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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二章 谷底Ⅰ

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第九話 谷底の豊かな土地ほど、油断すると食われる

次は畑だった。


館から見えていたものより、さらに広い。


長い畝。果樹。穀物。


シズクの国にもあるもの。エヴァの国にあったもの。上から落ちてきた荷物の種。聖者が昔の記憶を頼りに育てたもの。様々だった。


エヴァが突然、足元の草を抜いた。


「この土地について一番大事なことだ」


「はい」


「痩せない」


「畑が?」


「畑も森もだ。何度収穫しても、ほとんど土が弱らない」


「それなら、とても豊かな土地なのですね」


「それだけならな」


エヴァが抜いた草を見せた。かなり根が長い。


「これ、昨日抜いた」


「昨日?」


「この場所のをな」


「一日で?」


「ここは、だいたい十倍で育つ」


「十倍……」


「地上で十日なら一日。何月もかかる作物が、何十日かで採れる」


シズクは畑を見渡した。


故郷の干ばつを思い出す。これほどの土地があれば。あの村では誰も飢えなかったかもしれない。自分も生け贄にはされなかったかもしれない。


「それなら、食べ物には困らないのですね」


「俺も最初そう思った」


エヴァは畑の外を指す。赤黒い葉を持つ草が群生している。


「あれ、昨日全部焼いた」


「昨日?」


「触ると皮膚が爛れる毒草だ」


シズクは一歩下がった。


「あっちの黄色い花は二日で種を飛ばす。向こうの蔓は三日放っとくと柵を覆う」


「そんなに……」


「野菜だけが十倍で育つわけじゃない」


エヴァの顔が真面目になる。


「毒草も十倍。雑草も十倍。魔物の種も十倍」


「魔物にも種が?」


「植物みたいな魔物もいる。動く蔓。獣の肉を食う花。種を獣へくっつけて運ばせる奴。地面の下で待つ奴」


エヴァは畝の間に生えていた青い芽を見つけ、短刀で切った。透明な汁が落ちる。土が白く泡立った。


「これは?」


「知らん」


「知らないのですか?」


「昨日はなかった」


シズクはさらに一歩離れた。


「だから、知らないものに勝手に触るな。俺か聖者を呼べ」


「どうやって安全か確かめるのですか」


「少量を分ける。虫や小動物への反応を見る。匂いを見る。魔法で毒を調べる。それでも分からなきゃ触らない」


エヴァは畑を見回した。


「覚えとけ。ここは豊かだ。馬鹿みたいに豊かだ。だから危険なんだ」


「豊かなのに?」


「育てたいものも十倍。育ってほしくないものも十倍。二日さぼれば草だらけ。三日さぼれば、何かに食われる」


「畑が?」


「畑も。俺たちも」


冗談ではなかった。


その後、鍬の使い方を教わった。


シズクは神殿の庭仕事くらいならしたことがあるが、本格的な畑仕事は初めてだった。


鍬を振る。浅い。


「腕だけで振るな」


エヴァが後ろから手を添える。


「腰を使え。土を叩くんじゃない。刃を入れて起こす」


「こう?」


「もう少し脚を開け」


「ずぼんでよかったです」


「だろ?」


二度目は大きく土が返った。


「できました」


「一回な」


「もう少し褒めてください」


「百回出来たら褒める」


「百回……」


「九十九でもいいぞ」


「ほとんど同じです」


エヴァが笑った。

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