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道化師は止まらない  作者: しみず みし
20/21

第六話の七   

料理回もそろそろ終盤です。

 次回やるとしたら、いつになるのやら・・・。


「……んで、今後の効率的な抽出方法や砂糖を白くする漂白化は試行錯誤して貰うとして、結構安価に砂糖を抽出できるモノはコレだ」

 レイはそう言うと、ヴィッチの家から持ち込んだ食材の中から、目的の物を取りだしてヴィッチ達の目の前に突き出した。


「これは……甜菜(てんさい)かの?」

「そうね。甜菜よね」

「甜菜だねぇ」

「甜菜なの!」


「うん、甜菜だよ。この甜菜から、砂糖が作り出せる。 とは言え、今回見せるのは簡略的に魔法で端折った感じでやるから、効率的な抽出法とか余分な()()()を除去する方法とか砂糖の色を漂白する方法とかは、いろいろ試行錯誤して頂戴」

「……うむ、それは良いのじゃが、本当に砂糖が作れるのかの? 今までそれなりに食べてきたが、砂糖が作れる程甘いと感じた事はないんじゃがのぅ?」

「まぁ、普通に考えればヴィッチのじっちゃんの言う事が正しいんだけどね……ま、『論より証拠』、『百聞は一見にしかず』っつう言葉もあるから、実際に見て貰おうかな」


 レイはそう言うと、甜菜をまな板状の作業台の上に置き、ナイフを素早くリズミカルに振って甜菜を切り刻んでいく。

「今回はかなり小さくみじん切りにしてるけど、本当はもっと細かく切るかすり潰してペースト状にするかすると、品種により砂糖がより多く採れたと思う。記憶に間違いなければ……まぁ、間違えてたらゴメンチャイ☆って事で。 んで、みじん切りにした甜菜の根の部分を、なるべく細かい目の布地に乗っけてやる訳だ」

 レイが説明している間に何処からか布を引っ張り出してきたユウは、魔法で洗浄(クリーニング)をかけた上で、レイの作業スペースの横にタイミングを計ってふわりと置く。

無言で淡々とレイのアシストをこなすユウ。

恐らく、過去何度もそのように幾度もアシストをこなしてきたであろうそのある種美学すら感じられる洗練された行動は、ヴィッチ達の視界から完全に空気と化して邪魔をしない様相を呈し、黙々と作業をこなしている。


「で、ここに()()()()()用意した織り目の細かい布に全部乗せて、こちらも()()()()()用意した、水を張った鍋に布ごと浸してやるっと……そんで、後は数時間放置プレイしたら準備は終了となる訳だ」

「……それだけの事で良いのかの、レイ?」

「まぁ、大雑把にはそうだよ、ヴィッチのじっちゃん。そうじゃなきゃ、安く砂糖はできないよ」

「……確かに、レイの言う通りじゃのぅ」

「んで、暫く放置するんだけど、今回は放置する手間を省くよ♪ ユウ、よろピく☆」

「ホイよ」


ピロリン(←時間経過の魔法を使った音)


「ホイ♪ そんな訳で数時間放置した状態のモノが出~来~ま~し~た~。これで甜菜に含まれた当分が充分に水に溶け出してるはずなんで、甜菜自体は引き揚げてやります」

 レイは鍋から片手で布地ごと甜菜を引き揚げると、もう片方の手で布地を軽く絞る。

「この時、あまり強く絞っちゃダメよ。 勿体ないからって強く絞りすぎると、余計な渋味やえぐ味も出ちゃうからね。その辺の塩梅(あんばい)は、いろいろ試して頂戴……ホンで、絞った後の絞りかすだけど、家畜の飼料に使うのが一番手間無く使える方法だよ。他にも用途が作り出せれば、将来大量に生産しても廃棄物にしなくても済むと思うよ。まぁ、それはともかく、甜菜を絞った後に残った鍋に入った水。 これを自然乾燥でも良いけど、メッチャ時間がかかるんで火にかけて、どんどん煮詰めてきます……で、それでも煮詰まるまで数時間かかるんで、今回は面倒臭いから魔法で省略します。 ユウ、よろピく☆」

「ホイよ」


ボワワンッ!(←鍋の中の水分を一気に除去した音)


「……そんな訳で、煮詰めるなり乾燥させるなりで、水の溶け込んだ成分が結晶化したのがコチラ☆ 見てみソ♪」

 そう言ってヴィッチ達の方に鍋の内面を見せるレイ。

鍋の内面には、(うっす)らと粉を吹いたような何かがこびりついていた。


「何じゃ?この薄茶色のモノは?」

「ふっふっふ……その塊をナイフでもすりこぎ棒でも木べらでも良いから、こんな感じで(ガシガシガシ←こそげ落としている音)鍋から剥がしてやる、と……マルガ、ちょっと良いかい?」

 レイは、鍋の内面にこびりついた結晶を半ばまでこそげ落とした辺りでマルガに呼びかける。

「試しに、コレを嘗めてみな」

「へ?これが砂糖だっていうの?」

「まぁ、嘗めてみりゃ分かるよ。ただ、この後の料理に使うから、全部は嘗めるなよ。指に付けた分だけにしとけ」

「う、うん(ペトペト←人差し指で結晶を付けてます)……薄らと茶色っぽいけど……(ぺろっ)んんんんんんっ!!甘~い!?甘いの!!!!本当に砂糖なの!! 凄い!本当に、甜菜から、砂糖が作れてるの!!!」

「本当か、マルガ!?儂も嘗めて良いかの、レイ?」

「チョットだけにしといてよ。ケイトもハンナも、少しだけ嘗めてみな」

「それじゃぁ、お言葉に甘えて……」「遠慮無く、嘗めさせて貰うよ」

 レイに促されて、ヴィッチ達はマルガに続いて鍋に指を入れて、粉状の結晶が付いた指を口に入れる。


「「「! んふ~~ぉ!!」」」


 三人は、同時に驚いて目を見開く。

「確かに砂糖じゃの!?」

「凄く甘くて美味しい!」

「記憶にある砂糖と微妙に風味が違うけど、この甘さは確かに砂糖だねぇ」


「……ハンナの記憶にある砂糖ってのは、多分サトウキビから作った砂糖じゃないかな?同じ砂糖でも原料が違うから、甜菜から作った砂糖の風味が違っているのは当たり前だよ」

「なるほどねぇ」

「それにしてもビックリじゃぞ、レイ。値が張る砂糖が、飼料にも使われとる甜菜から作れるとは……これなら、砂糖を安く作る事が出来るのぅ。そして、この砂糖を特産化すれば、バルガ領の経済が潤うはずじゃ」

「あ、ヴィッチのじっちゃん、大量生産するのは待ってチョ」

「何故じゃ?……そうか、利権目当ての争奪戦か……」

「そう言う事だよ、ヴィッチのじっちゃん。この村や領地に、そういう争奪戦で対抗できる程の経済力や軍事力が備わってる?」

「……(備わって)おらんの。他領や国、大商人の介入があったら、最初は対抗できると思うが、遅かれ早かれ敗れるの」

「そう言う事。何か、誤魔化すのに適当な理由を作って、コッソリ細々と砂糖を作るってのはアリだと思うけど?」

「ふむ…………それでは実験と言う事で、当面は家畜用の配合飼料を作るって名目で甜菜を増産し、作業工程の中で甜菜の砂糖分を抽出する作業を紛れ込ませて、抽出した水を廃液として信頼の置ける者に預けて砂糖を作らせるという方法はどうかの?」

「ヴィッチのじっちゃん、凄ぇな。よくそんな事を、パッと思いつけるモンだ」

「機密扱いの武具や、敵に悟られないように戦いの準備をする際の、割とポピュラーな手法じゃて……」

「そういう手法を、的確に現状に合ったやり方に落とし込むってのは、それなりに頭の良い奴じゃないと、すぐには出てこないよ」

「そうなのかの?」

「そうだよ。 まぁ、それじゃ、砂糖の作成については、ヴィッチのじっちゃんが言った手法で作ってくので良いんじゃない?人選とか何とかは、ヴィッチのじっちゃんが主導でやった方が確実だから、ヴィッチのじっちゃん、よろピく♪ まぁ、何にせよ、そのうち砂糖は需要を満たす為誰かが絶対に大量生産に乗り出すはずだから、内緒にするのもそれまでだから」

「……何故、レイにそんな事が分かるのじゃ?」

「簡単な話だよ、ヴィッチのじっちゃん。人の欲望は果てないからね。武器にしても防具にしても、農具や建物なんかも、『より強く、より効率的に、より豊かに、より良い暮らしを』って感じで果てない欲望があったから、文明が発展してきたんだろ?過度な欲望は宗教的にも社会慣例的にも抑制すべきだろうけど、適度な欲望は文明を発展させて人の生活を良くも悪くも豊かにしていくから、決して絶対に抑制しなきゃいけない程悪い訳じゃないと思うよ。 あくまで、主観的な私見だけど……」

「ふむ……実に興味深い考え方じゃのぅ。その辺りを詳しく……」

「村長さん、また脇道逸れそうだから、自重しとくれよ。レイもちょくちょく脇道それながらの説明だから、興味を持つ気持ちは分かるけど、話が進まないよ」

「……うむ、そうじゃの。まぁ、レイ達のおかげで、安く砂糖が作れるのは分かった。生産の方は、周りにバレぬように、何とかしてみようかの。 そんな所でレイ、説明の続きをして貰って良いかの?」

「アイヨ……ほんで、何で砂糖の作り方を説明したかというと、ハンナの作ったソースに使う為だよ。最初からソースを作るなら、甘味に果物を使うのはアリだけど、今回の場合は(甘味を)付け足すだけの工程になるから、ソースの味に馴染まなくて味がうまくまとまらない。だから、純粋な甘味に近い砂糖を使う訳だ。 あ、あと砂糖に熱を加えて絡めるにして、ソースに色付けもするけどね……」

「なるほどねぇ……物珍しい砂糖を使うのも、それなりの理由があったんだねぇ」

「そう言う事。ホンじゃ、ハンナの作ったソースの中に、砂糖を入れるよ。(サラサラ……混ぜ混ぜ・・・)で、次に、旨味を足す為に、トマトがあれば入れるんだけど、ないからケチャップで代用(ちゅ~~~~~←ケチャップを投入してる音)……ちなみに、ケチャップを入れる量には気をつけてね。 多過ぎても少な過ぎても、味のバランスが崩れるから……

んで、全部混ぜ合わせた後は、ソースを少し加熱してから数日から数週間放置して、味を馴染ませればOKだと思うよ。 そんな訳でユウ、お後よろピく♪」

「レイお前、簡単に言うなよなぁ……『レンチン(LOW)』」


チ~~~~ン・・・(←弱く加熱する魔法を使った音)


「そして次に、『時の流れに(美空ひ○り)』」


チャ~~ラ~~~ チャララララ・・・(←時間経過の魔法をかけた音)


「……ユウも大概、時々変なネタ仕込んでくるよな?」

「レイのせいだろ。聞いたら名曲だったけど、古い歌を聴かせやがって……」

「まぁ、気に入ったんやから、別に良いじゃん」

「まぁ、そうだけどな……」

「……ユウにレイ、儂には今の会話の流れが、さっぱり理解できんかったんじゃが、どういう意味の会話じゃったのかのぅ?」

「う~~~ん……」

「ヴィッチのじっちゃん、説明が面倒臭いんで、パスね」

「またかいの!お主達の会話や説明は、面倒臭いのが多すぎる気がするのぅ」

「まぁ、しょうがないよ、ヴィッチのじっちゃん。俺とユウの居たトコはある意味かなり風変わりな地域だったから、そこでの常識や概念を周知してないと理解して貰えない事が多いんでな」

「そうなのか?」

「そうなんだよ、ヴィッチのじっちゃん。 そんな訳で、ある程度の熟成期間をおいて出来たのがこのソースなんだけど……まずは、俺から試食してみるな」

「あ、俺も……」

 そう言うと、ユウとレイは指を瓶の中に入れてソースを絡め、澱みのない動作で口の中に入れる。


「……うん、、まぁ、こんなモンだろ」

「……最初のソースの味に比べれば、食べられるようになったな」

 レイとユウが、それぞれ感想を述べる。

「ユウにレイ、私のソースがどういう味になったんだい? チョット味見させておくれよ」

「いや、別に俺らに断り入れる必要ないでしょ、ハンナ。 それに、俺達は知識やヒントは提示する事はできるけど、実際に作って皆の好みに合わせられる()はハンナ自身になるからな。味を覚えて貰わなきゃ困る」

 レイはハンナに答えながら、ハンナの前にソースの入った瓶を差し出す。

最初にハンナが、次にヴィッチ達が次々に瓶の中に指を差し入れ、それぞれがソースの付いた指を口の中に入れる。


「…へぇ~~、こりゃまた……」(←ハンナ)

「ほほぉ!コレは刺激的な味じゃのぅ!」(←ヴィッチ)

「辛いの。でも、前に味見した時程辛くなくて……けど、美味しいの!」(←マルガ)

「そうねぇ。スパイスの刺激が最初に来て辛く感じるけど……『旨味』かしら? その後で、口にの中に残る独特の何とも言えない後味が感じられて凄く美味しいわ」(←ケイト)

「そうだねぇ。後味が単純なようでいて、複雑な味を醸し出してるよ……この味なら隠し味以外にも、いろんな料理に使えそうだねぇ。 個人的には、もう少し酸味をまろやかにして甘味を増した方が私の好みかねぇ?」(←ハンナ)


「一口嘗めただけでそこまで判断できるのは、凄ぇな……今度新しくソースを作る時に、材料のモルトビネガーをブドウとかリンゴとかパイナップルの酢で作ってみれば? 多分、今のソースよりハンナの好みに近づくと思うよ」

「へぇ~、パイナップルが何か分からないけど、レイはそこまで知ってるんだ?」

「ほとんど知識だけだけどな。まぁ、傾向として材料に果物系の素材を使うと、女性受けがしやすい風味になる食べ物が多いって事だしな……」

「レイ、パイナップルって、アフリカとかで栽培しとる、中身が黄色いとげとげした堅くて茶色い皮で覆われた甘い果実の事かの?」

「そうだよ、ヴィッチのじっちゃん。流石『亀の甲より年の功』、よく知ってるなぁ」

「ソース一つにどんだけ高級食材を使うんじゃ、レイは? そんな贅沢品、庶民の儂らには、とても手が出せん」

「……まぁ、今は高級でも、需要があって大量に生産されるようになれば、いずれ安く手に入るようになるよ。その時に手に入れて試してみれば良いんじゃない?」

「ううむ……その通りじゃの」

「その辺の話をし始めると、メッサ長くなるんでパスさせて貰うとして、ハンナのソースを使って、一品作ってみるよ。コレなら、ハンナの店にすぐに売り出せると思うよ」

「そうなのかい?そりゃ楽しみだねぇ」

「とは言え、前の料理と基本は変わらないけどね……んじゃまず、キャベツを用意しようか」

 レイは話しながら、葉キャベツを手元に引き寄せる。

ついでに、タマネギと小さいハムの塊も一緒だ。

「ホントは春キャベツに薄くスライスした豚肉、もやしなんかがあると最高なんだけど……まぁ、今回はあり合わせのモンを使って作るとするよ」

「レイ、もやしというのは、もしかして豆から芽を出させた食べ物かの?」

「うん? そうだけど、知ってるの、ヴィッチのじっちゃん?」

「あ、それなら知ってるの!宿屋の料理人のお姉ちゃんが、作っているの!」

「マルガ、それ本当か?」

「うん! でも、食べさせて貰ったけど、そんなに美味しいと思わなかったの……」

「そうね。マルガと一緒に食べさせて貰ったけど、味はほとんど無かったわ」

「そうだねぇ。上にかかってたソースみたいなヤツも酸味が強かったし、もやし自体も味があまりない上にチョット水っぽかったって印象があったねぇ」

「まぁ、もやしはどちらかというと、味よりも食感を味わう食べ物だからな。それに、安く作れる上に(かさ)増しに使えるしお通じにも良い。それに含まれている成分によって(注:ビタミンCの事です)肌を綺麗にする効果もあるからね。簡単に言うと、体内の体調を整えるのと安くボリューム感を出す食材としては最適なんだけどね。 まぁ、『コストは下げたいけど、もう少しボリューム感が欲しい』って時に、活躍する食材だから覚えておいて損はないよ」

「へぇ~、レイって何でも知ってるんだねぇ」

「何でもって訳じゃないよ。たまたま多少は知っている『料理』に関してだから、ハンナの目から見て、そう見えるだけだ……さて、そんじゃ用意した食材を、適当な大きさに切っていくよ。大体、一口サイズの大きさに切っておけばグッド。具材として使うだけだから、大量に作らなくて大丈夫だからねぇ。 ホンで、ハムも同じような大きさに切って、お好みの量だけ用意しますよ(ストトトトト…←ハムを切ってる音)。

んで、ココで登場、おなじみのフライパン!

このフライパンを、例によって例の如く、油をひいて熱してやります。 これまた熱し加減は、前回と一緒で軽く油が煙を立てる位……お、上がってきた。

んじゃ、こっからは早いよ!

まず、さっき切ったキャベツやらハムをフライパンに投~入~☆」


じゃあああああ!(←フライパンに具材を入れた音)


「具材全体に火が通るように炒めてやったら、次に重曹を入れて茹でた方のスパゲッティを、迷わずに投~入~☆」


ジュワアアアァァァァァ・・・(←フライパンにスパゲッティを入れた音)


「……こんな感じで、麺に充分に油と具材、あと熱が馴染むまで、混ぜ合わせてく訳だ。馴染ませていく過程で、塩とコショウを振り掛けて味を調えときます。 んで、このままでも良いんだけど、店で売るなら更にもう一工夫する必要があるよ。できればフォン(知らない人の為の注:肉や野菜をじっくり煮込んで作る、西洋だし汁の事)でもコンソメでも良いから、旨味になるだし汁を用意して、それをかけて頂戴。そうすりゃ、売り物になる味になるはずだよ。俺やユウの好みでいくと、さっきケイトが持ってきた荒節……もといモルディブフィッシュを反対側が透ける位薄く削ったヤツがベストなんだけど、ヴィッチのじっちゃん達は味に馴染みがないだろうから、今回は水にしとくよ」


じゅぅぅうぅ・・・(←水を少し麺に振り掛けた音)


「レイ、フォンなんかで旨味を追加するって言う意図は理解できるけど、ただの水を振り掛ける意味は何だい?」

「麺を焼くと同時に蒸らす為だよ。そうする事によって麺がよくほぐれて口当たりが良くなる。あともう一つは……」

 レイは、フライパンから手を離すと、手近に置いたソースの瓶を持ち上げる。

「今からかけるソースを全体に満遍なく、デキるだけ均一に馴染ませる為だよ」

レイはフライパンの上で、ソースの入った瓶を傾けた。


ジュワァァァァァァ・・・(←ソースを投入した音)


ソースをフライパンに投入すると同時に、ソースが沸く音と白い水蒸気が上がる。

そして水蒸気に含まれたソースの匂いの成分が、すぐにヴィッチ達の鼻に届いた。


「むおっ!これは!!」(←ヴィッチ)

「うわあぁぁっ!凄いの!?」(←マルガ)

「何、コレ!?凄く良い匂い!ソースの匂いね!!」(←ケイト)

「そうだよ、ケイト。間違いなく私が作ったソースだけど、こんな強烈に……」(←ハンナ)

「何ともスパイシーな尖った匂いじゃが、何とも食欲を刺激する堪らん匂いじゃのぅ」(←ヴィッチ)

 強烈なまでに食欲を刺激する、暴力的なまでの香ばしいソースの匂いにヴィッチ達は感心とも驚嘆ともつかない声を上げる。


「みんな、良いリアクションだこと……まぁ、この匂いをかいで、ヴィッチのじっちゃんみたいな反応をしなかったヤツは、俺の記憶にある限りではいないよ」

「そうなのか、レイ? 確かに、このスパイシーかつ香ばしい匂いは、まるでお腹と鼻を殴られたように刺激する強い匂いじゃが……儂は、ここまで食欲を喚起する匂いを、肉以外ではあまり知らぬのぅ」

「まぁ、匂いの仕組みについての説明すると長くなるんでパスさせて貰うけど、このソースの匂いは人を惹き付ける匂いだよ。 だから、祭りとか何かの行事の時に屋台を出すつもりなら、ソースの焦げる匂いで惹き付けて注目させるって手段が講じれる訳だ」

「へぇ!レイは、そんな事まで考えつけるんだねぇ」

「いや、ハンナ、俺とユウが居たトコでは、似たような事をする人がたくさんいたから。別に、俺が考えた訳じゃないよ」

「そうなのかい? でも良い事聞いちまったから、機会があれば使わせて貰うよ」

「ソースをたくさん作ったら、是非やって頂戴……んじゃ、ボチボチ料理の方ができてきたんで、仕上げに入るよ」

そう言いながら、レイはフライパンを火から離す。


「レイ、見た目は茶色くなったスパゲッティにしか見えないのに、匂いで物凄く美味しそうに見えるじゃないか?早く試食してみたいよ」

 ハンナの言葉に、頷くヴィッチ達。

「いや、ハンナ、まだ調理が終わってないから。 出来上がったスパゲッティは、フライパンのままなり、他の容器なりに入れて粗熱を取ってやる……っと、ホイじゃユウ、よろピく♪」

「ハイヨ」


ピロリロリン♪(←魔法で粗熱を取り除いた音)


「んで、ココに用意したのは、さっきも使ったパンのクッペ。これの上面に切り込み入れて、スパゲッティ……もう面倒だから『焼きそば』ね。 焼きそばをぐいぐいねじ込んでくと(ぐいぐい←パンの切れ込みに、焼きそばをねじ込んでます)………こんな感じになる訳だ。

で、彩りのパセリのみじん切りを少し加えて、モドキだけど『焼きそばパン』の完成で~す♪

贅沢抜かすなら、味が濃いめな焼きそばパンに舌が疲れた時用で、紅ショウガかショウガの甘酢漬けが欲しいとこだけど、まぁ今後の課題っつう事で……」

 レイは立て板に水の如く説明を続けながら、焼きそばパンを人数分に切り分けていく。


「まぁ、ヴィッチのじっちゃん達にはちょっと待たせたけど、試食してみてチョ☆」

 レイが焼きそばパンを適当に木皿に配置して差し出すと、有無を言わさぬ早さでヴィッチ達の手が伸びる。


「(ぱくっ!) ほおぉぉぉ!コレは美味い!!」(←ヴィッチ)

「んんんん!美味し~いの!?」(←マルガ)

「本当ね、マルガ……元のソースの味を知っているから、もっと辛いのかと思ったけど……思いの外まろやかで美味しいわね」(←ケイト)

「こりゃ凄いねぇ!私が作ったソースってのは知ってるけど、格段に味が良くなってるよ。特に甘味でソースの辛味を抑えてる事とか、『旨味』ってヤツで味の奥行きが広がっている事とか、前のスパゲッティパンとはソースと具材、茹でた麺を変えただけなのにこんなに違うなんて……こりゃ、明日のパンの売り物は、コレで推しまくるかねぇ」

「いや、ハンナ、肝心のソースがパンを作る分だけないと、できないから。 それに、そこまでの量を作ってないだろ、試作品って言ってたんだから?」

「………言われてみれば、その通りだねぇ。なら、さっさとソースを作ると「いや、チョット待て、ハンナ」」

 少し暴走気味になったハンナを、レイが突っ込んで止める。

「どうしたんだい、レイ?」

「いや、ソース作るのは良いけど、肝心の材料が揃わないでしょ? 材料の香辛料や野菜や酢は揃うとして、砂糖や旨味を足す材料は?トマト使うって言ったって、今はドライトマトしか在庫してないんだろ?先に言っとくけど、俺らの持ってるケチャップは、今回でかなり使っちゃったから提供はできないぞ」

「……そうなのかい?」

「そうだよ」

「何て事かねぇ…………(←軽くショックを受けてます)……村長さん!なら、早いとこ砂糖を作っておくれよ。トマトの代わりになる材料か、ドライトマトからソースを作れないか、私が研究するからさぁ!」

「そうじゃの、ハンナ。儂の口が、『(焼きそばパンを)もっと欲しい』と訴えてきておるからのぉ。できる限り早急に、砂糖を作れる体制を作ろうかの。

ところでレイ、この事を、領主のラルゴ様に報告して構わんか?そうすれば、緊急予算を組んで貰える可能性が高いのじゃが……」

「……どう思う、ユウ?」

「何で、俺に振るんだよ!」

「基本、いろんな要因(『歴史の復元力』の仮説など)があるから、俺個人として、今は賛成しかねる考えなんだが、ヴィッチのじっちゃん達の状況を察するにそういう慎重論は従いかねると思うんで、ユウの意見で妥協案を提示して貰おうかと……『我々よりニュータイプに近いユウなら』できるはず(にやりング←少しにやけてます)」

「(少し呆れつつ、にやりング)『人が…そんなに便利になれる訳が……ない…………』だったっけ?そういう日常会話にネタを仕込むのは、どうかと思うぞ。ココでは俺しか分からないネタだし」

「こういう事するのが、好事家(マニア)(さが)だ。諦めてくれ」

「……今の会話の、どの辺がネタと呼ばれるモノだったのじゃ?儂らには、さっぱり分からんかったんじゃが?」

「それは、俺とユウが居たトコでは、結構有名な…作劇で、社会現象まで引き起こした「ヴィッチさん、チョット待った!」」

「? どうしたんじゃ、ユウ?」

「それ以上レイに語らせちゃいけない。この話を始めるとレイは、半日以上延々語って止まらなくなる」

「そうなのか?」

「そうなんです」

「そうか……ある意味、トーマス神父やソーンと同じ仲間なのか?」

「誰それ?……って、ソーンさんは分かるか。 ヴィッチさんがそう理解してくれれば、それで良いです。 んじゃレイ、話の続き。俺としては、妥協案として姫さんに話を通して領主のラルゴさんに前フリをして貰うのと並行して試作品を作り、そっから現物と一緒に『あまり拡大生産しない』という条件を含めて予算の申請をすれば良いと思うんだが?」

「……まぁ、ユウがそう言うんなら、ベターな選択なんだろうな。ヴィッチのじっちゃん、まずお嬢に話をしてからって事で良い?」

「無論じゃ。姫様なら、きっと色よい返事をくれるじゃろう」

「まぁ、融通できる範囲だろうけどね……取り敢えずココまでが、簡単に作れる俺らが知ってる料理の実演と、ハンナのソースについて語れるトコかな? こんなトコで良いかな?」

「む?……言われてみれば、確かに料理の実演をして貰う話の流れじゃったのぅ。実に興味深かったの」

「そうだねぇ……村長さんが連れてきたから、何か有益な情報を教えてくれると思ったけど、予想以上だったよ。奇妙な格好をしてるけど、凄いんだねぇ……取り敢えず教わった事は、今後に活かさせて貰うよ」

「? 俺らって、言われる程の変な格好してるか、ハンナ?」

「してるさね。ねぇ、ケイト?」

「そうね。上下共に黒い服ってのは無い訳じゃないからアリかと思うんだけど、黒い服の下に着ている白いシャツ。まず、そこまで綺麗な白色の服は見た事ないし、縫製も物凄く丁寧で仕立てが良いわよね。それに、黒くて分かりにくいけど下のズボンも同じように下手が良いし、ズボンを抑えているベルトが凄く丁寧に作られているし、履いている靴も見た事無い形をしているわ。

おじいちゃんが連れてきた人じゃなかったら、服装一つで『自分は奇妙な人物です』って主張してる人に警戒心を持たない人って居ないんじゃないかしら?」

「………言われてみりゃ、その通りだな。 んじゃヴィッチのじっちゃん、今すぐで構わないから、俺とユウの普段着を用意して貰うってできる?」

「まぁ、それ位なら、お安い御用じゃ。明日にでも渡せるかの。 それはそうと、レイ?」

「ん、何?」

「これで料理の方はお終いかの? 調理中に、最後に卵を使った料理をすると聞いておったから、心密かに楽しみにしてたのじゃが……」

「あ、忘れてた……まぁでも、すぐ作れるから、チャッチャと作っちゃうか」

レイはそう言うと、卵の入ったボウルを自分の手元に引き寄せるのだった。


 もうちょい料理回続きます。

ただ進行具合としては、次回からデザートみたいな部分に入るので、ボチボチ終了です。


 蛇足で、パイナップルが大量生産大量消費できるようになるのは、缶詰が普及して船便で物資を運べるようになってからです(記録では、ド○ル社が二十世紀に始めたそうです)。それまでは、本当に高級品だったそうです。

こういう話を聞くと、昭和三十年代のバナナの話(昔と今の、寿司のエビネタでも可)を思い出します。

 もう一つ蛇足で、もやしは、中国で廃れていた時期もありますが、古くは殷王朝、記録で残っている時代で二世紀には存在してたそうです(当時は、長さ15㎝くらいの黒大豆で作ったもやしだったそうです)。三国志の時代にももやしを乾燥させたモノを兵糧で用いてたと、記録にあるそうです(……知らんかった)。


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