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道化師は止まらない  作者: しみず みし
15/21

第六話の二   

 取り敢えずサラッとですが、村に居るヴィッチさんの家族は全員揃いました。

パン屋の近くにある宿屋は、今後も登場予定です。

今回パン屋の娘が一人しか出てきませんが、一人しか居ない理由は次回以降で・・・。


「……ここなの」

 マルガはそう言って、ユウとレイの方へ振り返る。

ユウとレイの目には、マルガが指差した建物が映っている。

建物は石造りのモノに全体を隈無(くまな)くモルタルとか漆喰みたいなモノでコーティングされた、村の他の建物とさほど変わらない平屋(?)の建物だった。

何故『平屋(?)』かと言うと、建物の上に申し訳程度だが『綺麗なバラック小屋』みたいな建造物がチョコンと載っているのだ。

それが夕方の茜色に染まり始めた光を反射して、独特の佇まいを()せている。


「ん~……少しくすんできた壁の色が、夕日に映えて独特の()()()()()を醸し出してるけど、その雰囲気を壊すようなあの掘っ建て小屋みたいなンは、何かなぁ?」

 ポツリと漏らすように、レイが質問する。

「アレは、ハンナお姉ちゃんの研究小屋なの」

「研究小屋?」

「そうなの。パンに合いそうな具材とかソースとか、いろいろ試しているの。 でも時々失敗してるみたいで、何かが腐ったような臭いがする時があるの」

「ふ~ん……だから失敗した時、臭いの被害が少なくなるように、店の上に作ったのか(注:臭いは、下から上方向に流れるモノが多い)。 賢いなぁ」

「レイ、それじゃ、さっきから時々臭ってくるこの臭いも、失敗した何かか?」

 鼻を少しひくつかせながら、ユウはレイに質問してくる。


「いや、この一歩間違えればゲ□っぽい臭いは、パン種か生イーストの臭いだと思うから、失敗したヤツじゃないよ」

「マジか?」

「マジだ。 この『臭い』が『焼く』という工程を経ると、パン特有の香ばしい『匂い』に昇華する訳だ。ユウ、お前、よその国に行った時に、気付く事無かったんかいな?」

「基本、遺跡に行ったら保存食の食事しかでねぇからな。 ホカホカのできたてのパンなんて、数える程しか食べた事ないぞ。 あっ、チャパティとかパンケーキみたいに、直接焼いて作るパンは除くぞ」

「ある意味、不憫やなぁ……取り敢えず機会があったら、できたてのパンを食べさせて貰え。慣れてくれば、この臭いも気にならなくなる」

「そういうもんなのか?……まぁ、それなりに期待しとくよ」

「ハンナお姉ちゃんの作ったパンは、美味しいの!」


 ユウとレイの会話に割り込むように、マルガが入ってくる。

「ハンナお姉ちゃんのお店で売ってるパンは、みんな『美味しい』って言って買っていくの。いろんなパンがあって、どれも美味しいの!

「まぁ、マルガの言う事に賛同はする。ギフラを一つ食べただけだけど、小麦の風味が程良く出てて、飽きのこない味に仕上がってるよな。私見だけど、細かいところで独自の工夫をしてるんちゃう?」

「レイは、よく分かってるわね。 ハンナお姉ちゃんはパンを作る時に、いろいろ工夫しているから、他の人が作るパンよりも美味しく感じるの。 それに、パンについていろいろ勉強してるから、いろんなパンも作れるのよ」

 ムフーッと軽くドヤ顔して嬉しそうに言うマルガに、チョットほっこりしながらレイは話を続ける。


「あっ、そうか!だから、北欧近くのギフラとかフランス辺りのバタールとかフィレンツェ方面のフォカッチャとかが揃ってたのか……マルガ、例えば俺なんかが『こういうパンを作ってチョ☆』ってハンナさん?に頼めば、作って貰えるかなぁ?」

「ん~と、どうだろう? ハンナお姉ちゃんは優しいから、頼めば作ってくれると思うんだけど……」

「『けど』?」

「余裕があったら即座に研究を始める人だし、結構頑固な所があるから、気に入らなかったら作って貰えないと思うの」

「ふ~ん……まっ、取り敢えず、頼むだけ頼んでみるさ」

「レイが作って欲しいパンが美味しいパンなら、ハンナお姉ちゃんは断らないと思うし、私も口添えしたげるの」

「おぅ、そんときゃ、ヨロシク(*^^)/」

「その代わりできあがったモノから一つ、私に頂戴☆」

「食欲優先かよ!? だが、ブレないトコは、ナイスだ♪」

 思わず、素直に感嘆の言葉を口にするレイだった。


「で、ヴィッチさん、チョット気になる事があったんですけど、質問いい?」

「どうしたんじゃ、ユウ?」

「あのパン屋の建物の斜め向かいにある、大きい二階建ての建物は?」

「あれは、トーベとラーマの宿屋じゃ」

「……食堂と酒場も兼用してるっていう?」

「そうじゃ。ちなみに、村で唯一の宿屋じゃ」

「と、言う事は、俺とレイの拠点になるかも知れない場所って事?」

「まぁ、そうじゃな。宿屋を希望した時は、そうなるの」

「へ~……」

「覗いてみるかの?」

「いや、いいです。単に、他の建物に比べて大きくて広そうな建物だったんで、チョット気になっただけなんで……」

「そうか。 まぁ、利用するしないに係わらず、多分一週間以内に紹介する事になると思うから、心積もりをしておいて欲しいのじゃがの」

「一応、了解です。 マルガが言ってた『料理人のお姉さん』にレイは興味持ったと思うんで、紹介してくれる時は必ずレイを連れて行ってやって下さい」

「ほほぅ、何でそんな事が分かるのかのう、ユウは? マルガの言葉だけで、まだ会ってもおらぬじゃろう?」

「マルガが、『料理人のお姉さんは料理が上手』って言ってたじゃないですか? レイは微妙に方向性がズレてる食道楽なんで、間違いなく食べ物関連で興味持ってますよ」

「そういうモノか?」

「そういうモノです」


 ヴィッチ達一行は、ハンナの店の前まで来ると、マルガだけ一歩前に踏み出し、おもむろに扉を叩く。


コンコンコン・・・・・


「ケイトお姉ちゃん、ハンナお姉ちゃん、居る~?」

 マルガは建物の中に向かって声をかけるが、何も反応がなかった。

「…………まだ帰ってきてないのかな?」

「何じゃ、そうなのか?」

「お姉ちゃん達、そろそろ帰ってきててもおかしくないのに……」


 と、その時、

「マルガ~、呼んだ~?」

店の裏手の方から、少女が二人歩いてきた。


 片方は、クリーム色っぽい白めの金髪に碧眼、スッと通った鼻筋、キュッと小さな唇と、目鼻立ちが整っている顔立ち。

そして、服の上からでも分かる程良い胸と腰の豊かさを強調するようなウェストのくびれ。

 ()()()()()()()()()()()()、『美少女』に映る少女だ。


 もう片方は、少し赤い髪にくりっとした黒い瞳、キリッとした意志の強そうな眉に少し幅広の顔。

少し赤い髪に黒い瞳、キリッとした意志の強そうな眉に少し幅広の顔。

体型的には、()ッチャリと()ッチャリの中間くらい。

別の言い方をすれば、古き良き『おっかさん』体型と言って良いだろう。


 そんな二人が牛乳の輸送缶(ミルク缶)を手分けして持ち、上半身を覆うような割烹着然とした作業衣と頭に三角巾を付けた状態でマルガの近くに歩み寄ってくる。


「あら? マルガ、せっかくハンナから貰ったパンを戻しに来るなんて、一体どうしたの?」

 少し細めの少女が三角巾を頭から取りながら、声をかけてくる。

どうやら、少し細めの少女がケイト、ぽ○ゃ子みたいな体型の『ふくよか体型』の少女がハンナのようだ。


「それに、おじいちゃんも一緒に来て、どうしたんです?」

「まさか、村長!私が作ったパンに、何かマズい理由があったのかい?」

一遍(いっぺん)に質問されても、チト困るのぉ……まず、ケイトの方からじゃが、暫く儂の家で預かる事になった者達を紹介しようと思ってのぅ。 次にハンナの質問に関連してじゃが、この者達が貰ったパンを使って少し変わった料理を作ってくれるというのでな。足りない材料目当てもあって、パンをハンナの店で調理して貰う運びになったという訳じゃ」

「それでおじいちゃん達、ハムとかお酢の瓶とかを持ってきてるのね?」

「まぁ、そういう訳じゃ」

「そんな訳じゃからハンナ、お主の店の厨房と足りない食材の提供をお願いしたいのじゃが、良いかな? この者達の作る料理は、姫様も認めておったから、ハンナも何かの参考にはなるじゃろう?」

「へぇ~、姫様が認めたのかい? なら、遠慮なく使って貰って良いよ。 ただ、明日の仕込みの分は残しておいとくれよ。商売ができなくなっちまうからね」

「うむ。 ユウにレイ、それで良いな?」

 ヴィッチが、話の流れでユウとレイに話を振る。

「俺は一向に構わないけどお、レイは?」

「ん~……なるべく支障が出ないように慎重に検討を重ねて、ご期待に添えるよう鋭意努力していく所存です」

「(ビシッ←ツッコミの音)お前は、何処かの政治家かよ!」




「悪いねぇ! ついでに厨房までミルク缶を運んで貰って……」

「別に気にしなくていいよ。厨房を借りる身だから、頼まれたら手伝うのは当然」

「良い事言ってくれるねぇ♪ じゃ、もう一つついでに、竈にある鍋の中に牛乳を入れてくれるかい?」

「了解」「え~、面倒くさいなぁ、オイ」

 店の前でお互い自己紹介した後、ハンナにミルク缶を運ぶよう頼まれたユウとレイは、次いで追加で頼まれた用事を、それぞれ返答の言葉を口にしつつ、ハンナの言う通りに鍋の中に牛乳を投入していく。




 ちなみにミルク缶とは、牛乳を輸送する為の大型の缶で、昔のアニメでネ□少年が愛犬に牽かせた荷車に載ってたヤツと言えば分かる人には分かるだろう。

牧場なんかによくある、牛乳を入れる金属でできた円筒形っぽい大きな容器の事である。




「へぇ~!あんた達、見た目より力持ちなんだねぇ。見た目がヒョロッこいのに、ミルク缶をふらつきもせずに安定して持ち上げる事ができるなんて……」

ハンナが感心しているのは、この村で使っているミルク缶がだいたい四〇(リットル)入るサイズのミルク缶だからだ。

がたいの良い男ならいざ知らず、(ハンナから見て)少しばかり肉付きの足りなそうな二人が苦もなく中身が詰まったミルク缶を持ち上げて平然と鍋に牛乳を流し込んでいる様に、ハンナは素直に感心する。

「まぁ、こういうのは、力よりも腰の使い方とか重心の移動の仕方とかが重要だからね」

「レイと同意見……」

 実際は『肉体強化』の魔法を使っているからなのだが、敢えてそこは言わなくても良いだろうと二人は判断した。


「で、ハンナさん? この牛乳で、何を作るの?」

「ハンナで良いよ。そんな『さん』付けする程、年下じゃないだろ?」

「え?」「え?」

「? 何だい、その反応は? まさか年上って事はないだろう、その顔で? どう見たって十三、十四歳位にしか見えないよ」

「……ちなみに、みんな、歳幾つなの?あっ、ヴィッチのじっちゃんはいいよ。どう考えても五十は超えてそうだから」

「……その通りじゃが、釈然とせんのぅ」(←ヴィッチ)

「私は、十歳!ケイトお姉ちゃんが十四歳なの!」(←マルガ)

「もうすぐ十五ですけどね……」(←ケイト)

「わたしゃ、十六になったばっかりだよ」(←ハンナ)

「………………どうしようか、ユウ?」

「まぁ、アジア系の人種は、年齢より若く見られがちだからな。致し方ないと言えば致し方ないだろう」

「何だい、その言い方は?もしかして、私達より年上って言うんじゃないだろうね?」

「十七だ」(←ユウ)

「キレやすい十七歳です☆」(←レイ)

「え?」「はい?」「ほぇ?」「何じゃと?」


 年齢を聞いたユウとレイを除く全員は、暫し固まっていた。

「……ちょ、ちょっと待つのじゃ、ユウにレイ。 お主ら、本当に歳が十七なのか?」

「ホントに十七だけど……」(←ユウ)

「ガラスの精神(こころ)を持つ十七歳です☆」(←レイ)

「信じ難いわぁ!どう見ても十三、四位にしか見えないわよ! ねぇ、ケイト?」

「えぇ……失礼な言い方かも知れないけど、とても年上には……いえ、凄く若く見えるんですけど?」

「てっきり、マルガ(わたし)の少し年上かと思ってた」

「儂もじゃ。姫様と同じか少し年上位の子供だと思ったから、多少の不躾は気に留めなかったんじゃが……」


「……エラい意外そうな言葉が連発してるけど、その辺、どう思う、ユウ?」

「まぁ、モンゴロイド系とかポリネシアン系とかの人種は、アングロサクソン系やラテン系の人から見ると若く見えるらしいんで、別に気にする事ないんじゃない?」

「まぁねぇ……知識としては知っていたけど、実際に自分がそういう目で見られると、何か奇妙な違和感があるな」

「最初はそう感じるだろうけど、そのうち慣れるよ。俺みたいに……」

「ユウがそう言うんだったら、そうなんだろうな」


「ちょっと待つのじゃ、ユウにレイ。お主達の年齢がその辺りじゃと、ちょっと話が違ってくる部分があるぞ。 その歳じゃったら、時と場所をちゃんと弁えて礼節を守る必要がある年齢のはずじゃろ?」

「残念だけどヴィッチのじっちゃん、礼節については地域によって表現の仕方が異なるんでな。この辺じゃどうかは知らないけど、俺とユウの居たトコだと親愛の念を込めた礼として『チ~ッす、ヴィっちゃん♪今日もアゲアゲぇ?』みたいな言い方をするんだけど……」

「何ぞイラッとくるが、そうなのか?」

「いや、嘘だよ☆」

「なっ!」(←ヴィッチ)

「そんな感じで、斯様(かよう)にどのような態度が礼節に適っているか分かんないでしょ? だから、敢えて多少ぞんざいに受け取られても、砕けた態度をとっている訳だ」

「う~~む。何か釈然としないモノがあるが……まぁ、良い。その辺は細かい事を言っても無駄じゃろう。レイ達が適当だと思われる態度を取るが良かろう。 ただ、王の前とかでも同じ態度では困るぞ」

「まぁ、おいおい教えて頂戴よ。その辺の事は……」

「うむ……まぁ、良かろう」


「……で、鍋に牛乳入れたけど、竃に火を入れて良いの?」

「あ、そ、そうだねぇ。ある程度温めたら、何十分かその温度を維持し続けて、粗熱が取れてから生クリームとかカッテージチーズを作るのさ」

「へぇ~!ちゃんとパスチャライゼーションしてるんだ!?(←感心)」

「何よ? レイだっけ? パ、パスチャ?何だって?……牛乳をある程度温め続けるのは、我が家秘伝の工夫だけど、そんな立派な名前が付いていたのかい?」

「ん? いやぁ、地域によって名前はまちまちなんで、特に名前なんて便宜上のモンでしかないよ。多分経験則上の知恵なんだろうけど、秘伝なり工夫なりでちゃんと牛乳なんかの殺菌法が伝授されていると言う事が、チョット感心しただけだ」

「何じゃレイ、今、チョット聞き慣れん事を言うたのぅ? 殺菌法とは何じゃ?」

「……説明が難しいなぁ。 ヴィッチのじっちゃん向けの話に当て嵌めると、負傷した兵士の怪我を放っとくと、傷口が化膿してくでしょ?」

「そうじゃな。膿んだまま放置しておくと傷口から腐敗が始まり、最悪死ぬ事もあるでの。じゃから、蒸したタオルを当てたり小まめに包帯を替えたりして、傷口の化膿や腐敗を防ぐようにしておる。 じゃが、それと牛乳の殺菌とやらに、何の関係があるんじゃ?」

「順序立てて説明してくから、焦らない焦らない、一休み一休み……」

「レイ、そのネタ、俺以外分からないはずだから、控えといた方が良いんじゃない?」

「何じゃ?今のレイの言葉は、元になるモノがあるのか?」

「いや、今回は関係ないから説明省いて良い、ヴィッチさん? 昔居た、この辺で言うなら神父とか牧師とかラビみたいな人の、死後に作られた創作がネタだから。その人の事を詳しく説明しようとすると、当時の時代背景とかまで説明しなきゃならないから、物凄く長くなるんで面倒臭い……」

「ユウ、お前もか!(←カエサル調で) レイといいお前といい、時々面倒臭がりになっとらんか?」

「いや、ホントに長くなるんだけど……まぁ、追々説明する機会もできるだろうから元ネタ云々の話はこれ位にして、レイ、話の続きを……」

「ホイよ☆ んで、ヴィッチのじっちゃん、怪我にせよ何にせよ、化膿したり腐敗していくのは、何でだと思う?」

「それは、水が山から海へ流れるが如く、()()()()の事じゃろ? もしかして、レイの言う殺菌法とやらに関連がある事なのか?例えば、その何らかの力なりが化膿なり腐敗なりに作用していると?」

「ヴィッチのじっちゃん、『当たらずとも遠からず』ってトコだ。 その当たり前の事をなす物質が目に見えないモノだとしたら、どう思う?」

「何と!?……いや、じゃが、しかし……いや……いやいや、まさか……あ、待てよ!? レイ、もしかして、エレメントとかマナとかエーテルみたいなモノかの?」

「いや………と言うか、ヴィッチのじっちゃん、それは物質を構成する仮想のモノで、俺が言ってるのは、傷口の部分や牛乳なんかの物質を腐敗なんかで変質させる働きをするモノの事だよ」

「! そんなモノがあるのか?」

「あるんだよ、ヴィッチのじっちゃん。 とは言え、目に見えない位小さいモノだけどね。そういうのを大雑把にまとめて『菌類』って呼んでる。 で、その菌類を火なんかの熱なり酒精(アルコール)なりで、ある程度なり全滅させる手法をまとめて殺菌法って呼んでいる」

「ふぅむ……目に見えないモノの存在を、良く認識できるのぉ」

「観察法の一つでね……目に見えないモノの存在も、現象の結果から過程を予想して体系化し。結論を構築してモノの存在を確認していくって方法がるんだけど……天文学とかで使われているでしょ?惑星の運行とか……」

「『地球は丸い』という事実とかの……なるほど、言われてみれば、納得させられる部分もあるのぅ。 目に見えないモノの存在か……」

「ヴィッチのじっちゃんなんかも、現象の結果については享受してるだろ? チーズもそうだし、ビールもそう。パンの気泡もそうだよ」

「えっ!!パンもなのかい?」

「小麦粉を捏ねる時にイーストとか混ぜるでしょ、ハンナ?」

「まぁ、そうだけど……」

「パンもイースト菌っていう一個一個はメッサ小さな菌を使って小麦粉を発酵させて気泡を作り出して、パンを柔らかくするんだよな。 んで、パン生地の中に砂糖を入れたり少し暖かい場所で生地を寝かせてやると、しない時に比べて格段に生地が膨らむから、焼き上がりが柔らかく美味しいパンになるだろ?」

「何でそんな事まで知ってるんだい? レイ、お前さんは私と同じパン屋なのかい?」

「どうしてそうなる……興味を持てば、これ位の事調べるのが普通だろう?」

「自分の生業(なりわい)に興味を持ちゃあ、そうなんだろうけど……パン屋でないアンタに、そこまで知識を深める必要があるのかい?」

「知的好奇心を満たす為だ。これ位は当然でしょ。 多分ハンナだって、パンのレパー

トリーを増やしていくのって、楽しかったりしないの?」

「いや、アタシの場合は、作ったパンをみんなが『美味しい』って言ってくれるからであって……」

「新しいパンのレシピ覚えて作る種類が増えてくと、楽しいだろ?」

「…………うん」

「それも、一つの知的好奇心だ」

「そうなのかい?」

「そうだよ☆ さて、パスチャライぜ―ションからだいぶ話が逸れちゃったけど、ちゃんと牛乳を殺菌してる事にちょっと感心しただけなんで、そんな大層な事でもないから気にしないどいて☆」

「ふぅ~~~む……じゃが、そのうち気が向いたら、もう少し詳しく教えて貰えんかの? 『菌』とは、なかなか興味深い話じゃて……」

「まぁ、気が向いたらね……んじゃ、早速で悪いんだけど、卵ってある? 余裕があったら、少し多めに欲しいんだけど?」

「二十個位で良いかい? 『今日の鳥(注:鶏の事です)は、卵を多く産んでくれた』らしいんで、いつもより多く貰ってきてるから……」

「上等、上等♪ でもハンナ、卵なんて、普段は何に使ってるんだ?」

「ゆで卵とかスクランブルエッグとかオムレツとかかねぇ……パンの付け合わせとして、販売してるけど」

「付け合わせになるよなオムレツっていったら、スペイン風のヤツ?」

「そうだねぇ。 教わった時に、そんな名前だったような気がするねぇ」

「さよかぁ……んじゃ、卵と油とお酢で、マヨネーズ作るトコから始めっかな」

「? 何じゃレイ、そのマヨネーズというのは?」

「調味料の一つだな。応用範囲が広いから、使い勝手が良いよ。 まずは、ボウルか何かに卵を割り入れて……」

 昨日に引き続き、実演しながらマヨネーズの説明を始めるレイだった(以降、作り方は開拓村で披露したのとほぼ同じなので略)。






「うぅむ……これは凄いモンじゃのう」

「本当ね、おじいちゃん」

「凄く美味しいよ!おじいちゃん、ケイトお姉ちゃん!」

「こりゃまた、凄く美味しいねぇ。 材料だけ見れば、ドレッシングに卵を加えただけなのに、こうまで味が変わるなんて驚きだよ」

 ササッと作ったマヨネーズを、バタールを薄くスライスしたものに軽く載せ、試食した後のそれぞれのコメントだった。


「美味しいからって、食べ過ぎは良くないぞ。醜くぶくぶく太るからな」

「醜く? でも私達の場合、せめてハンナ位の体型までは持って行きたいんだけど……」

「何で?……あ!(←察し)、そうか!?」

「レイ、何が『そうか!?』なんだよ?」

 レイが何に察して思い至ったのか分からないユウが、レイに問いかける。

レイは、自然な動作でユウの耳に口を近付け、ポソポソと小声で答えた。


「(この時代と思われるの『美人』の条件の一つに、『ふくよかな体型』ってのがあったのを思い出した!?)」

「(何だよ、それ? 『ふくよか』って何だよ?)」

「(そっちかよ!そんな古い言い回しじゃないはずだけど……まぁ、良いや。『ふくよか』ってのは柔らかそうに膨らんだような状態だ。別に、『良い匂い』を指して言う時もあるけど、今回は体型の事を指して言った)」

「(簡単に言うと、『ぽっちゃり』って事か?)」

「(いや、似てるけど、微妙に違う。『ぽっちゃり』は、程良く膨らんだ状態に『可愛さ』が追加装備されたモノだ。『ふくよか』に『可愛さ』はあってもなくてもどうでもいいけど、『ぽっちゃり』には『可愛さ』が絶対不可欠な要素だ!! 大事な事だからもう一度言うけど、『ぽっちゃり』には『可愛さ』が絶対不可欠な要素だ!! 例えユウの意見であっても、コレだけは譲れん)」

「(お、おう……(若干退いてる)っつうかレイ、お前が『可愛い』とか何とか、『萌え』っぽいモンを言及するのって、珍しくないか? お前、もしかして太ましい体型が好みか?)」

「(いや、ンな事ないぞ。今回はたまたまだ。 それに『萌え』については、『Moe』(忘れた人の為の注:マスター() オブ() エレメント()の略。元素を操り、モノを具現化させる技術。環境省の略称ではない)の必須事項だからな。趣味程度に(とどめ)めている俺でも、少し位は囓っているよ。 後、ユウに分かりやすい例えで言うなら、体型的な俺の好みはそ○子までで、○ちゃ子はチョット外角低めギリギリで外れだ)」

「(いきなり分からんって……レイの言ってる感じから多分、少しマニアックなキャラクターだろうけど、普通のヤツは知らんようなキャラの名前言われても……)」

「(薄いピンク色のこんな(←ジェスチャー込み)感じの髪型して、いつも耳にヘッドホンしてるキャラだよ)」

「(あ~~~!あのキャラって、○に子って名前なのか? 初めて知った。んじゃぽ○子って……あ~~~(←察し)、分かった。 そうか、レイの好みって、案外分かりやすいなぁ)」

「(そうか? そういうお前はどうなんだ?)」

「(そりゃ、どっちもイケるに決まって……そうじゃなくて! 何で、体型の話になってんだよ!?)」

「(お前が質問してきたからだろ、ユウ?)」

「(まぁ、そうだけど……ケイト達が、『ハンナ位の体型まで太りたい』って言った事に違和感を感じた所でレイが何か察したようだから、少し気になったんだけど)」

「(まぁ、()()()()()の感性じゃ、そうなるだろうな。 ()()()()()で『いわゆる標準体型』近辺が好ましいって一般化したのは二十世紀に入ってからだ。 それまでは、ふくよかな体型こそが、安定して肥えられる豊富な資産と特権に裏打ちされた豊かな生活環境を現す体型の象徴として、ずっと長く愛好されてきた体型だぞ。 だから、ダイエットの概念もないし、俺らの時代で『デブ』とか『樽』とか呼ばれそうなヤツ(例:作者)を連れてきてみろ。男女問わず、異性からモテモテだ。まさに、○聖モテモテ王国、いっつあ モテモテ わーるど的な何かを作れそうな勢いでモテるぞ……とは言え、ヴィッチのじっちゃんの孫姉妹から(うらや)まれているハンナも、俺らから見れば『おっかさん体型』だからなぁ……俺は安心感は感じるけど、性的な何かを感じるトコまではイカんわ)」

「(……まぁ、気持ちは分かる。 それと、レイにしちゃ殺菌法とか発酵の説明が簡単過ぎたけど……何で?)」

「(殺菌法が大きく発展するきっかけになった、フランスのパスツール先生がパスチャライゼーション(注:名称は『パスツール』の名に由来)を開発したのが十九世紀後半だからだ。少なくともそこそこの性能の顕微鏡が見つかるまでは(注:近代細菌学において、顕微鏡の発達抜きには語れない程密接に関係している)、控えといた方が良いような気がした。ちなみに牛乳も、十九世紀に入るまでほとんどバターとかチーズを作る為だけに消費されて、あんまり飲まれてなかったしね)」

「(なるほど。納得したわ……)」


「何だい?男二人でコソコソ囁き合ったりして……二人の表情から察するに、碌でもない内容の気がしてるんだけど?」

 訝しげな視線をユウとレイに向けつつ、ハンナがポソリと小声で話す。

「う……ま、まぁ、当たらずとも遠からずってトコかな」

「外れてないのかい!」

「『当たってない』事実をオブラートで包んで迂遠な言い回しをしただけだよ。 それよか、マヨネーズの他にまだ食材を仕込むから、作業台とか竃を借りるよ?」

「それは構わないけど……レイ、それなりの種類を作るつもりかい?」

「ん?どうして?」

「作業台とかを短時間だけ使うなら問題ないけど、いつも作業台で明日の仕込みをしながら晩ご飯もついでに作ってるんでね。長時間使うなら、私の分も作ってくれないかなぁと思ってねぇ」

「まぁ、いろいろ作ったらそれをみんなで分けて食べるつもりだったから、一種類あたりの量がそんなに多くはならないと思うけど、それでも良い?」

「私の分もあってパンの料理の勉強になるんだったら、全然構わないよ。ついでだから私の店の保管分から、余裕のあるスパイスとか調味料を提供しようかい?」

「提供してくれるんなら、是非によろしく。 んじゃ、いろいろ作っていくかね。ユウ、アシストよろしく☆」

「ハイよ。 取り敢えず竃に火をつけて、ピクルスとタマネギと甜菜をみじん切りにして、葉野菜を湯がいときゃOKか?」

「うん♪ そんな感じでヨロ☆」

 軽い口調でやり取りし居つつ、ユウとレイは作業台で仕込み作業に移っていった。




「まぁ、こんなモンかな……」

 仕込みを始めてから小一時間程。

作業台の上は不要な器具や食材が片付けられたものの、結構雑然とした感じでいろいろなモノが乗っている。

牛乳を温めていた竈は、ユウが魔法を使って急速に冷やして(注:魔法を使った直後、ケイトとハンナはマルガと同じようなリアクションをしていた)レンネット(注:活性酵素のキモシンが主成分の凝固剤。子牛の胃袋などから抽出する)を投入、今はカッテージチーズを作っている最中だ。

ちなみに作った後、そのままリコッタチーズを作る予定とはハンナの弁。


「んで、リコッタ(チーズ)作った後は、どうすんの?」

「? どうすんのも何も、残るモノは単なる水だよ。捨てるしかないじゃないか」

「ふむ……ヴィッチのじっちゃん、一つ提案があるんだけど、良いかな?」

「何じゃい、レイ?」

「この村で、豚は飼っている?」

「そりゃ、大事な肉の供給源の一つじゃからの。村の共有財産として、何カ所かに飼育所を設置しておる」

「何カ所……ヴィッチのじっちゃん、全部には無理だろうけど、チーズを作った後の水を回収して飼育所に運び込む仕組みを作れないかな?」

「急にまた、何でじゃ?」

「いや、チーズ作った後に、ホエーを捨てちゃうのは勿体ないと思ったんで……」

「ホエーとは何じゃ、レイ?」

「牛乳からチーズとか作った後に残る水の事」

「そういう名前なのか? じゃが豚に、そのホエーを与えたところで、何かあるのかのぅ?」

「…………仕組みを言ってもにわかには信じられないと思うから、結果だけ言わせて貰うよ。 肉質が向上して美味しくなって、身体の肉付きも良くなる」

「ホントか!」

「ホント。 ただし、ただ単純にホエーを与えるだけでOKじゃないから、その辺はヴィッチのじっちゃんの側で試行錯誤をして貰う必要があるけどね。俺もユウも、その辺はあんまり詳しくないから……」

「そ、そうか……じゃが、良い事を聞いたのぅ。早速考えてみるぞい」

「そして頂戴。 ホンじゃま、食材も大体集まったし仕込みも終わったんで、ボチボチ作り始めるよ☆」

レイはそう宣言すると、作業台にある食材を手に取り調理を始めるのだった。


 前回、予告っぽい事言っといて何ですが、調理に取りかかるトコまでしか進みませんでした。

まさか、キャラクターのアドリブでパスチャライゼーションとか、当時好まれていたであろう女性の体型の話のネタが入ってくるとは、作者も思いませんでした。

カッテージやリコッタなどのフレッシュチーズの話をサラッと流して調理を始めさせる予定で、パスチャライゼーションの話は全く入れる予定がなかったので、急遽調べたり何たりで余計な手間暇がかかってしまいました。

 この次の話で、必ず調理の話をしようかと思います。


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