第六話の三
やっと料理回です。
11/04訂正。
『赤い調味料』の調べ物でホットドッグも調べてたら、赤い調味料登場以前のホットドッグもアメリカを中心に各地に在る事を知りました(作者が、マ○ドナルド以外で件の調味料が付かないホットドッグを知らなかった為)。
そんな訳で、
『なんちゃって』→『古典スタイル』
に訂正させて頂きました。
「……ホンじゃま、食材も大体集まったし仕込みも終わったんで、ボチボチ作り始めるよ☆」
そう宣言したレイは、おもむろに作業台の上にあるバタール(注:中型のフランスパンです)をまな板の上に乗せると、スカスカと厚さ一㎝位の薄切りにしていく。
次にスライスしたバタールをまな板の上に整列させると、上面にマヨネーズとバターをブレンドしたモノを薄く塗っていく。
「……レタスとかの歯触りの良い野菜があるとバッチグーなんだけど、まだ収穫の時期じゃないようだから、代わりに冷水で晒して歯触りを立たせたタマネギのスライスと、ほうれん草、大根、カブ、人参の葉っぱをブレンドして軽く湯がいたのを乗せとくな。今回は、意図があってそのまま乗せてるけど、お好みで湯がく時間を短縮して歯ごたえを残した野菜にドレッシングを和えて乗せてもOKよ☆」
レイは口で解説しながら手際よく、パンの上に湯がいて少ししんなりした野菜を軽くのせていく。
「ホンで次に、ハムとかソーセージのスライスしたヤツを乗せてくよン♪お好みでチーズや焼き肉をのせても可」
パンの中央付近にに薄くスライスしたハムを折り曲げたものや、薄くカットしたソーセージを見栄え良く盛り付けていく。
「で、ここまで来たら、次にテーブルの上にあったマスタード(注:粒マスタードです)を、適宜スプーンで掬ってパンの中央に乗せてきます。この時、マスタードは塩とコショウで味を調えるのをは忘れないでチョ☆ 後はお好みで好きな調味料で味を調えて綺麗に皿に盛ってやれば、名前はないけどおつまみ用のお手軽なオープンサンドのできあがり。
コショウをケチらずに使えるって、ホント楽だワ。お嬢と泊まった開拓村だと最低限の量しか使えなかったから、スゲ~助かる♪
ほい、試食してミソ☆」
皿にのせたオープンサンドをヴィッチ達の前に差し出すレイ。
お手軽に作った割に、乗せた具の配置が良いせいか、貧相で不味そうには見えない。
「他の場所でのコショウなどのスパイスやハーブは、自生しているモノ以外は外からの供給に頼っているから致し方あるまい。この村では予算を組んで貰ってるから、比較的スパイスなどの在庫に余裕はあるが、値段が高めな事もあって、他の場所ではなかなかのぅ……ふぅむ。 どれ、一つ貰うとするかのぅ(ぱくっ)」(←ヴィッチ)
「え~と、それじゃ、一つ貰います(ぱくっ)」(←ケイト)
「え~……野菜は苦いのもあるから、そんなに好きじゃないの(ぱくっ)」(←マルガ)
「それじゃ、遠慮無く一つ貰うよ(ぱくっ)」(←ハンナ)
その場の全員が一口食べた直後、ユウとレイを除く全員が軽く目を見開いた。
「何だい、これは!マヨネーズの味のおかげで、野菜の渋みとか苦みがあまり感じないじゃないか!」(←ハンナ)
「それに、上に乗ってるハムの塩気がマヨネーズの酸味をうまく和らげて、美味しさの度合いを更に向上させてるわ」(←ケイト)
「うん!これ位の味だったら、野菜がもう少し多く食べられそうなの」(←マルガ)
「驚きじゃのぅ……マヨネーズとは、かくも食べ物の味を向上させる程の威力を秘めたモノであったか!?……もうちょい塩味が強ければ、酒のつまみに良いかも知れんのぅ?」(←ヴィッチ)
「う~~~ん……」(←ユウ)
試食した面子の感想を聞き流しながら、レイは次の調理に取りかかる。
なるべく皮の柔らかめのクッペ(注:『切れ込み』の名を持った、小型のフランス式パン。コッペパンのモデルという説もあり)を手に取り、片方の側面にナイフで切り込みを入れる。
「まず、パンの側面を下面に対して水平じゃなく、少し斜めになるように切り込みを入れてくのがポイント♪ こうすると、後で入れる具材や汁がこぼれ落ちにくくなるのよね☆で、切れ込みを入れたパンに常温に温めたバターを薄く塗ってパンの中に余計な水気が入らないようにして、次にケールっぽいキャベツ(注:葉キャベツの事です)の切れ端を水で綺麗に洗ってから、ねじ込んで下敷きにします。 で、あらかじめ作っておいたゆで卵をこんな感じで(←ゆで卵の入ったボウルにすりこぎ棒をゴスゴス突きまくる)グッチャリ潰して、程良く潰れたトコでマヨネーズを混ぜます♪ で、彩りのパセリを少々、みじん切りにしたキュウリのピクルスをお好みで適量、塩コショウで味を調えてできあがったのが、卵のパテ☆ 少しだけ体力要るけど、作り方は簡単でしょ?
そして、そのパテをパンの中に……キャベツの下敷きの上にどんどん乗せてく感じで詰めてきます。 軽くチョビッと膨らむ程度まで詰めたら仕上げにタマネギを輪切りにスライスして水に晒し、歯ごたえと食感を良くしたモノをサクサク入れて、適当な大きさに切り分けて皿に盛り付けてやれば、サラッとできあがり☆
片手で持ててランチや軽食に手軽で簡単に食べられる、『卵サンド』の完成♪
人数分に切り分けてあるから、一人一切れずつ試食してミソ☆」
「どれどれ……(パクッ)ほぉぉ!これは美味しいの!さっき試食したマヨネーズとゆで卵が合わさると、こんなにも美味しくなるモノなのか?」(←ヴィッチ)
「あら、美味しいわね♪ マヨネーズやピクルスの酸味が卵の美味しさを引き立てて、更にタマネギの辛みがアクセントになってパンと調和が取れてるわ。一つの料理として良くまとまっているわね。 それにゆで卵を使った具材がパテ状になっているから、口の中でパンに余計な水分が取られずにすんで、とても食べやすいわ」(←ケイト)
「ケイトお姉ちゃん!マヨネーズの油っぽい感じが、ピクルスの酸っぱさとかタマネギの辛さとか野菜の苦さがあまり感じなくて、凄く美味しく感じるの!? 凄く美味しい!! おじいちゃん、お姉ちゃん!コレ、お家で作れないかな!?」(←マルガ)
「こりゃ良いねぇ……卵のまろやかさがピクルスの酸味とタマネギの辛み、野菜の少しばかりの苦みをうまく包み込んでいるよ。マヨネーズにこういう使い方があったんだねぇ。レイは、ソーズ(注:この場合は、マヨネーズソースの事です)の使い方とかが上手いねぇ。勉強になるよ……ただ、今日はたまたま多く手に入ったけど、卵が安定して一定数以上は手に入るって事はあまりないから、せっかく教えて貰ってもお店の商品にはできないわ……でも、何かしらに応用できそうだねぇ。 レイ、相応の金は払うから、このアイディアを使っても構わないかい?」(←ハンナ)
「ん~~? 俺のやってる料理って、とうの昔に先人が培って完成させた料理だから、別に断り入れる必要なんかないじゃん」
「えっ!!そうなのかい?」
「『アイディアに国境はない』って、俺とユウが居たトコに昔居た職人さんの格言があってな。後になって『コレは、自分のモノだ』って主張したり、『このアイディアは、自分が考え出したモノだ』っつって独占したり、『アイディアは習得したから、もうお前は用済みだ』っつう感じで忘恩的な発言したり、高飛車に無理矢理利益をせびらなければ誰も文句は言わんでしょ」
「おや、そうかい? 貴重な知識やアイディアは、秘伝にして他には漏らさないのが普通なのにねぇ……えらい殊勝な心がけじゃぁないかい」
「まぁ、暫くはココにやっかいになるから、その辺も含めての『大いなる下心』ってヤツだ。教えた知識を基にしてもっと良い物を作って貰えれば、巡り巡って俺達はそれを享受できる立場になれるからな。 旨い食べ物は、誰だって食べてみたいだろ?」
「そういう事かい。 なら、遠慮なく教えて貰うよ」
「その代わり、良いネタができたら、俺にも教えてチョ♪」
「ふふっ……分かったよ。 でも、レイ達の住んでたトコってのは、大らかっていうか、脇が甘いっていうか、ずいぶん人が良すぎるんだねぇ。貴重な知識や技術は、一子相伝にするか何かして秘匿しとかないと、あっという間に好き勝手に盗まれちまうよ。しかも、『このアイディアはこちらが先に独自に考えたモノだから、勝手にマネするな。マネをするなら、相応の金を支払え』なんて言いに来る始末さね。だから私は、ただで『アイディアや技術を教えてくれ』って言ってくる輩は、信用しない事にしてるのさ。 そういう意味では、最初から良いアイディアを教えてくれたレイ達は、少しは信用おけるようだねぇ。ちょっと、死んだ曾祖父さんや祖父ちゃんを思い出したよ」(しみじみ……)
「そらどうも……ハンナは昔、その辺で何か嫌な事でもあったん?」
「実家の方でね……曾祖父さんの時代に今までよりもパンが美味しく仕上がるパン種を作り出してね……馬鹿正直に気前よくタダで教えたり、パン種を分けちまったんだよ。 で、それから何年か経ったら、いきなり役人がきて、『ココのパン屋で使っているパン種は、他のパン屋が独自に作り出したパン種を不法に入手、無断でそれを使用してパンを売っていると、被害者のパン屋から訴えがあった。よって、店主を聴取の為拘束し、店舗を差し押さえる』って言われてね。結局、曾祖父ちゃんがパン種を分けたパン屋のうちの数人が、曾祖父ちゃんの作り出したパン種を独占しようと共謀したって分かったんだけど、取り調べを受けている間、店は営業停止。加えて誰も立入りができなくて、パン種が全部ダメになっちまって、そん時まだ少年だった祖父ちゃんがパン屋を再建するまで廃業せざるを得ない状態まで追い込まれたらしいんだよ。 以来、実家のパン屋は、差し支えないモノは気軽に教えるけど、ある程度の秘伝は血縁にしか伝えないし、その中でも秘中の秘は一子相伝で、私は教わってないんだよ」
「あぁ、だから研究小屋を店の上に作って、独学してるのね。 んじゃ、その一子相伝とか言う秘中の秘は、まだ親父さんが握ってんの?」
「いんや。 戦役から復員してきた兄貴が、実家の店を継いだからね。今、修行の真っ最中のはずだよ。レイ達もまた城下町に行く機会があったら、商業区の真ん中辺りに実家のパン屋があるから、試しに食べてみておくれ。 味の方は、私の実家だし姫様やマルガが保証してくれるさね」
「へぇ~!? そうなの、マルガ?」
「うん。 口じゃ上手く説明できないけど、何となく微妙にマルガお姉ちゃんのパンより美味しいの。姫様は、『熟練の技と工夫』だろうって言ってたの。それでハンナお姉ちゃんがこの村に来るのが決まった時に、『ヴィッチの村に行っても弛まずに経験と研鑽を積めば、じきにハンナの実家に勝るとも劣らない出来映えのパンが作れるようになるじゃろ。じゃから、村に行っても研鑽に励むのじゃぞ』って言ってたの」
「へぇ~、お嬢の言葉を良く覚えてるな、マルガ」
「ハンナお姉ちゃんの作ったパンを食べながら聞いてたから、妙に覚えているの」
「ハンナの作ったパンって、猫型ロボットが出すパンかよ!?」
「レイ、そのネタは、俺以外誰も分からないって(ビシッ←ツッコミの音)」
「それに姫様、村に来る時に、よくハンナお姉ちゃんのパンを食べにお店に来るの」
「へぇ~……余程気に入ってるんだな、お嬢は」
「ん~、でも、やっと『部分的に、実家に並んだ味になってきたのぅ』とは言われるようになったけどねぇ……」
「まだ、道半ばってトコか?」
「そうだよ。だから、研鑽を止める訳にはいかないし、使えるモノがあったら、何でも使うつもりさね。 だから、村長さんが期待しているレイ達の『知識』ってヤツを、早く教えとくれよ」
「あいよ。それじゃ……「チョット待つのじゃ、レイ!」? どしたの、ヴィッチのじっちゃん?」
「チョットお主の今さっきの言葉で、気になる事があっての。『猫』は分かるのじゃが、『ロボット』って何じゃ?」
「おぅふ……ソコに引っかかったのかよ、ヴィッチのじっちゃん」
「お主達の話で、聞いた事ない言葉が出てきたからの。ココで聞き逃したら、以後は聞く機会がないと儂のカンが囁いておるのじゃ」
「ヴィッチのじっちゃんのカンは、『ガイア(注:囁いて服飾で輝かす方。耕す方ではない)』かよ……」
「レイ、そのネタも俺以外、誰も分かんないって……(ポスッ←ツッコミの音)」
「まぁ、細かい事は気にするな……ただ、ヴィッチのじっちゃん達に言っても、『ロボット』って何かイメージできないと思うから、概念というか……ヒントみたいなモンだけ言っとく。 ヴィッチのじっちゃん、オートマタって知ってる?」
「知っとるぞ。ただ、まだ比較的新しい技術じゃがら、熟れきっておらぬぞ」
「……知ってれば良いよ。あと、チェコ語で『Robota』の言葉の意味を調べてチョ。 俺の口からは、それ以上簡単に説明できる事はできないワ☆」
「チェコ語って、何処のどんな言葉じゃ?」
「……ハプスブルク領の、一地方の言語だよ」
「ハプスブルクって……広すぎるぞ。どれ位広いと思っておるのじゃ?」
「まぁ、暇を見つけて、じっくり調べてみればじきに分かるはずだから、腰を据えて取り組んで頂戴♪」
「むむむ……」(←漫画の三国志演義に出てくる武将調で……)
小さく唸るヴィッチを横目に、ユウがレイの耳に口を近付けてくる。
「(……なぁ、レイ。ハプスブルクって、俺らの居た世界じゃ第一次大戦近くの時代まであった領土っていうか、国じゃなかったか?)」
「(そうだよ。その辺りの時代でいろいろあって、幾つもの国に分かれたんだけどね。 ちなみにカレル・チャペックが戯曲でロボットの語源を初めて使うのは、第一次大戦後の一九二〇年、つまり二十世紀に入ってからだよ)」
「(ロボットって、そんな新しい機械の概念だったのか……俺とかは、産まれた時には既にあったから、歯車的なロボットは、もっと昔っからあるモンだと思ってた。でも、相変わらずよく知ってんなぁ、レイ。そんなマイナーな事……)」
「(フッフッフ……極々一部で狂った八十年代と言われた時代のロボットアニメにハマった奴なら、一部の奴にとってこの辺の知識は常識みたいなモンだしね……まぁ、ロボットが当たり前にある時代に産まれてくりゃ、そうなるワナ。強いて似たようなモンを挙げるとしても、一六世紀辺りから細々と発展した工芸品的なオートマタがイイトコだからな。 だから、敢えて簡単な説明で終わらせた。 ちなみに、既存にない新しい概念のモノを人に説明する時の苦労は、一五~一六世紀にまたがって生きたレオナルド・ダ・ビンチの事例で推測できんだろ?)」
「(? どの辺りの事例で?)」
「(ヘリコプターとか戦車とかの素描……)」
「(あ~~アレか。 でもアレ、全く違った別の何かって説もあったじゃん?)」
「(そうだよ。既存の概念に近いモノがないと、凡人は理解できないだろ?ヘリコプターじゃなければ、ユウは何だと思う?)」
「(……知らん。想像も付かん)」
「(だろ? ヘリコプター以上の概念がないから、想像できないだろ?)」
「(まぁ、そうだな。その通りだよ)」
「(そのヘリコプターの概念がないヴィッチのじっちゃん達に、ヘリコプターの説明はどうするの?)」
「(なるほど。だからロボットの説明も、簡単にヒントっぽい物言いにしたって訳か)」
「(そういう事☆)」
「……で?また二人でコソコソ話し始めた二人は、いつになったら作業を再開してくれるんだい?」
「すまんすまん♪ちょっとネタ合わせしてた(←ごまかしてます)。 そんな訳で、ユウはこれから唐揚げ作りに入るから、鶏肉と油を多めにプリーズ☆」
「鶏肉は、朝に〆たのが、私の研究小屋にあるよ。油は、そこの黒い瓶の中に入ってるよ。 あ、でも、その間に調理してるトコ見逃したら、私が損するねぇ」
若干、思案顔のハンナに、今までほとんど黙ってみていたケイトが声をかける。
「…それじゃハンナ、私が代わりに、取りに行こうか?」
「え?良いのかい?……いや、でも……」
「遠慮しなくて良いの。こういうのは、ハンナがまず覚えておかないと……」
「そ、そうかい?じゃ、頼んで良いかい? あ、そうだ!ついでに、試作中のソースも持って来てくれるかい?ついでだから、レイ達にも感想を聞いてみようじゃないか?」
「あぁ、あのソースね。 分かったわ」
そう答えつつ、ケイトは勝手知ったる他人の我が家と言った風情で、研究小屋のある屋上に繋がる階段に向けて歩いて行った。
「ん? 何か、独自にソースを作ってんの?」
「厳密には、独自じゃないけどね。実家の父さんが若い時に食べたって言う『黒いソース』ってヤツなんだけど、お金払って作り方教わったのは良いけど、未だに試行錯誤中のヤツがあってねぇ……」
「何、『黒いソース』って? 勿体付けたような名前だなぁ、オイ」
「名前のないソースだったからねぇ。その地方独特のソースだって、父さんが言ってたよ」
「ふ~ん……地ビールならぬ、地ソースってヤツか?」
「何だい、そりゃ? ま、何にせよ、商売に使うにゃまだ辛すぎる味なんでね……チョイとレイ達の意見を聞いてみたくなったんだよ」
「まぁ、参考にはならんと思うけど、それで良ければ……ホンじゃ、次行くよ。 まず最初のに用意するのが、今さっき使ったクッペ。これを上面を縦に切ります。切りにくい場合、火に近付けて刃を温めてやれば、比較的切りやすくなるヨ♪ 大体パンの七、八割位を切ったら、あらかじめ温まったオーブンとか釜に入れて、軽く焼き上げます。
で、その間に別の作業……次に用意するのが、今回は好みで入れるけど、入れても入れなくてもどっちでも良い葉キャベツを……ちょっと萎れかかってるんで、ユウの魔法で復活させます。 ユウ、ヨロぴク☆」
レイはそう言いつつ、葉キャベツの束をユウの目の前に差し出す。
ユウがテケテケテン(ポンッ!)といった感じで魔法をかけると、キャベツの束は一瞬白い煙に包まれ、その煙が薄れると、瑞々しくなった葉キャベツの束が現れた。
「……この葉キャベツを少し細かくザク切りにして、あらかじめ熱したフライパンに油をひいてから、ドサッと入れて炒めます」
ジュワアアアアア・・・ジャッ・・・・ジャ・・・・・(←キャベツを炒めてる音)
「ホイ☆ こんな感じである程度炒まってきたら、そこで登場するのがこのカレー粉。 ヴィッチのじっちゃんとかは知ってるんで、今回は説明を省くヨ。ただ今回は風味付けで使うだけなんで、軽く振りかける程度に留めときます。
で、満遍なくカレー粉が葉キャベツと絡まったら、ザルに移して粗熱を取ります。 何でザルに移したかというと、葉キャベツの水分でベチャッとならないようにする為だかんね☆ ちなみに更に風味付けしたい場合は、油じゃなくてバターを使えばOKヨ♪
そんで次は、まな板の上に乗ってる、このキュウリのピクルス! このピクルスを細かくみじん切りにしてきます(カカカカカカカカカ……←みじん切りしてる音)……ホンで最後に、こちらもあらかじめ鍋なんかで茹でておいたソーセージを持ってきます……結構美味そうなソーセージだな、オイ……コレで仕込みは終了。最後に仕上げに入ってきます。
オーブンからパンを取り出し、切れ目にバターを薄く塗り込んできます。 次に葉キャベツ。これを切れ目の中に、お好みの量を押し込んでいきます。そして、熱々のソーセージを、キャベツを押し込んで少し開いたパンの切れ目にセット♪ この状態でも食べられない事もないけど、美味しくする為、ピクルスのみじん切りをソーセージの横に沿うような感じで細く盛ってきます。 そんで、最後に粒マスタード。コレをピクルスのみじん切りと同じようにソーセージの横に沿っていく感じで軽く盛っていってやれば完成☆
『ホットドッグ クラシックスタイル』の完成で~~す♪ (サクサクサクサクッ!←ホットドッグを切った音)んじゃ、食べてミソ☆」
「ほほぅ(ぱくっ)……ほぅ!ソーセージの脂っぽい味がピクルスとマスタードの酸味でスッキリして食べやすくなったのぅ!」(←ヴィッチ)
「(ぱくっ)ほへぇ~~~!こりゃ、美味しいじゃないかい!村長さんの言う通りだけど、ソーセージの下にある葉キャベツが味を柔らかくして、カレー粉の風味が食欲を引き立たせてくれてるねぇ。それに酸味もそうだけど、粒マスタードの辛みが、全体の味に良いアクセントになってるよ!?」(←ハンナ)
「美味しいんだけど……でもちょっと、辛い………」(←マルガ)
「(もぐもぐ)…………あぁ、だから代わりにピクルスを多めに使ってんのか!?(←察し) まぁ、こんなモンだろうな……」(←ユウ)
「あっ、残り一つは、ケイトの分に取っといてやってね♪(ぱくっ)」
「うむ、分かった………ところでレイ、聞きたい事があるんじゃが、良いかの?」
「何、ヴィッチのじっちゃん?」
「このホットドッグというモノじゃが、何故『古典』なのじゃ?」
「ん~……俺とユウが居たトコでのホットドッグとは、決定的に欠けているモノがあるからだけど………ある調味料が加わる事によって、更に美味しさが増して完成されたスタイルになるんヨ」
「今食べたモノでも美味しいと思ったのじゃが、本来はもっと美味しいと言う事かの?」
「……まぁ、そうかな? それに、元々は『ドッグ』じゃなくて『ウルフ』の名前を冠した料理で、それの廉価版が(ズパ――――ン!←ハリセンの音)痛いやん、ユウ!」
「やかましい!突発的に何処ぞの装甲○兵ネタを入れるなっての! 俺しか知らないネタを振っても、俺以外に誰もツッコめないだろ!!」
「え~~。だって、『ドッグ』っつったら、その前は『ウルフ』って定番じゃん。やっぱ、『ドッグ』の名前が出たからは、何処かにネタを仕込まないと……」
「装○騎兵の開発史知らんと出てこないような、どマイナーなネタは俺以外ツッコめないし知らないから、使用は控えろよ!俺がツッコまなくて総スルーだったら、どうしてたんだよ!?」
「……考えてなかった」
「お~ま~え~な~……」
「ユウ、レイ、何じゃその、装甲騎○というのは?」
「「……面倒臭いから、説明は省略」」
「お主ら時々、物凄く息が合うのぅ。 まぁ、会話の流れからして、そう重要な事ではなさそうじゃから良いじゃろう。それよりも続きじゃ」
そうヴィッチがレイに続きを促した所で、ケイトが戻ってきた。
「戻ってきたわよ。取り敢えず、鶏の羽はもう毟ってあるから、バラせばすぐ調理できるわよ……って、どうしたの?」
「どうもせんよ、ケイト。ケイトの分のホットドッグ?が残っておるから、食べるが良いじゃろう。 ホレ……」
そう言いつつ、ヴィッチはホットドッグの残りをケイトの口元に持って行く。
「(ぱくっ)………美味しい!ソーセージもそうだけど、マスタードとピクルスの酸味でさっぱり食べられるわ! 何コレ!?あと、ほんのり香ばしい香りがする……何処かで食べた事あるような香りだけど、何だろう……」
「美味しかろう? じゃが、レイが言うには、もっと美味しくなるというのじゃ」
「え、ホント? あ、そうそう、コレが試作中のソースね。置いとくわよ」
ケイトはそう言いつつ、小さい花瓶程度の大きさの瓶をテーブルの上に置く。
陶器製の瓶は、白い釉薬で覆われているのみで模様も装飾もなく、ただ機能のみを体現したシンプル極まりない瓶だった。
「ふ~ん、これが試作中のソース?随分白くて固そうなソースだな?」
「「……え?」」(←ケイト&ハンナ)
「レイ、お前をよく知らない人に、いきなりボケをかますのはどうかと思うぞ?(ピシッ←ツッコミの音) 『それはソースじゃなくて、瓶やないかい!』なんてツッコミを期待してんのかも知れないけど、やらねぇぞ」
「……いや、目の前に軽くジャブみたいなボケができそうなシチュエーションになったら、普通はボケるでしょ?」
「いや、普通はしねぇよ(ビシッ←ツッコミの音)」
「ぶっ!!ぶあっはははは……」「ぷっ!……ぷあはははは!」
一瞬の間を置いて、レイのボケの意味を理解したヴィッチとマルガが、揃って吹き出し、そのまま笑い出す。
一瞬きょとんとしたケイトとハンナだったが、ヴィッチ達の反応を見た瞬間、一連のユウとレイの会話の流れの意図を察し、ヴィッチ達に続いて笑い出す。
ユウとレイを除く全員が笑い出した所で、レイは軽く目を細めて満足そうな表情を浮かべていた。
「ヨシッ! やっぱ、この辺の人は、笑いの沸点が低いみたいだな♪基本に近いボケで、笑いが取れる☆」
「俺としては、そこに意義を見いだされても困るんだけど……」
「まぁ、細かい事は気にするな……取り敢えず、このソースなんだけど……」
キュポン!と瓶の上のコルク栓を抜いて、瓶から出て来る匂いを嗅ぐレイ。
匂いを嗅いだ瞬間、レイの動きが止まった。
「何だよ、レイ?ビックリしたような顔して(くんくん←匂いを嗅いでる)……あれ?これって、もしかして?」
「あぁ!ちょっと、中身を見てみるぞ!?」
「おぅ!」
にわかに喜色混じりの声を上げ、嬉々として手近な小皿に瓶の中身を適量出すレイ。
瓶から出てきた液体は、少しドロッとした焦げ茶色をしたソースだった。
「(何か……時代が合わないような気もするけど、記録に残っていない分も考えれば……そもそも、いろんなオリジナルソースが作られた中で、リーペリ○が……)」
「レイ、何ブツブツ言ってんだよ? 取り敢えず、嘗めて味を確認しょうぜ?」
「あ?あぁ、そうだな……」
少し興奮気味に小指にソースを付け、口に含む二人。
「「…………………………」」
「あ~~~~おかしかった……で、どうだい二人共?思った事を、そのまま意見しておくれよ」
小指を口に入れたまま動きが止まったユウとレイに、ようやく『笑い』から復帰したハンナが二人に声をかける。
「…………………………あぁ~、うん」
「…………何と言うか……努力の跡は認める……かなり辛いし、物足りない味だけど」
「(はぁ~~~←溜息)やっぱり……って言うか、父さんに教わった通りに作った後、アレコレ手を加えたりしたんだけどねぇ。 どうしたら、良くなると思う?」
「……ちょっといいかな、ハンナ?」
「何だい、レイ?」
「試行錯誤してるのは分かったけど……まだ成功してないにもかかわらず、まだ諦めてない理由って何?」
「……それは、父さんの話で、『料理に振りかけたら、物凄く美味しくなった』って聞いたからさ」
「………………え?それだけ?」
「それだけって……それだけ聞けば、充分だろ?」
「まぁ、一面においては、その通りなんだけども。 ハンナは、ソースの実物を食べた事無いの?」
「父さんが試作したヤツは、食べた事あるわよ。研究中のモノだったけど、それなりに美味しかったよ。実際、父さんがソースの作り方を教わった時って、私はまだ生まれてなかったしねぇ。 それに、流石にソースの作り方を教わる為だけに女の一人旅をするなんて、危なくてできないよ」
「そらそうだ。盗賊や追い剥ぎの、絶好の獲物以外の何物でも無いわな……あと、ハンナのお父さんって、ソースの作り方を教わる時に、どの辺りまで細かく教えて貰ったの?」
「『どの辺りまで細かく』って?」
「材料の必要量位は当然として、材料の細かい加工法とか熟成期間とか?」
「教えてくれた人も、『適当に作ったら、美味しいのが出来た。大体、こんな感じで作った』って言ってたらしいけど……そんな感じだったから、細かい事は聞けなかったって父さんは言ってたよ。だから、未だに試行錯誤してるのさ」
「なるほど……まだ発展途上の最中か。だったら、改良点位は自覚してんでしょ?」
「まぁ、ある程度はね。 でも、それをどうやったら改良できるか、そこで悩んでいるんだよ。それで、どうだい?感想を聞かせておくれよ」
「隠し味として、料理にチョコッと混ぜる位なら及第点を付けられると思うんだけど……今さっきユウが言ったように『かなり辛いし、物足りない味』だし、ハンナが言うように売り物にするには厳しいな」
「む~~。 分かっちゃいたけど、身内以外から言われると少し堪えるねぇ」
「まぁ、誤魔化さずちゃんと意見を言ってくれた人の為にも、これからも精進するこったね。厳しいだろうけど地道に励んでいけば、結果としてそれが一番早道だ……ところで話は変わるけど、このソースって、使ってるスパイスって、コショウ、唐辛子、クローブ、ナツメグ、シナモンと……それ以外は?」
「驚いたねぇ。少し嘗めただけでそこまで分かるのかい?あとは風味付けにセロリと、ローリエ、セージ、タイムとかかねぇ」
「いや、似たようなソースを知ってるんでね、そのソースに使われているスパイスを呼称しただけだ。嘗めただけで味が分かるような神がかった舌なんて、持ち合わせちゃいないよ。あと、主な材料として、タマネギ、ニンジン、モルトビネガー、ニンニク辺り?」
「そうだよ。そんだけ分かってんだったら、あと何が足りないか分かってんじゃないのかい? 良かったら、教えておくれよ」
「…………ん~~~、どうしようか、ユウ?」
「俺に言わせんのかよ、オイ……いろいろ不安な要素はあるけど、当座は姫さんと同じような条件だったらいいんじゃない? 姫さんも自分だけに押し留めておくより、限定的だけど情報を共有できる仲間がいた方が『(知ってても)喋れない』ストレスを軽減できるだろうし。それに……」
「それに?」
「これでオーロラソースを作れるようになるんなら、俺的には万々歳だし」
「それが本音かよ」
「まぁ、半分位?」
「何故、疑問形?……まぁ、いいや。んじゃ、ヴィッチのじっちゃんウィズ皆の衆☆」
「何じゃ?」(←ヴィッチ)
「え、何?」(←ケイト)
「?」(←マルガ)
「ぷっ!何だい、その言い回しは?」(←ハンナ)
「まぁ、細かい事は気にしない。取り敢えずお嬢には約束させたけど、これから俺達のやる事は、全て他言無用ね♪」
「何じゃ、一体?いきなりそういう事言っても……姫様に披露した知識なりを見せてくれるというのか!?」
「まぁ、そんなトコ♪全く同じヤツじゃないけどね……。ただ、技術的にとかインフラ的に諸事情で説明できないヤツもあるから、質問に答えない時もあるけどね。細かい事はお嬢に聞いといて☆」
「姫様がお話してた、カレーとかその辺の事かの? 儂らで良いのかの?」
「まぁ、そうだね。知識を披露する時点で約束事をお嬢だけに留めるのは無理だと思っていたから、ココにいる面子ウィズお嬢以外に口外しなけりゃ、別に構わないんじゃない?」
「無理じゃろう。ユウとレイが披露する知識にもよるが、少なくとも村の中には広まるじゃろ。 それに、ラルゴ様に聞かれたら、儂は答えざると得ないぞ」
「おぉ!言われてみりゃ、その通りだな。お嬢と話している時は、そこまで気にしてなかった……どうしようか、ユウ?」
「何故、俺に話を振る?………まぁ、次善の策だけど、最初だけ他言無用にしておいて、生産できる体制ができたら他言無用の……えぇ~っと、何だっけ?喋っちゃいけない事を守らせるヤツ?」
「守秘義務かな、ユウ?」
「あぁ!そうそう、その守秘義務の適用範囲を、時期を見つつ段階的に『村内』、『領内』って具合に広げてくってトコでいいんじゃない?」
「そうやねぇ……それが妥当かな? ヴィッチのじっちゃんとか、そんな感じで良い?少なくとも暫くの間内密にして貰えるなら、このソースの改良点のヒントとか、もしかしたら新たな何かのヒント位は教えられるけど……」
「黙っておるから、早く頼むぞ!!」(←ヴィッチ)
「了解したから、さっさと教えとくれ!!」(←ハンナ)
「即答かよ……ケイトとマルガは?」
「おじいちゃんが良いなら、私とマルガはそれに合わせます」「うん」
「なるほど……んじゃ、これから見せるモノは、少なくともハンナが作れるようになるまで他言無用のモノだからね☆」
レイがそう言いながらマイバッグに手を突っ込み、何かを破く小さな音を立てて取り出したモノ。
それは不思議な色合いの白い蓋のような頭をした、水袋のようなボトル型の容器に入った赤いモノだった。
今回の余計なネタは、キャベツ(作中の時節は、まだ冬キャベツは早かったので。収穫前でも生育途中の間引きした葉キャベツならあるだろうという想定で出してます)とロボットでした。
・・・話が進まない。
狂った八十年代という言い回しは、好きなマンガの一つで、打ち切られちゃった作品に出て来る言い回しです。個人的にメッサ気に入ってるので使ってみました。後悔はしてないです。
ウスターソースが商業化されて、リーペリン社がソースを発売するのは十九世紀前半。それまでの間に各地でオリジナルソースが作られていたので、作中に出て来るソースはその中のウスターソースに近いソースの一つだったという感じです。
ちなみにこの頃のソースは、料理の中にチョビッと入れる感じの、隠し味的な使われ方が主流だったようです。
ちなみに『アイディアに国境はない』の元ネタは、本田宗一郎の『いいアイディアに国境はなく、いい製品に国境はない』という言葉らしいです。本来の意味(良い物は、国境など関係なしに受け入れられる)とは違っていますが・・・。




