第六話の四
料理回です。
いわゆるラノベみたいな作品ではあまり掘り下げて描写されない調味料について、作者なりに少し掘り下げてみようと頑張ってみました。
「何じゃ、この赤いのは?」
ヴィッチが不思議そうな、しかし興味津々な瞳を向けながら、レイに問いかける。
「ヒ・ミ・チュ☆」(ズパ―――――――――――ンッ!!)
小首を傾げながら片目を閉じて裏声気味に堪えるレイの後頭部を、ユウは刹那の早さでハリセンを叩き込む。
「痛いやん、ユウ!」
「やかましい!?何の前振りもなく、いきなしボケんな!!」
「え~~~、ええやん、別に。隙あらばボケるのは、基本やん♪」
「基本じゃないって!! それよか話が進まないから、続きを早よ!」
「ヘ~イ……取り敢えず、ヴィッチのじっちゃんの質問に答えるなら、これは『ケチャップ』としか言えない」
「ケチャップ?赤いケチャップなんてあったのかの? 初めて見るぞ……」
「? ヴィッチさんが知ってるケチャップって、何色です?」(←ユウ)
「黒とか焦げ茶とか……昔、一度だけ甘くて黄色がかったのも食べたのぅ」
「黄色?」(←ユウ)
「ユウ、多分バナナのケチャップだと思う」
「え? ケチャップにバナナのなんてあんの?」
「もともとケチャップって、魚とかキノコを発酵させて作る調味料の事だったんだけどね。ガルムソースも、ケチャップの仲間と言えば仲間だ」
「? え、そうなの?」
「何じゃ、ユウ。お主達の居た所では、違うというのか?」
「うん。そうだけど?」
「ん~~、俺とユウの居たトコだと、ケチャップって言ったら、この赤いヤツ一択つっても良い位なんだけどね」
「! という事は、この容器は中身が見えておるのか!?」
「あれ?ヴィッチのじっちゃんが喰い付いたの、そっちの方かよ……」
「レイ!この容器は、一体何でできておるのじゃ?」
「ヴィッチのじっちゃん、その辺の説明は長くて面倒臭いからパス☆」
「そんな事言わずに!!この白い蓋の部分の事だけでも良いから、教えてくれんかの?」
「ホントに話が長くなるんだってば……ヒントだけ言うと、石油って知ってる?」
「……土瀝青(注:アスファルトの事です)の原料の事かの? 昔、仕事でギリシャの更に東に出向いた時に、現地の者から教えて貰った事があるのぅ。 あ、あと、エジプトで大昔のミイラに、防腐剤として使われておったかのぅ」
「正解。それと、酒の蒸留法って知ってる?」
「ワインからブランデーを作る際の製法かの?一応は、知っておるぞ」
「俺から言えるヒントは、こんなモンだ。 それ以上の知識は、俺やユウにはないよ」
「………………そうか。残念じゃのぅ」
「まぁ、それはとにかく……このケチャップの材料だけど、これについてはヴィッチのじっちゃんでも知ってるモノだよ」
「? 本当かの? と言う事は、赤い何かか……唐辛子かの?いや待て待て、作る工程の途中で化学反応した色かも知れぬの。むむむ……」
「リンゴかホオズキかねぇ?それか、エビとかカニからかい? 何にしても、こんな綺麗な赤い色は出ないだろうし……」
ヴィッチとハンナが、容器の外から見た状態のケチャップを見ながら予想を立てる。
そんなヴィッチとハンナ、黙ってじっと見ているケイトとマルガをニマニマ見つつ、何処からともなく取り出した竹串でキャップを撥ね上げたケチャップ容器の口に何度か突き刺してから(注:容器本体に付いた銀色のフィルムを破ってます)、適当な小皿にケチャップをひり出す。
「んじゃ、このケチャップを味見してみ♪」
レイに促されて、ユウとレイを除いたこの場の全員が小皿のケチャップに指をつけて、各々口に入れて指を嘗めるように味見する。
「んをっ!何じゃ、この味は!?」(←ヴィッチ)
「んんっ!しょっぱくて酸っぱいけど、何か美味しい!」(←マルガ)
「ホント美味しい……このまま食べるには、ちょっと味が尖ってて濃すぎるけど」(←ケイト)
「へぇ!面白い味だねぇ!?このままだとしょっぱさと酸っぱさとその次に来る甘味が目立ってるけど、その向こう側に底が見えない美味しさを感じるよ」(←ハンナ)
「ハンナ、凄えな。的確にケチャップの味を捉えているよ」
「そうかい?褒められて嬉しいけど、この味は何だい? 原材料を当てたくても、味が絶妙なバランスでまとまり過ぎてて判別できやしないよ」
「このケチャップを作った人が聞いたら、凄く喜びそうなコメントだな……一応、多分、恐らくは、この村にある物で、そっくりそのままとまではいかないけど、ほぼ同じ物が作れるよ。ただ、この味に限りなく近づけようとしたら、品種改良が必要だと思うけど……」
「! って事は、野菜かい!? 野菜のケチャップなのかい?」
「うん、そう」
「でも、こんなに美味しい野菜なんてあったっけ?」
「今はどうか知らんけど、それ位の潜在能力を秘めた野菜があるでしょ?」
「本当かい!! もし本当なら、村の特産になるよ、村長さん!?」
「そのようじゃの……レイ、そろそろ教えてくれんかの?」
溢れんばかりの好奇心を瞳に宿し、ハンナとヴィッチがかぶりつくようにレイににじり寄る。
「そんな大袈裟なモンじゃないよ……トマトだよ」
「…………は?」(←ヴィッチ)
「………えっ?」(←ハンナ)
「いや、そんな意外そうな顔をしても……このケチャップの主要な原材料は、トマト以外の何物でもないよ」
「嘘じゃろ? トマトがこんなに酸っぱくならないなんて……」
「嘘でしょ? トマトから、こんなに生臭みが抜けてるなんて……」
「嘘言ってどうすんだよ。とは言え、このケチャップに使われているトマトは、ヴィッチのじっちゃんが知っているトマトより、生臭みを抜いて酸味を和らげて甘味を増すように品種改良したトマトだと思うけど」
「何と!」(←ヴィッチ)
「へぇ!? 凄いトマトがあったモンだねぇ……と言う事は、このケチャップの酸味は、トマト由来の味なのかい?」(←ハンナ)
「それと、酢の酸味だよ」
「へぇ!?じゃ、甘味は?」
「トマトと砂糖の甘味だよ」
「……それじゃ、しょっぱいのは?」
「普通に、塩の味だ」
「私じゃ底が測れなかった美味しさは?」
「トマトが持っている、俺とユウが居たトコだと『旨味』って呼ばれる味だ」
「レイ、旨味って何じゃ?どんな味なんじゃ?」(←ヴィッチ)
「ヴィッチのじっちゃん、簡単に答えられない質問は困るんだけど……強いて言うなら、『味のない味』、『舌じゃなくて、口全体で感じる味』、『身体が欲しがる味』って言ったトコかな。 舌ではっきりと感じる訳じゃないから認識し辛いけど、経験則的に無意識のうちに味わっている味だよ」
「………………………何ぞ実態の掴みにくい理解し辛い物言いじゃが、レイの言葉から察するに、儂らは意識してないだけで、普段から味わっておる味じゃと言う訳かの?」
「ヴィッチのじっちゃん、正解。 度合いの多少はあるけど、何となく食べてる食べ物の中に、旨味ってヤツはそこかしこに含まれているよ」
「レイ、例えばどんな食べ物に含まれているんだい?」(←ハンナ)
「例えば……チーズ」
「チーズかい?」
「肉」
「肉にもかい!?」
「他にも、豆類、キノコ、魚の干物、ジャガイモ、リンゴ、海藻類、牡蠣とかの貝類にも含まれてるよ」
「にわかには信じ難い話だねぇ……」
「そうじゃのぅ。『味のない味』というモノが、どういうモノなのか想像できんのぅ……」
「ん~~……んじゃ、ヴィッチのじっちゃん、喉が渇いた時に飲む冷たい水とか重層鎧を着込んで息苦しくなった後、鎧を脱いだ時に吸い込む空気とか、『美味しい』と感じた事ない?」
「まぁ、そうじゃの……分かるような気はするが、違っている気もするのぅ」
「まぁ、実際に違うんだけどね。ただ、強いて似たような事例を挙げるなら、そう言う時に感じる『味』が、『味のない味』に近いとしか言いようがないんだけど」
「むむむ……分かったような分からぬような答えじゃのぅ」
「村長さんの言う通りだねぇ……取り敢えず、その旨味とやらはまたの機会に教えて貰うとして、今はケチャップの話をしないかい?」
「そうじゃのぅ。ハンナの言う通りじゃの」
「いや、話が逸れたのは、ヴィッチのじっちゃんのせいだと思うんだけど……」
「いや、疑問に思った瞬間に質問しとかんと、聞きそびれたままになる気がしてのぅ」
「まぁ、半分当たってる気もするけど……とにかく、このトマトケチャップ! このケチャップがあれば、ホットドッグの完成形、ひいてはハンナの試作してるソースの改良にも繋がるかも知れない代物だ」
「エラい持ち上げようだけど、そんなに凄い代物なのかい? このトマトのケチャップって?」
「ある意味、凄いよ。 凄くなった背景に、大量生産と大量輸送と大量消費できる受け入れ体制とシステムができたって事があるけど、『母親の味と言ったら、ケチャップ味』という世代と『ケチャップ以外の味付けが廃れた』と言って嘆く世代が啀み合いかかった時期があった位、凄い存在感を示した調味料だ」
「レイ、質問が……」
「ヴィッチのじっちゃん、長くなって面倒臭いから説明はパスね☆」
「そうだよ、村長さん。今は、このケチャップだよ! 他の質問は、後回しにしておくれよ」
「いや、しかし、それだと質問する機会が……」
「とにかく、この場は私に譲っておくれよ、村長さん。試作中のソースの、完成のヒントがあるなら教えて貰いたいんだよ」
「…………(少し渋った表情を浮かべつつ)うむ、分かった」
「ありがとうよ、村長さん。 レイ、このケチャップって、どうやって作るんだい?」
「俺もユウも、微に入り細を穿つトコまで詳しくはないけど、おおよその作り方は話せる。ただ、あくまで作り方だけなんで、美味しくしようとすると試行錯誤する必要はあるぞ」
「分かってるよ。今は、先に『答え』を教えて貰った状態だからねぇ。自分の実になるようにするには、試行錯誤なり実践なりで身に付ける努力をしなきゃならない事位は分かってるさね」
「……何つうか、ハンナはまともな心の有り様をしてるな」
「何だい、レイ?変に持って回った言い回しをして? 今まで我が家は、代々そういう風にしてきたんだ。今後も同じようにしていくつもりさね」
「職人気質だねぇ……んじゃ、ケチャップの作り方だけど、基本はトマトソースだ。トマトソースさえしっかりしたモノを作れば、あとは何とかなる」
「エラい断言した物言いだねぇ。トマトのソースって、そんなに重要なのかい?」
「重要だよ。 とは言え、新鮮で身のしっかり詰まったトマトを使って手順間違えなければ、ほぼ失敗なくトマトソースはできる。だから、そんなに構えて調理に挑む必要はないぞ。トマトソースの作り方には幾つかパターンがあるけど、トマトの食感を楽しみたければ賽の目切りにしたトマト、滑らかな口当たりを追求したければ最初に実を搾ってジュースにしてから調理するか調理した後、ひたすら裏漉しして口当たりを柔らかくする方法がある。 ケチャップは後者、ドレッシングなんかのバリエーションのソースの場合は前者、ピザなんかに使うなら使う具材により選択ってパターンが主な使用法になるよ」
「なるほどねぇ……ところでピザって、平たくした生地にオリーブオイルとチーズとハーブを載せて、窯で焼き上げるパンの事かい?」
「そうだよ。知ってるの?」
「当たり前だよ。今竈で作ってるチーズの一部は、明日売る予定のピザに使う予定だよ。そこのテーブルの上にも『ピザ用』って書いた袋に材料が入ってるだろ?」
「ホントだ……んじゃ、後でピザ生地一枚分の材料を頂戴。『なんちゃって』だけどマルゲリータピザを作っちゃるヨ……というか、作らせろ♪」
「何か、乗り気だねぇ、レイ。ケチャップの作り方を聞いたら、勝手に使って構わないよ」
「サンキュ~☆ ところで、ハンナがピザの作り方を教わった時期って……?」
「直接教わったのは、私が小さい子供の頃、祖父さんから教わったんだよ。 祖父さんは、曾祖父さんがまだパン屋の見習いだった時に、ナポリから来た行商人から教わったって聞いたよ」
「………なるほど了解。 ホンじゃ続きだけど、潰したトマトにタマネギ、ニンニク、オレガノなんかのハーブ、オリーブオイルを適量混ぜて煮詰めるだけだ。トマトソースは、それでできる」
「あら、えらい簡単だねぇ」
「基本だからな。ただ、入れる具材の量を間違えると不味くなるから、量の加減には注意しとくれ。 で、トマトソースを作ってる最中で、酢やハーブなんかをえて少し酸味を強くしてやればピザに合うソースになる。 最後にトマトケチャップだけど、基本のトマトソースに砂糖、塩、摺り下ろしたタマネギの追加、シナモンやコショウのスパイスを突っ込んで、酸味と甘みを引き立てさせながら半分位になるまで煮詰めてやる。すると、美味しいケチャップができるって訳だ」
「量の加減が難しそうだねぇ……」
「美味しさをトコトン突き詰めれば、どんな料理でもそうなるよ。そこそこの味だったら、基になるトマトの旨さのおかげで、結構いい加減にやってもそれなりの味に落ち着くよ」
「なるほどねぇ……で、そうやって作ったのが、レイの持ってるケチャップって訳かい?」
「そうだよ。丁寧に裏漉ししまくったおかげで、ここまで滑らかな舌触りになっているんだけどね。
そのケチャップを、あらかじめ作っておいたホットドッグ(注:一つ目のホットドッグと一緒に作ってたヤツです)に、ピクルスのみじん切りと同じように盛ってきます。今回は、更に俺の好みで大体二倍弱盛るよ☆ んで、マスタードは盛り方を変えて、こんな感じで蛇行する感じでうねうねと付けてくと……
ホイ♪これでホットドッグの完成☆(サクサクサクサク←ホットドッグを切った音)
ホイじゃ、早速食べてミソ☆」
「……要は、さっきのホットドッグのピクルスの代わりに、トマトのケチャップを付けただけじゃろ? それで、何処まで味か変わるというのかのぅ?(ぱくっ)…………んふぉ!!これは!? トマトのケチャップをかけただけで、こんなにも味が変わるモノなのか!?」(←ヴィッチ)
「あら!美味しい……さっきのホットドッグと食べ比べてみると、ピクルスの酸味がケチャップに比べて強かったのね。さっき食べたのより、格段に食べやすく、美味しくなってるわ」(←ケイト)
「んんん~~~~~っ!!おじいちゃん、お姉ちゃん、凄く美味しいの!?少し酸っぱいけど、甘くてさっぱりしていて、何だか知らないけど、トマトの味とそれ以外の味が深く口の中で広がってるの!! 何かの味っぽいヤツが、レイの言ってた『旨味』ってヤツなのかな?」(←マルガ)
「こりゃ、驚いたねぇ……ホットドッグが、ケチャップないと完全じゃないって言ったレイの言葉に納得したよ。こんなにも美味しくなるなんて……でも、このケチャップって、調味料にしちゃ味が濃すぎないかい? 肉みたいな味の濃い食べ物に使うにはちょうど良い位の味の濃さだけど、そうじゃない食べ物に使ったらケチャップの味が前面に出て、ケチャップの味以外しなくなるんじゃないかい?」(←ハンナ)
「あっ!ハンナお姉ちゃんもそう思ったの? でも、それでも、このケチャップって凄く美味しいの!元々味がそんなに濃くない食べ物なら、ケチャップで凄く美味しくなるような気がするの!!」(←マルガ)
「ハンナにマルガは、的確にケチャップの特徴を捉えてるなぁ。 ケチャップの味にハマったヤツは、ある程度の例外を除いてだいたいケチャップベースの味一辺倒に好みが偏りやすいんだよ」
「そうなのかい?」
「とはいえ、ケチャップも元々はトマトソースベースの調味調だから、利用範囲はかなり広いよ。例えば……」
レイは、テーブルの上にある小さめのボウルにマヨネーズとケチャップを多めに放り込むと、木匙でワシャワシャと掻き混ぜ始める。
「(コッコッコッ……)こんな感じでケチャップとマヨネーズを合わせると、通称『オーロラソース』ができる訳だ」
「オーロラソース?レイ、何それ?美味しいの!?」
「食い付きが良いな、マルガ。少なくともユウは、オーロラソースがあれば、野菜だろうがスルメイカだろうがサンドウィッチだろうが肉だろうが、ばくばく食べまくるようなソースだぞ」
「レイ、私にも頂戴!?」
「急かさんでも、試食はさせるって。 ホレ♪」
レイは手早く薄切りしたパンにオーロラソースを塗り、マルガの口に放り込む。
「(もにゅもにゅ……)ん~~~!!何コレ!美味しい~~!?マヨネーズとケチャップのちょっと酸っぱい味が『酸っぱい』じゃなくなって、美味しい味に変わってるぅ!!!凄く美味しいの!?」
「ふっふっふ……細かい説明は省くけど、マヨネーズとケチャップが混ざる事によって、卵とトマトの旨味が前面に出てくるんヨ☆ まぁ、正式なオーロラソースは、ベシャメルソースに裏漉ししたトマトピューレとバターを混ぜたヤツなんだけどね」
「(ぱくぱく)へぇ~、これまたホントに美味しいじゃないか!! レイは、よくこんなソースを知ってるねぇ? でも何で、『オーロラ』のソースなんだい?」(←ハンナ)
「フランス語で、『明け方』とかいう意味の『オーロラ』らしいよ。ソースの色が、そんな感じに見えるから、オーロラソースって名付けたらしい。 今回作ったオーロラソースは代用品だって言われりゃそれまでだけど、俺とユウの居たトコだとこっちが馴染みの味って位、こっちのソースが作られてるんだよね」
「へぇ~!レイにとっちゃ、『家庭の味』って訳かい?」
「ん~、家庭の味とはちょっと違うけどね。 まぁ、ユウにとっちゃ『魂の味』ってトコだろうけどな」
「そうなのかい?」
「……アレ見りゃ、納得するだろ?」
そう言って、レイはユウを指差す。
指差した方向に、野菜と言わずパンと言わず、手当たり次第の食べ物にオーロラソースを塗りたくって貪り食うユウの姿があった。
「(パクパクパク)うンめぇ~~~♪(ぱくぱくもしゃもしゃ……)」
「ユウは、一体どうしちまったんだい、レイ?」
「あ~~~……暫く放置プレイしてくれるとありがたいんだけどね。 何せ、当分……下手したら今後一切食べられないと思ったオーロラソースが、話の流れとは言え食べる機会ができたんだ。落ち着くまで、ユウの好きにさせて貰えると助かる」
「そんなにオーロラソースが好きなのかい、ユウは?」
「オーロラソースを発明したのがどっかの王様だったら、間違いなく一生忠誠を誓う程度には好きだったはずだよ」
「どんだけ入れ込んでいるんだい、ユウは……」
「あと、醤油なんかもそんな感じで好きだったはず」
「…………レイは、どうなんだい?」
「俺は『好きだらけ』の人間だからなぁ。 『好き』なモンは一杯ありまくりだけど、『嫌い』はないヨ(キリッ)」
「おや、そうなのかい?」
「まぁ……『苦手』……というか、極力食べたくないモノはあるけどな。 南米にあるという蟻の入ったライスとか、エイのアンモニア漬けみたいなヤツとか、一部部族で食べられている牛糞を使った鍋料理とか、コウモリの糞から取り出す蚊の目玉のスープとか、頭丸ごとで出される猿の脳みそとか、シュールストレミング(注:今のところ、世界で一番『臭い』と言われる鰊を発酵させて作る食べ物。北欧方面に支持者多し)とか、サルデーニャ地方のカース・マルツゥとか……」
「ちょっとお待ち、レイ!!今、カース・マルツゥって言ったかい? それって確か、生きた蛆虫が入ったチーズじゃないのかい?」
「おぉう、知ってんの、ハンナ?」
「祖父さんの日記にあったんだよ。『味は強烈でクセはあるが、好きな人にはかけがえのない味に感じると思う。ただ、チーズの中身を開けると蛆虫がウニョウニョ蠢く様は、個人的に受け入れられない様相だった。』って書いてあったんだよ。読んだ後、想像して気分悪くなったから、良く覚えているよ」
「まぁ、そう思う人が多いって話は聞いた事があるよ。自分から進んで食べたいって気持ちにはならんけど……」
「レイが言ってるのは、どれも『ゲテモノ』系な料理じゃないか(はぁ~……←呆れの溜息)。そういう料理は、私だって遠慮したいよ。 取り敢えずレイは、普通の料理の範囲内だったら、嫌いなモノはないって事で理解しとくよ」
「そらどうも……んじゃ、そろそろユウ、食べるのを一時中断してくれるか? この後、料理の実演を交えてケチャップの特性を説明するから……ついでに、『鶏のから揚げオーロラソースがけ』を食べたいだろ?」
レイがそう言った途端、傍から見ると一心不乱に食べていたユウの動きがピタリと止まり、憑き物が落ちたような表情でレイの方に視線を向ける。
「……から揚げ?」
「あと、ケチャップがあるから、ハンナの作ったソースに混ぜて焼きそばも作ろうぜ♪熟成の作業はユウに任せるけど☆」
「焼きそばって……麺はどうすんだよ?ココにラーメン風の蒸し麺なんかないぞ?」
「ふっふっっふ♪本物は無理だけど、雰囲気が味わえる『なんちゃって』風のヤツなら簡単に作れるよ。丁度テーブルの上にパスタのスパゲッティがあるし……」
「ホントかよ?」
「まぁ、順繰りにやってくから、から揚げ作るのと、ピザ生地作るのと、できれば魚介類の出汁にしたいトコだけど、コンソメかブイヨンのスープを作るのと、ミラノ米でもインディカ米でも良いから米があったら御飯を炊いて欲しいんだけど?」
「何気に仕事が増えてんじゃん!?」
「まぁ、細かい事は気にしない☆ケチャップが使えるとなったら、試しに食べさせたい料理が増えるからねぇ……」
「分かったよ。順番に仕込んでくわ……悪いけどハンナ、米とスープの出汁になるような食材はある?」
「まぁ、米は明日の昼ご飯の販売用にパエリア用の米があるけど……スープは簡単なモノでも良いかい?それだったら、自分の夕飯と朝食用のスープが作ってあるけど……」
「中身の具は、何じゃらホイ?」(←レイ)
「食い付きがいいねぇ、レイ。自分で食べる用だから、商売で余った野菜の切れ端がいろいろと、ほんの少しの鶏肉だよ」
「薄いチキンブイヨン風の味になるのかな?」
「まぁ、自分で食べるモノだからねぇ。間違っても贅沢なモンじゃないよ。ついでに魚介系の具材が欲しいなら、この間、村長さんに貰った魚の切り身の干物があるけど。 使うかい?」
「棒鱈か何かかなぁ?……まぁ、余裕があるならお願い」
「そうかい。じゃ、早速持って……「あ、それなら、私が持ってくるわ」」
ハンナの言葉を再び遮るように、ケイトが話しかける。
「え?でも、また頼むのは……」
「良いのよ。ハンナは今は、教わる事に集中しておいて。 スープは、店の暖炉にかかっていた鍋に入っているのかしら?」
「すまないね……あと、魚の干物は、暖炉の近くに置いてあるよ。見れば分かると思うから、それも頼まれてくれるかい?」
「良いわよ。それじゃ、ちょっと席を外すわね」
ケイトは目的の物を取りに、再びその場を離れて行った。
「ホンじゃ、話をまた戻すけど、このオーロラソースには、地味に有効な特性があってね……マルガにちょっと聞きたいんだけど、苦手な野菜はあるか?」
「え、私? ええっと……ニンジンと……セロリとかチコリーとかかな?」
「ニンジン以外は、子供にとっちゃ苦く感じるモンばっかだな。っつう事は、ケールやパセリも苦手か?」
「ケールって何か分からないけど、パセリはそうなの。ケイトお姉ちゃんには『身体に良いから』って言われているし、食べる量も小さいのが一つ位だから我慢して食べてるの……でも、レイはよく分かったわね?」
「まぁ、俺も小さい頃は、パセリとか苦手だったしな。それに、ニンジンを除くと、大体の子供は苦い野菜が不得手だからだ」
「……ニンジンは?」
「(シュシュシュカ←ニンジンの皮に近い部分を切ってる音)ホレ、ニンジンのこの部分だけ食べてみな」
「?(はむっ、もにゅもにゅ……)!何か、甘いの!これなら、食べられるの!?」
「まぁ、ニンジンは、皮に近い程甘みが強いからな。それに、生の状態が一番甘みを感じやすいんでな。逆に中心部分に近い程、何故か子供が嫌がるニンジン特有の風味が強くなる。だから、子供のニンジン嫌いをなくしていくには、子供の好きそうな味覚を感じさせながら味に慣れさせた方が良いぞ。 将来、子供を作る予定の人は、覚えておいて損はないヨ☆」
ズパ―――――――ン!!(←ハリセンの音)
「レイ、お前、子供(注:マルガの事です)の前で、何ちゅうネタを振るんだよ!」
「痛いなぁ……単純な育児ネタやんか」
「む~~……(←少し考えている)判断に困るネタを使いやがって」
「……いや、レイを庇い立てする訳じゃないけど、ちょっと納得できる話だねぇ。 私も昔、ニンジンは嫌いだったし。親から怒られながら食べてるうちに、慣れて食べられるようになったけど」
「ハンナがそういう反応するんだったら、俺からはレイに何も言えなくなるんだけど……」
「ふむ、実に興味深い話じゃのぅ。 儂も、今度試してみるかのぉ」
「えっ!ヴィッチのじっちゃん、まだまだ子供作る気満々の人だったん?」
「何で、そうなるんじゃ!?この村には、たくさんの子供がおるんじゃ! その子らの中に、食べ物の好き嫌いのある子供もおるんじゃ。ただでさえ食糧が不足がちになる状況で、好き嫌いのある子供に母親が困っておる訳じゃ」
「おぅふ……どんな時代になっても、子育ての悩みって普遍だねぇ。 まぁ、次に見せるヤツと併せて、ヴィッチのじっちゃんが試したかったら試してみれば?」
「『次に見せるヤツ』とは何じゃ、レイ?」
「オーロラソースの『地味に有効な特性』の話だよ、ヴィッチのじっちゃん」
ヴィッチに答えを返しつつ、レイはおもむろに手近にあったセロリを一束手で掴むと、適当な長さにポキリと折ってから外皮の筋を手で毟るように剥いた後、オーロラソースをたっぷり付けてマルガの前に差し出す。
マルガがセロリを何となくといった動作でレイから受け取ると、次にレイは追加でオーロラソースを掬った木匙をマルガに手渡す。
「ホイじゃマルガ、このセロリを食べてみな。ホンで、食べてる最中に苦く感じてきたら、この木匙を口に入れとけ」
「う……食べなきゃダメなの?」
「うん、そう☆」
にこやかに答えるレイを、少しばかり恨めしそうな目で見ながら、マルガはセロリを口に放り込む。
「はむっ(しゃくしゃくもぐもぐ)……ふぁふぇ、にゃぐぁふ(もにゅもにゅ……)ふぁっふぇふぃふぁ(ぱくっ←木匙を口に入れる)ふぉんん!(もにゅもにゅもにゅ……ごっくん←セロリを飲み込んだ音)……何か、あまりセロリの苦いの感じないで、食べれちゃった。 美味しかったの♪」
「ほほぅ……興味深いのぅ。マルガがアッサリとセロリを食べるとはのぅ」
「ほほぅ、普段はもっと嫌々食べてるって事かな、ヴィッチのじっちゃん?」
「まぁ、そうじゃのぅ。たまにケイトに言われないと食べない時もあったからのぅ」
「だって、苦いのがどうしても我慢できない時があるんだもん……」
「まぁ、子供らしい反応だよな。『苦み』『酸味』『辛み』が強い味は、子供が嫌がる味覚だからな。その辺の味覚に関しての話を始めるとまた長くなるから今回はしないけど、子供の嫌がる食べ物を無くしていくもう一つの手段として、今回のオーロラソースみたいに該当する食べ物より強い味(注:カレー、ケチャップなど)でマスキングする方法がある。 今回はオーロラソースに使ったケチャップのトマトの旨味とマヨネーズに使った油がセロリの苦みをマスキングして食べやすくしてる訳だ。一応、マヨネーズだけでも効果はあるよ。ただ、トマトの旨味がない分、効果は少し落ちるけどね。 まぁ、次のトマトが収穫できた時にでもケチャップを作って、試す気があったら試して頂戴」
「ほほぅ、なかなか興味深い話じゃの。 ちなみにドライトマトで、ケチャップを作れぬかの? そうすれば、すぐにでも作ってみようかと思うのじゃが……」
「ん~~……ヴィッチのじっちゃん、例えば干し肉から焼き加減がレアのステーキを作れる?」
「……作れんのぅ。 そういう事か?」
「そういう事☆無理矢理作ったとしてもそれは、ヴィッチのじっちゃん達が今食べてるようなケチャップにはならないよ」
「ふぅむ……ハンナに余裕があれば、ドライトマトからも作れないか研究して貰うのもアリじゃが……何にせよ、まずは普通のトマトからケチャップを作ってからになるかのぅ」
「まぁ、そうだね。その為にも、まずトマトを植える……」
ジュワアアアアア・・・・・
レイの言葉を少し掻き消すように、部屋の中で油が弾ける音が響く。
この部屋にいる全員が音のした方に首を向けると、ユウが竈の上にある大きな鍋に何かを放り込んでいた。
「おっ、ユウ!? 『揚げ』の段階に入ったのか?」
レイが、頬を綻ばせながら問いかける。
「あぁ。 そのまま食べるならできたてが一番良いけど、パンに挟むなら少し粗熱を取った状態が良いだろ?」
「まぁ、そうだな。 あっ!?すっかり忘れてたけど、片栗粉はどうしたん?お嬢達に実演して作った時は『初めて』見たような感じだったから、ココにはないだろ?」
「んなモン、から揚げって聞いた時点で予想できたろうに……まさか、から揚げ作れって適当に言ってたのか?」
「ピ~ピ~ピ~~~……」
「口笛になってねぇよ、レイ。(はぁ~~←溜息)まぁ、そんな事とは思ったよ。時間もないから、適当にあったジャガイモから魔法でさっさと作ったから、から揚げはちゃんとできるよ」
「さすが、ユウ。気の回るこって……」
「まぁ、レイと連んでれば、イヤでもそうなるワ。 あと、隣の竈で米を煮炊きしてるから、できあがった後はケチャップライスでもチキンライスでも好きに作れよ。 ちなみに米は、ありがたい事にジャポニカ種みたいな米だった」
「何ぃ!!」
慌てて竈に駆け寄るレイ。
竈の上にある大きめのフライパンに入っている米は、少し黄色みがかっている(注:精米が不完全な状態です)が確かにユウの言う通り、インディカ種の米に比べて丸ッと太ったカタチのジャポニカ種のような米だった。
「ぬ、ぬぁにぃ!!!! こりは、ビッくらたまげた門左衛門!?」
叫ぶまではいかないが、大きな声を上げつつ奇妙な踊りみたいな動きをするレイ。
それを近くで見ているユウは、久々に見たと言わんばかりの目をしつつ、淡々と言葉を出していく。
「レイは本当に驚いた時は、意味不明な事言いながら妙なリアクション芸するよな……」
「まぁ、細かい事は気にするな。身体が勝手に動き出してるだけだ。わざとやってる訳じゃないよ。 それより、ヴィッチのじっちゃん!この米は、何処で手に入れたの!?」
「何を急に、興奮しながら質問しとるのじゃ? その米は、この村で作っておる米じゃ。まだ試験的に育てているだけじゃが……」
「マジ!? 何でインディカ米じゃなくて、ジャポニカ種みたいな米を手に入れられたの?何処で種籾を手に入れたん?まだ在庫あんの?試験的って事は、まだ本格的に育ててないって事?でも、在庫があるって事は、収穫するまでは成功してるって事でしょ?この辺の土地って、米作りのノウハウって持ってたの?誰が陣頭指揮とってんの?それとも、避難民か何かに、誰かがノウハウ持ってたの?何で「ちょっちょっちょっと待つんじゃ!」」
マシンガントークで連続的に質問を繰り出すレイに、ヴィッチは慌てて言葉を遮る。
「待つんじゃ、レイ!何を興奮しておるのじゃ!取り敢えず、落ち着くんじゃ!」
ヴィッチの言葉で、ハッとした表情を浮かべて質問のマシンガントークを止めるレイ。
「……………あぁ、ごめん、ヴィッチのじっちゃん。俺が心密かに望んでいた種類に近い米があったから、つい興奮しちゃったヨ」
バツ悪そうに頬を指で掻く仕草をしながら、レイは落ち着いた口調で話す。
「レイよ、そんなに興奮する程、米の事が嬉しかったのかの?」
「いや、嬉しいなんてもんじゃないよ!?俺が推測していた、この辺で獲れる米の種類は長粒種、通称インディカ米って呼ばれる種類の米だと思っていたから、この短粒種……ジャポニカ米みたいな米を見たから、あまりの嬉しい誤算に、食欲的な意味で興奮した」
「そうか……細かい事は置いとくとして、レイにとって米は重要な物らしいが、ユウはどうなんじゃ?」
「急に話を振られても困るけど……俺はレイと違って、親と一緒にあちこち渡り歩いてきたから、レイみたいな米への執着はないな。 米だろうが麦だろうが、肉だろうが虫だろうが、飢えないで生きられる分の食料があればそれで良いって思ってたし……まぁ、レイと連むようになってから美味い物とか珍しい物を食べるようになったから、その気持ちが薄らいできているけどね。現に今も、レイから教わったから揚げを作ってる訳だし。 まぁ、追々その辺りの米に執着する理由とか、どうでも良いようなマイナーな事まで知識を溜め込もうとするクセとかも含めてレイの口からヴィッチさんに語る日が来ると思うから、今は説明は省かせて貰うよ…………面倒臭いから」
「ユウ……レイのおかげで目立ってないが、お前さんもレイに似て、結構大概じゃぞ」
「まぁ、それはともかくとして、村長さん。言われるまで気付かなかったけど、確かに米の粒が短いし、煮込むと粘り気が強めだからパエリアにする時は油を多めに入れたり、煮込む時に粘り気を出さないようにスープをかなり小出しに入れたりして調整してたけど……私が知ってる米と特徴が違っているんだけど、何処で手に入れたんだい?」
「ハンナから、そういう質問が来るとは思わなんだな。 まぁ、厳密に何処からかわ儂にも分からんが、先の魔族討伐の時に戦死した傭兵仲間から貰った物でな。『上手く栽培すれば、麦の数倍の収穫量が見込める』と言われたので、飢饉対策として試験的に栽培しておるのじゃが……ハンナは覚えておるかのぅ?クートゥの事じゃ」
「クートゥ……あぁ、時々お菓子とか御飯をくれたおじさんかい?」
「そうじゃ」
「懐かしいね(←遠い目)。 確かに、村長さんがいた傭兵団に入るまでは『あちこち旅しながら、取り敢えず西に向かってフラフラ歩いてた』って言ってたねぇ」
「そうじゃ。そのクートゥが、儂と近年の食糧事情について雑談しておったら、先祖伝来の食糧と言う事で米を譲ってくれてのぅ……『米は種籾の状態なら、四、五年は保つ』と言っておったが……」
「ヴィッチのじっちゃん、それじゃ誰が米を作って「おい、レイ!ちょっといいか!?」?……何、ユウ?」
「から揚げ作るのがそろそろ終わるから、俺は次にピザ生地作るんで、竈から離れるぞ。そうすると御飯までは面倒見切れないから、レイが引き継いでくれ」
「おぅふ……もう、そこまで作業を終わらせたのか、ユウ。調理のスピード速えなぁ、オイ。 さすが料理男子♪俺が女だったら、『きゃ~☆抱いて~~♪』位言ってるトコだな」
ズパ―――――ンッ!!
レイの頭に、ユウのハリセンが飛ぶ。
一瞬のタイムラグがあったのは、調理中ですぐに手が離せなかった為だ。
「気色悪いから、止めろっての!! さっさとヴィッチさん達に料理の実演と説明の続きをしてろよ。 ピザ生地作り終わったら、次にスパゲッティを茹でるから、茹で上がるまでに説明終わらせとけよ」
「あ~~~、期待に添えるよう、前向きに鋭意努力して邁進したく存じます」
「お前は、どっかの国の政治家かよ! んじゃ、竈から離れるから、後はヨロシク(*^^)/」
「ヘイよ☆」
半分ふざけたような返事をしながらレイは、ユウの作ったから揚げを大きめの木皿にこんもりと盛って、皿を手にしたまま元の位置に戻る。
「うぃ♪ホンじゃ、このから揚げを使って……の前に、一応味見して貰った方が良いかな?」
純粋に興味津々のヴィッチはさておき、食欲の絡んだ爛々・・・というよりギラギラした光を宿したハンナとマルガの目を見てしまったレイは、から揚げの試食を提案してみる。
「うん!!」
「そうかい、悪いねぇ。別に、物凄く欲しいという訳じゃないんだけどねぇ。だけど何だか珍しい料理だし、何かのソースっぽい水に漬け込んでたようだし、油を目一杯贅沢に使った料理なんて祭りの時でなきゃ食べられないし、油と何かの入り混じった凄く良い匂いがするし……」
「要は、食べてみたいって事だろ☆」
「…………そうだよ」
少しばつが悪そうに視線を逸らしながら、ハンナが答える。
横にいるハンナは、今にも襲いかからんばかりにから揚げを凝視していた。
「だったら素直に言やぁいいのに。 ホレ、出来立ててで熱いから、気をつけて食べろよ」
言いながらレイは竹串を刺してから、から揚げをそれぞれに手渡していく。
手渡されたヴィッチ達は、こんがり良い焼け色に染まったから揚げを感心そうに見た後、パクリと囓りだした。
「(ぱくっ)熱っ!ほっほっほっほ……(もぐもぐもぐ) !何じゃ、コレは!!」(←ヴィッチ)
「美味しいっ!! お肉が柔らかくて、凄く美味しい!!外側がサクッとして美味しい!!でも、中は汁気が一杯で美味しい!!お肉の味と……ガルムソースとニンニクとバジルとかの風味が、物凄く美味しく感じるの!?」(←マルガ)
「……驚いたよ!マルガの言う通り、外側はサクサクして内側はジューシー、しかも廃鶏の肉にしちゃ、かなり柔らかくなってるじゃないか!どうやって、柔らかくしたんだい!?これなら、みんな喜んで食べるさね! それに肉から溢れてくる、肉汁と違うこの風味!ガルムソースとジンジャー(注:生姜です)にニンニク、バジルにオレガノ、ナツメグまでは辛うじて分かるけど、あとは何が入ってるんだい?」(←ハンナ)
「八か……スターアニスとかハーブ系は適当に入ってると思うけど、ショウガが決め手かな?本当は醤油があると、もう少し味のまとまりが良いんだけどな。肉を柔らかくする方法は、今回代用で使ったガルムソースをベースにスパイスとハーブを配合したタレを作ったら、その中に鶏肉を入れて、後はひたすらタレが肉の筋と筋の間に染み込ませるように揉み込む事だな。そうすりゃ、肉は柔らかくなる」
「揉み込むのかい?」
「まぁね。 ただ、タレの味を染み込ませるだけなら五分、十分で済むけど、肉を柔らかくするまで揉み込むなら、その分タレの味をほんの少しだけ薄めに調整してやる必要はあるぞ」
「へぇ~、それがコツかい?(ぱくっ)ホントに美味しいねぇ。皿一杯に山盛りにされても、食べきっちまいそうな程クセになる美味しさだよ」
「気に入ってくれたのは嬉しいけど、そろそろ止めようか、三人共。次の料理に、取りかかれないから……」
「おぉ!すまんのぅ、レイ。年甲斐もなく遮二無二食べてしもぅたわい。こんなに美味しく感じる料理は、久しぶりじゃて」
そう言って、ほんの少しばかり申し訳なさそうな顔をして、後ろへ下がるヴィッチ達三人。
「まぁ、気持ちは分かるけどね。 から揚げってメニューは、御飯のおかずに良し、酒の肴に良し、おやつにも良し、冷めても美味しいから作り置きして、後から食べても良しって感じで、それこそ老若男女にもれなく好まれやすいモンだからな」
「へぇ~……」(←ハンナ)
「んで、このから揚げを(サクサクサクサク←から揚げを切る音)こんな感じで適当に切った後、さっきなんちゃってホットドッグで使ったパンの切れ込みにキャベツを少しねじ込んでから、から揚げを詰め込む……」
手際よく説明しながら、どんどん調理していくレイ。
ハンナとマルガは作業台に齧り付くように、ヴィッチは一歩下がった場所に立って、レイの作業を黙って凝視している。
「そんで、最後に切れ込みを半分埋めるような感じでオーロラソースを塗り込んだ後、味を引き締める為にマスタードを細~く付けていく……(サクサクサクサクッ←パンを切ってる音)
ホイ! そんな訳で、名付けるならいわゆるから揚げドッグの完成~♪
ケイトの分は、残しておいてやれヨ☆」
「(ぱくっ)ほほぅ!これは凄い!材料も作る過程も見ているのに、一つにまとまるとこのような味になるのじゃな。コレは美味い!」(←ヴィッチ)
「美味しい!から揚げとパンが凄く合ってる! それに、ソースがから揚げとパンの間にうまく入り込んで、味が分かれてない! あと、お野菜が全然気にならない位美味しく感じるの☆」(←マルガ)
「……オーロラソースって凄いんだねぇ……から揚げの味は美味しいと思ったけど、ソースのおかげで味が熟れてパンにも合うようになるとは思わなかったよ。こりゃ、トマトが収穫できたら、急いで作らないとイケナイねぇ。 味が一つにまとまっている感じがするのも、レイの言うソースのマスキング効果ってヤツかい?」(←ハンナ)
「それと、ソースに含まれるマヨネーズの脂味と、卵とトマトの旨味な。あと、補助的なモンで酢とトマトの酸味も、口の中をさっぱりさせるのに一役買ってるけど……まぁ、旨味を感じるのに適した料理を次から見せるけど、いいか?」
「勿論さね」(←ハンナ)
「お待たせ~。 スープの入った鍋を持って来たわよ」
意気込んで返答したハンナのすぐ後に、ケイトが気楽な声を上げながら鍋を両手に持ってゆっくりと歩いてくる。
「あら、既にもう、お料理作り終わった後なのね。なるべく急いできたつもりだけど、ちょっと残念……」
「モノは残ってるよ。簡単に言っちゃうと、ホットドッグのソーセージをから揚げに替えて、オーロラソースを「美味し~い!!」」
レイが解説してる途中で、から揚げドッグを口に放り込んだケイトは、大きな声を上げる。
「(もぐもぐもぐっ!)何コレ!から揚げっていうの!?凄く美味しい!!から揚げというのは、何の粉を付けて揚げたのか知らないけど、凄く美味しい!!でもこの美味しさは、鶏肉だけの美味しさじゃないわね!肉の美味しさと一緒にハーブやスパイス、ガルムソースっぽい味がするわ!!それに、このオーロラソース!?これがから揚げとパン、二つの違う方向に向いている美味しさを、一つに繋げてまとめているわ!!しかも、ソースのおかげか分からないけど、鶏肉特有の臭みが全然感じられない!!ハーブやスパイスだけじゃ消しきれない臭みが消えているなんて、凄い!とにかく美味しいわ!!」(←ケイト)
「……ケイトは、お嬢か昨日泊まった開拓村の村長夫人の親戚かよ!」
「? 何。それ? よく分からないけど……?」
「まぁ、細かい事は気にしないで……それはとにかく、オーロラソースの特徴は分かって貰えたと思うんで、ケチャップの話に戻そうか。 そんな訳でこのケチャップは、かなり使い出がある調味料だと思って貰えたと思うけど、個人的に最大の特徴は、熱が加わった後の旨味と甘み、酸味が少々の絶妙な味が最強だと思っている」
「これ以上に、もっと美味しくなるっていうのかい?」
「そうだよ、ハンナ。 とは言え、聞いただけじゃ実感できないと思うから、幾つか実例を見せとこうかと思う」
「美味しいモノが食べられるの!?」
「食い付きが良いな、マルガ。まぁ、そうなるな。 特にマルガのような子供が好きになりやすいヤツだ」
「ホント?」
「嘘言ってどうする?取り敢えず、御飯もそろそろ良い感じにできあがってきたしな……それに、ケイトがスープを持ってきてくれたから、それも使ってみようか? ところで、ケイトが今手にぶら下げている袋の中に、魚介系の具材が入ってんの?」
「えぇ、そうよ。おじいちゃんの昔の知り合いで……クートゥさんっていうおじさんが『非常食になるから』って、おじさんの故郷でやってる魚の保存方法を教えてくれたの。 それが、コレよ」
トンッ・・・
ケイトが袋から取り出した中身。
それは、かなり黒に近い焦げ茶色をした、枯れ木のような色合いの塊だった。
表面に薄ら付いている模様が入った銀色の部分が、魚を原料にしたモノだと想像できる。
「コレは!?」
ケイトが取りだした物を見た瞬間、レイは米を見た時以上の声を上げた。
訝しむヴィッチ達を無視して、レイは目を見開いて驚いている。
「嘘だろ……まさか、こんなモンがあるなんて…………」
レイは驚愕した表情を浮かべたまま口にした呟きは、ヴィッチ達の耳にはっきりと聞き取れた。
すいません。
今まで何で、あまり調味料について語られなかったかの理由を実感しました。
ホントにキリがない位情報が膨大で、細かくやるとひたすら終わらないんで、今後は端折り気味にやります。
それでも、かなり長くなりそうですが・・・。
取り敢えず次回は、ケチャップの残りと世界一堅い食べ物の先祖の話になるかと・・・。
この話の最後に出す卵料理まで、次回でたどり着けるか怪しいですが、気長にお付き合い下さいませ。




