密猟者たちと特殊部隊
密猟者を拘束した俺たちは事情を説明して地元警察に協力してもらった。
取調室に奴を拘束し、俺と日下部と魔鳥で向かい側に腰掛ける。
「龍狩りってのはペットを連れて歩くのか?」
「ペットじゃないわ、テイムしたの」
「うわ、しゃべった」
驚いてはいるものの、余裕を見せている。
取り調べ相手が警察じゃなく、俺たち龍狩りだからだろう。
「いいか? よく聞け」
手元の資料を眺める。
「お前がやったことはわかってる」
「へぇ」
「窃盗、傷害、家宅侵入、執行妨害に公然猥褻?」
「酔ってただけだ、暑くて」
「まぁ、それはどうでもいい。ちんけなチンピラがどんな経緯で密猟者の一味になったのかもな」
「私たちが知りたいのは一つだけ。盗んだ卵をどうしたのかよ」
「卵? なんだそりゃ、知らないね。誰かが目玉焼きにして食ったんじゃねぇの」
「もし本当に食ったなら厄介だぞ」
「この鳥……今度は男の声でしゃべってる」
魔鳥を指差したからか、啄まれそうになっている。
「ドラゴンは自分の卵を決して諦めない。どれだけ遠くに逃げようと必ず追いかけてくる。何千何万キロとな。そして、この街で追いついた」
「は? ……まさか、ここ最近の霧って」
「あぁ、おそらくそうだ。お前――いや、お前たちが卵を盗んだから追いかけてきたんだ。文字通りお前の足下まで来てる」
それまで横柄な態度でいた密猟者が姿勢を正して足を引っ込めた。
「卵を取り返すまでドラゴンは付きまとうぞ。お前に染みついた卵の匂いを追ってな」
「そんな……」
「それだけならまだいい」
「どういう意味だよ」
「もし返す卵がなかったらドラゴンはどうすると思う。怒り狂って我を忘れて街の下で大暴れた。大規模な崩落が起きて街の人が大勢死ぬことになる」
「ちょ、ちょっと待てって!」
「お前のせいで人が大勢死ぬぞ。目玉焼きにして食ったならもう取り返しがつかない」
「そんなことしてねぇって!」
「ならどこにあるの?」
「それは……」
かなり動揺しているが、日下部の問いには答えない。
「なぁ、日下部。たしかドラゴン関係の犯罪ってかなりの重罪だよな」
「……えぇ、そう。密猟だけでも刑期は相当なものよ。加えて彼は街にドラゴンを呼び込み、全住民を今も危険に晒し続けている。おまけにまったく反省が見られない」
彼の表情が青ざめていく。
「彼がどれだけ幸運でも二度と刑務所の外には出られないでしょうね」
「まっ、待ってくれ! 俺じゃない! 俺はただ見張りをしてただけで、密猟は全部ほかの連中がやったんだ! 俺みたいな素人がドラゴンから卵を盗めるわけないだろ!」
「でも片棒を担いだのは事実だ」
「そんな……」
うなだれたように背もたれにもたれ掛かった。
「ねぇ? もしあなたが協力的になってくれたら、私たちにもできることはあるわ」
魔鳥を通して聞こえてくる小糸の声は、非常に優しいものだった。
「ほ、ほんとか?」
「えぇ、流石に罪をなくすことはできないけど、軽くすることはできるはずよ。仮釈放の望みが出てくるわ」
「協力を拒んで一生檻の中か、外に出るチャンスを得るか、二つに一つだ。さぁ、どうする」
二者択一を迫り、彼は口を閉じた。
「よーし、もういい。時間の無駄だ、行くぞ」
日下部と席を立ち、控え室の扉へと向かう。
「ま、待った! わかった、なんでも話すよ! でも、一つだけ願いを聞いてくれ」
「なんだ?」
「あいつらとは一緒の刑務所に入れないでくれ……」
彼はついに折れ、話す気になった。
「賢明な判断だ」
§
「いやー、上手く行ったな。地元警察の言う通りにしたらあっさりだ」
魔鳥から這崎の踊るような声が聞こえてくる。
「あぁ、取り調べ相手が俺たちであいつも舐めてたみたいだし、上手くいった」
「見て、そろそろ突入よ!」
霧に包まれた中、一見の古びた雑居ビルに武装した特殊部隊が押し入った。
割れた窓から怒号と破壊音が聞こえ、魔法による光が何度も明滅する。
そうしてしばらくした後、拘束された密猟者たちが雑居ビルから出てきた。
「凄い、もう解決だ。映画を見てるみたいだったな」
這崎はいつになく興奮していた
「流石、対人はお手の物だな」
「龍狩りが出来てからというもの、警察は対人に特化するようになったからね」
俺たちの話を聞いていたのか、特殊部隊の責任者がヘルメットを小脇にやってくる。
「密猟された卵を発見した。君たちに託そう」
霧の中から出でるように、卵を抱えた部下たちが現れた。
「ありがとうございます」
「あぁ、では対人ならぬ対龍は君たちに任せた。この街を救ってくれ」
「はい、必ず」
そう返すと、彼は頷いて去って行った。
「天喰。その卵でドラゴンを誘導すれば街の外まで連れ出せるはずだ」
「連れ出せれば討伐せずに済むか?」
「さぁな、行方不明者を食っていなければあるいはってところだ。でも、街に入って何人もの人を危険に晒したからな。あまり期待はするなよ」
「あぁ、そうだな。でも、すこしでも希望があるなら……」
ふと、気がつく。
「……そうか、だめか」
「どうしたんだ?」
「この卵、もう死んでる。きっと管理の仕方が雑だったんだ」
ドラゴンの怒りは静まらない。
「討伐するしかない。それが勤めだ」
龍狩りになってから覚悟はしていた。
迷いはない。
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