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卵の親と指名手配


 意識を卵へと傾けて、伝わってくる感情を読む。


「どうして欲しいんだ?」


 卵から伝わってくる欲求を感じ取り、その意図をくみ取る。


「この感じ……そうか、わかった」


 卵が欲していることを理解できた。


「今度は何度まであげればいい?」

「違う、上げるんじゃない。下げるんだ」

「下げる? 温度を下げちゃうの?」

「あぁ、そう。前と同じ、俺がいいって言うまで」

「わ、わかった」


 牙城が孵化装置を操作し、温度を下げていく。

 百十二度から八十度、六十度、四十度、二十度、零度を過ぎても下げ続ける。


「アイスになっちまうかも」

「大丈夫だ。こいつがそう望んでる」


 そうして温度がマイナス二十度になる。


「そこだ!」


 牙城が慌てて温度を調節し、マイナス二十一度で止まった。

 卵が望む温度となり、すこし離れて様子を見る。

 二人はモニターに釘付けになり、そして表情が和らいだ。


「よかった、また活性化し始めてる」

「あぁ、不味いことは一つもない」

「助かったわ、本当にありがとう。秀紀」

「いいさ。俺ならいつだって駆けつけるよ」


 這崎はああ言っていたけど、やっぱり互いに未練たらたらって感じだ。

 功労者の俺を差し置いて、また二人の世界に入り込んでいる。


「まぁ、いいか」


 しばらくすれば我に返るだろう。


「小糸、戻してくれるか」

「もういいの? それじゃあ、それっ」


 そうしてまた周囲の景色が一変し、無事に車内に戻ってきた。


§


「たぶん、あのドラゴンの卵は炎龍と氷龍の卵なんだ」


 適当な飲食店に入りつつ、ドラゴンの卵について推測を話す。


「いらっしゃいませー、何名様ですか?」

「三人と鳥が一羽」

「鳥……」


 店員の視線が鳥籠の魔鳥に向かう。


「お、お好きな席へどうぞ」


 彼女は引きつった笑みを浮かべていた。


「高い温度の時は炎龍の要素が、低い温度の時は氷龍の要素が、それぞれ表に現れてたんだよ」


 席に着き、向かい側に日下部と蔵木が腰掛ける。


「ご注文が決まりましたらお呼びください」


 店員がお冷やとおしぼりをテーブルに起き、そそくさと帰っていく。


「なら、また孵化装置の温度を高くしないといけなくなる?」

「かもな。まぁ、でも温度の基準は今回でわかったし、研究所のほうでうまくやるはずだ」

「ドラゴンの卵、孵化が楽しみですねー」

「あぁ、生命の神秘だ」


 会話もそこそこにメニューを取る。

 昼飯はどうしようか? すこし悩んで注文を済ませた。


「あ、戻ってきたわね」

「悪い、いま戻った」


 魔鳥から小糸の声がして、続いて這崎の声も聞こえてくる。


「お前に礼を言ってたぞ、助かったって」

「あぁ」

「それで?」

「それでって、なにがだよ」

「とぼけないでよ、あの牙城って人とどういう関係なの?」

「なに? おい、天喰」

「誤解だ。俺はなにも言ってない」

「じゃあどうして」

「どうしてもこうしても、あの人のこと下の名前で呼んでたじゃない。それにいい感じの雰囲気だったしね」

「……俺はまたやったのか」

「そういうこと」


 魔鳥を通じてこの場にいる誰もが研究所での会話を聞いていた。

 俺がなにも言わなくても、こうなるのは必然だ。


「俺の恋愛話はいい。仕事の話をしよう。霞龍の対策についてだ」

「あぁ、それは大事だな」


 流石に這崎が哀れになってきたから助け船を出す。


「だろ? 霞龍は姿を隠すのが上手い。戦術も不意打ちに特化していて、失敗するとすぐに逃げられる」

「先手を打ちづらいってことよね――牙城ちゃんとはどういう関係なの?」


 残念、助け船は沈んでしまった。


「ただの元カノだ――霞龍を先に見つけるのは難しい。だから、あえて不意を打たせるんだ。それを上手く躱して退路を断つ」

「それなら私の結界が役に立つ。防御もできるし、幸い遺跡の構造は退路を遮断しやすい――でも、とても終わった関係には見えない」


 おっと、日下部まで参戦だ。


「終わらせたんだ、お互いに納得してな――霞龍を見つけるにはとにかく根気が必要だ。渡された未完成の地図を完成させるくらいの覚悟でいかないと」

「任せてくださいー、迷わないように私がしっかり操舵しますよー――会えない時が愛を育むといいますよー、まさにそれなのではー?」

「もう勘弁してくれ……」


 それから注文していた料理が届き、それを食べ終わるまで質問攻めは続いた。

 馴れ初めやら、デートプラン、プレゼント、本当に根掘り葉掘りだ。

 あれに比べれば俺とのやりとりなんて可愛いものだと思える。

 とにかく、ご愁傷様だ。


「さぁ、そろそろ這崎をいじめるのは止せ。店を出るぞ」


 会計を終えて店の外に出る。

 相変わらず霧が濃くて空を拝むことすら叶わない。


「霞龍の対策も練ったし、このまままた遺跡に?」

「えぇ、そう。なにかほかに用事がなければだけど」

「あ、浄水場に行く前にー、燃料補給をしておきたいですねー」

「じゃあ、それが終わってからだな」


 バギーカーにつき、ドアを開ける。


「おい待て、見られるぞ」

「見られてる?」


 鳥籠を持ち上げて座席に置き、魔鳥と視線を合わせた。


「たしかか?」

「あぁ、こっちを仕切りに気にしていて挙動不審だ。流石に魔鳥の視線は気にもとめてないらしい」

「なるほど、怪しいな。位置は?」

「霧の隠れ具合からして、視認できるギリギリにいるな。お前の真後ろだ」

「こりゃ事情を聞かないといけなさそうだな」


 駆け寄って取り押さえてもいいけど、もっと利口なやり方がありそうだ。


「海利ちゃん。できそう?」

「えぇ、任せて。私が捕まえる」

「よし。じゃあ本当に怪しい奴か声をかけて確かめてみよう」


 後ろを振り返り、大きく息を吸う。


「おーい、ちょっといいか?」


 そう声をかけた瞬間、その誰かは逃走した。


「確定!」

「捕まえるわ」


 進行方向上に透明な壁がせり上がり、逃亡者は顔面を強打する。

 痛みに悶えながらも方向をかけて逃げようとするも、すでに遅い。

 日下部の結界はすでに四方を囲んでいて完全に捕らえていた。


「流石、お手柄だ」

「それほどでも」

「蔵木はそこで待機しててくれ」

「はいー、気をつけてくださいねー」


 鳥籠から出した魔鳥を肩に乗せ、日下部と二人で捕らえた不審者の元へと向かう。


「よう、大丈夫か? 血が出てる」

「当たり前だろ……あぁ、くそ……いてぇ」


 鼻血をだらだら流している。

 よほど勢いよくぶつかったらしい。


「どうして私たちから逃げたの?」

「別に逃げてない……なぁ、ここから出してくれ。なにもしてないだろ?」

「いいや、俺たちをずっと見てただろ。なにかあるはずだ」

「知らねぇって、あんたらの勘違いだろ」


 時折、鼻を痛がる様子を見せつつ彼は否認し続ける。


「どう思う? 怪しいのはたしかだけど」

「私たちを監視してた、呼びかけると逃走した。絶対になにかある」

「あぁ、俺もそう思うけど。なにかってなんだ?」

「それは……」

「あっ、思い出した!」


 不意に魔鳥から小糸の大きな声が聞こえてくる。


「どこかで見たことあると思ったのよ。これだわ」

「これって……マジか」


 魔鳥の向こう側で二人だけが現状を把握する。


「どういうことなんだ?」

「そこにいるのは指名手配犯よ」

「指名手配犯? こいつが? いったいなにをしたんだ?」

「密猟よ。彼、ドラゴンの卵を盗んだの」

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