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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第十一章 谷底Ⅳ

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第九十一話 大尉は、祝杯の勢いで上官命令をし、蛮族の捕虜となる【一般公開版】

水車が回った。


電気が灯った。


魔力も蓄えられるようになった。


洗濯物は館中に散らばらなくなり、巨大なシーツや毛布をまとめて干せる場所までできた。


さらに、ノアが一人だけ軒下へ離れなくても、風を通しながら全員で食卓を囲める場所まで完成した。


ここしばらく続いていた共同生活の見直しが、ようやく一段落した。


「乾杯!」


エヴァの声とともに、木の杯がぶつかった。


新しくできた屋根付きの食事場所には、いつもより料理が多く並んでいた。


今日は作業ではない。


祝いだった。


ノアも同じ卓についている。


風が抜ける位置を選び、皆とは少しだけ距離を空けているが、以前のように一人だけ軒下の別卓へ行く必要はない。


シズクが嬉しそうに言った。


「聖者も一緒にお食事できますね」


「うん。これ、かなりいいね」


ノアも周囲を見回した。


エヴァが酒を飲みながら笑う。


「最初から作っときゃよかったな」


リーゼがすぐ反応した。


「何を言っている。必要になったから作ったのだ! 二人しかいなかった頃に、この規模の共同食事場所を作ってどうする!」


「聖者と俺で広々使う」


「無駄だ!」


そう言いながら、リーゼも今日は上機嫌だった。


自分たちで測量した。


木を運んだ。


水路を掘った。


水車を作った。


回転を発電へ繋いだ。


館まで電力を引いた。


空いていた大部屋にも用途が決まり始めた。


帝国にあった巨大な工場や発電設備とは比べものにならない。


それでも、自分たちの手で一から積み上げたものだった。


その満足感が、今夜のリーゼにはかなり効いていた。


そこへ酒まで入った。


普段より少し頬が赤い。


声も大きい。


ただし、泥酔しているわけではない。


歩き方は真っすぐ。


受け答えも普通。


自分がどれだけ飲んだかも理解している。


ノアの体質を考えて、酔い潰れるほど飲むような真似もしていない。


それでも、いつもの緊張を飛ばすには十分だった。


エヴァが杯を見た。


「大尉、今日よく飲むな」


「祝いだからな!」


「珍しい」


「小官だって酒くらい飲む!」


「酔ってない?」


「酔っていない!」


リーゼはそう言ってから、少し考えた。


「……少ししか酔っていない!」


「酔ってる奴の訂正だな」


「うるさい!」


ティセラが何か記録しようとした。


リーゼが即座に指を差す。


「教授! 今日くらい記録するな!」


「まだ何も書いていません」


「紙を持った!」


「習慣です」


「置け!」


その夜の宴は、いつもより長く続いた。


やがてシズクとティセラが片付けを始め、クロエとアスラも自分たちの部屋へ戻っていく。


エヴァはまだ酒を飲んでいた。


ノアは先に席を立った。


「僕、そろそろ戻るね」


リーゼがちらりと見る。


「そうか」


それだけ答えた。


だが、ノアが館へ戻ってから少しすると、リーゼも立ち上がった。


エヴァが見る。


「どこ行く」


「寝る!」


「大尉の部屋、そっちじゃねえぞ」


「散歩だ!」


「館の中で?」


「うるさい!」


リーゼは足早に去っていった。


エヴァは杯を傾けながら、その後ろ姿を見送った。


「分かりやすいな」


誰に聞かせるでもなく笑った。



ノアの寝室の扉が、勢いよく開いた。


ノックはなかった。


「蛆虫ー! 今日まで貴様はよく働いた!」


ベッド脇にいたノアが振り返った。


「リーゼ?」


「大尉殿だ!」


「はい、大尉殿」


リーゼは頬を赤くしたまま、堂々と部屋へ入ってくる。


「今夜は小官の命令に従ってもらう!」


ノアは少しだけ表情を改めた。


「その前に確認。リーゼ、自分で分かっててここに来た?」


「当然だ!」


「お酒の勢いだけじゃなく?」


「このために、緊張を飛ばす程度だけ飲んだ!」


「途中でやめたくなったら?」


「命令を撤回する!」


「分かった」


ノアが笑う。


「では、仰せのままに。大尉殿」


リーゼの顔がさらに赤くなる。


「最初からそう言え!」


そこへ廊下から、エヴァの声がした。


「敵国の大尉を捕まえたのか?」


リーゼが振り向く。


「誰が敵国だ!」


「俺の国とお前の帝国、同盟を結んでねえだろ」


「そもそも国同士が接触していない!」


「なら敵かもしれねえ」


「雑すぎる!」


エヴァは悪い笑顔で寝室へ入ってきた。


「じゃあ、俺は蛮族の捕虜役」


「何故増えた!」


「大尉一人だけ楽しそうだから」


リーゼは二人を交互に見る。


酔いはもうかなり醒めていた。


ノアもエヴァも、何も言わずに待っている。


「嫌ならやめるぞ」


エヴァが言った。


リーゼは一度だけ黙り、それから上官の顔を作った。


「……貴様ら。小官の許可なく勝手に始めるな」


「了解」


「仰せのままに、大尉殿」


「その返事だけは妙に息が合うな!」


巨大な聖者仕様の寝台は、三人が乗ってもまだ余裕があった。


その夜、敵国の大尉と蛮族の捕虜二人による、設定だけは物騒な尋問が始まった。


詳細について、翌朝の三人は誰も証言しなかった。


ただしリーゼだけは、戦力評価を誤った、と悔しそうに語った。


翌朝。


シズクが洗濯物集積所へやってきた。


そこへエヴァが、巨大なシーツと毛布を抱えて現れる。


シズクは寝具用の籠を指した。


「こちらへお願いします」


「おう」


どさり、と大量の寝具が入る。


その後ろからリーゼが歩いてきた。


目を合わせない。


シズクが少し首を傾げる。


「リーゼ、おはようございます」


「……おはよう」


「昨日は聖者のところだったのですね」


リーゼが止まった。


「何故分かる!」


シズクは籠を見る。


「寝具が増えましたので」


リーゼも見る。


自分たちが昨夜使った巨大なシーツ。


自分で作らせた。


自分で仕分け方法まで決めた。


その設備へ、自分が汚した寝具が持ち込まれている。


リーゼはしばらく黙った。


「……洗濯物集積所を作っておいてよかったな」


エヴァが即座に笑った。


「自分で活用してるぞ、大尉」


「うるさい!」


シズクがさらに聞く。


「今日は一組でよいのですか?」


リーゼの顔が赤くなる。


エヴァが答えようとする。


リーゼが叫んだ。


「数えるな!」


朝の館に、いつもの声が響いた。


水車も回っている。


洗濯物も増えた。


共同生活は、今日も順調だった。

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