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晴れた霧と攻性結界


「ギャァアァアァアアアアッ!」


 咆哮を上げ、氷龍は暴風雪を発生させる。

 身が凍り、肌が裂けるような痛みを伴う猛吹雪に、風龍のスキルで対抗した。

 手の平で渦を巻いた風を解き放ち、雪の接近を拒む。

 吹雪と突風がぶつかり合い、拮抗し合う最中。氷龍の側面から日下部が迫る。


「攻性結界」


 虚空に建造されるのは、結界を折り重ねた一振りの剣。

 身の丈以上ある大剣を掴むことなく操り、腕を薙ぐ所作に合わせて氷龍に斬りかかる。

 その一撃は氷の鎧を打ち砕き、その巨体を怯ませた。


「負けてられないな」


 吹雪が止み、俺も動けるようになる。

 すぐに狐龍のスキルを使い、和装に狩衣を羽織り、霊符を折り重ねて狐火を灯す。

 火槍を投擲し、怯んだ氷龍へと畳みかけた。


「ギャアァアァアアアアア!」


 咆哮と共に氷の壁が地面からせり上がり、防壁として立ちはだかる。

 しかし、それは火槍によって易々と貫かれた。

 ただの氷壁では止められない。

 そう悟ったのか、二度目の氷壁は火槍を突き上げるようにせり上がった。


「軌道が逸れたか」


 矛先を逸らされ、火槍は氷龍の頭上を抜けていく。

 だが、そこへ飛び上がった日下部が現れた。


「借りるわ」


 日下部は結界で大きな右手を構築し、火槍を掴む。

 そのまま真下にいる氷龍へと投げつけ、その片翼に突き立てた。


「ァアァアァアアアアアァァッ!?」


 躱したはずの火槍が片翼に刺さり、氷龍は悲鳴を上げた。

 攻撃が通り、畳みかけるには今だと地面を蹴る。

 けれど、痛みのせいで更に凶暴になった氷龍は周囲へと無差別に冷気を放出し始めた。


「こいつは」


 氷龍の本領発揮というべきか、無闇矢鱈と放出される冷気によって景色が一変する。

 湖の周囲に広がる草原は瞬く間に凍結し、生命の気配がしない白銀と化す。

 波のように氷がうねり、雨のように雪が降る。

 氷龍は世界を塗り替えた。


「怒ってるわね」

「あぁ、氷が溶けそうなくらいだ」


 子を奪われ、自らも傷ついた。

 我を失ったように暴れ狂うのも当然だ。


「さて、どう攻める?」

「あなたが要よ、あなたに合わせる」

「責任重大だな。じゃあ、付いてきてくれ」


 氷龍と視線を合わせ、凍結した地面を駆ける。

 障害物の氷はすべて一撃のもとに両断し、肉薄を試みた。


「ギャアアァァアアァアアアアアッ!」


 無数の氷塊が宙に浮かび、つららのように先が研ぎ澄まされる。

 それが一斉に放たれ、段幕が押し寄せた。

 その対策をしようとして、日下部に先を越させる。

 前方に透明な盾が浮かび、降り注ぐ氷塊のすべてを防いで見せた。


「アァアァアァアアァアァアッ!」


 それを見るや否や、氷龍も駆けだして牙を向く。

 互いが間合いに踏み込むまで秒となく、先手を打つのは氷龍だ。

 すべてを凍てつかせるような冷気が押し寄せ、俺たちを飲み込もうとする。

 結界で俺たちを囲んでも周囲が凍結して致命的な隙を晒す。

 だから、霊符を折り重ねて一振りの刀を造る。

 狐火を纏う切れ味のない刀。

 その一振りは大気を焼き切り、冷気の波を真っ向から引き裂いて見せた。


「至近距離!」


 左の手の平で勢いよく渦を巻く風を握り締めて圧縮し、その威力を最大まで高める。

 その最中、迫る牙を躱して懐にまで潜り込み、青鱗の巨体を打ち上げるように圧縮した風を解き放つ。


「上昇気流だ!」


 風龍のダウンバースト。

 その方向を操作し、天へと剛風を放出する。

 家屋を薙ぎ倒し、地面をめくりあげるほどの破壊力を込めた一撃だ。

 それを真下から浴びた氷龍は身に纏う氷の鎧をすべて打ち砕かれ、空へと舞い上がる。

 火槍で損傷した翼では空は舞えない。

 落ちてくる氷龍に向けて、俺たちは最大限の一撃を見舞う。

 刀身に魔力を流して研ぎ澄まし、何層にも結界を重ねて鋭さをあげた。


「行くぞ!」

「えぇ!」


 天空に向けて一閃を描いて魔力の斬撃が飛翔する。

 それに併せて結界の刃が解き放たれて追従するように上昇した。

 二つは空中に張られた氷壁を引き裂いて馳せ、その先の氷龍へと届く。

 勝敗は決し、青鱗に深い深い太刀傷が二度に渡って刻まれた。


「俺たちの勝ちだ」


 血の雨が降り、氷の大地に張り付いて凍る。

 その最中に氷龍は落ちて、その命を散らす。

 龍狩りとしての役目を果たした。

 俺たちは無言で向かい合い、そして手の平が痛くなるほどのハイタッチを交わした。


「お疲れ様ですー。今回もお見事でしたー」


 車がやってきて、蔵木が降りてくる。


「美紀もお疲れ様」

「お疲れ。蔵木のモーターボート捌きは凄かったぞ」

「ありがとうございますー。なんだか照れちゃいますねー」


 すこし頬を赤く染めた蔵木だった。


「じゃあ、あとはこいつを運ぶだけか」


 改めて氷龍を視界に納めた。


「はいー、霧も晴れたと思うので輸送機が来られますよー」

「じゃあ、早く帰れるな。卵の孵化に間に合うかも」

「なら、手際よくやらないと。奏子に連絡する」


 日下部はそう言って携帯端末を手に小糸と連絡を取る。

 輸送機はすぐに到着し、それと一緒に俺たちも帰還した。

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