアーマーを貫通して肉を銃弾に穿たれる詰まったような音が周囲に織り連なり、そこに混在した。


 そんな現状を把握した後は即座、踵を返して別の道を探す事が出来る。今の状況で僕が戦闘に参加しても、生み出すのは『混乱』だけだろう。怪我人が一人、武装はオニビのみ。


 であれば、僕が成すべき行動は彼等の無事を祈る事と、足早に拠点へと戻る事だけだった。 ━━━けれども、弾丸は”バチッ”という音を耳元に残し、僕の頬を掠めた。


 「ぐッッ……!!」



 『理想的な流れ』がここぞという時に頓挫するのが、戦場という残酷な場所の掟だった。敵国の歩兵が僕達の存在に気付いたのか、気付けば銃口の虚空が此方を”じっ”と見つめている。


頬を掠めた段階で踵を返し、別のルートを模索する。



 「……ウスズミ、血……」


 「掠り傷だ。大事(おおごと)じゃない。……それより、ちゃんと本を抱えてないと折角のお土産に風穴が空くぞ」


 「………うん」



 ……僕の空元気を察したか、不安さを後押ししてしまったようだった。身体を震わし、彼女は強く、ぎゅっと僕の背中と本を強く抱き締めていた。




諸事情により、次話から更新速度を落とします。

週1を目安に更新していきますので、よろしくお願い致します。

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