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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第十一章 谷底Ⅳ

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第八十八話 洗濯物

発電設備の試験が一段落した翌朝、シズクは館の廊下に大きな籠を並べていた。


一つではない。


二つ、三つと増え、最後には聖者仕様の大きな籠がいくつも並んだ。


普通の人間なら中へ入れてしまいそうな大きさである。


そこへ札を付けていく。


洗浄待ち。


寝具。


衣類。


補修待ち。


別洗浄。


リーゼが通りかかり、足を止めた。


「何を始めた」


「洗濯物の整理です」


「それは見れば分かる。何故、こんなに籠がいる」


シズクは館の奥を見た。


「今までは、洗うものが出たところから、そのままバルトリへ持っていっていましたから」


二人暮らしの頃なら、それでよかった。


洗濯物が出る場所はほぼ決まっていた。


ノアとエヴァ。


それだけなら、寝具も衣類も大した量ではない。


館そのものは巨大でも、洗濯物の流れは単純だった。


今は違う。


リーゼの部屋。


シズクの部屋。


ティセラの部屋。


クロエの部屋。


アスラの部屋。


ノアの部屋。


エヴァは自分の旧個室ではほとんど寝ず、基本的にはノアのところにいる。


シズクはリーゼの部屋へ行くこともあれば、ノアとエヴァのところへ行くこともある。


クロエとアスラは、それぞれ部屋があるのに互いの部屋へ忍び込む。


その結果、寝具の汚れる場所だけでも毎日一定しない。


エヴァが大きなシーツを抱えてやってきた。


「これ、どこだ?」


シズクが札を指す。


「寝具です」


「こっちか」


どさり。


聖者仕様の大きな籠が、一枚でかなり埋まった。


リーゼが見る。


「でかいな」


「聖者の寝台用だからな」


「シーツまで聖者仕様なのか……」


「寝台がでかいのに、小さいシーツ使ってどうするんだよ」


「それはそうだ!」


そこへクロエとアスラも来た。


クロエが毛布。


アスラが別のシーツを抱えている。


シズクは何も聞かず、寝具用の籠を指した。


二人はそこへ入れた。


リーゼが嫌そうな顔をする。


「昨日もやったのか」


クロエが平然と答える。


「ああ」


アスラも頷いた。


「途中で場所を変えたから、もう一組あるぞ」


リーゼが止まった。


「もう一組?」


「私の部屋から始まって、途中でクロエの部屋へ移った」


「何故、一晩で二部屋使う!」


クロエが答えた。


「形勢が逆転したからだ」


アスラも当然のように続ける。


「追撃した」


「エロ拷問の戦況報告をするな!」


シズクは慣れた手つきでもう一つの寝具を受け取った。


リーゼは籠の中を見る。


「……今日は何組だ」


シズクが数えた。


「今のところ三組です」


エヴァが言う。


「昨日は四組だったな」


「毎日三組か四組がシーツと毛布をめちゃくちゃにしているのか?」


「日によるぞ」


「日による問題ではない!」


衣類も増えている。


シズクの巫女装束。


リーゼの軍装。


ティセラの普段着や研究作業用の衣服。


ノアの服。


エヴァの普段着。


それ以上に多い、エヴァの大量の下着とコスプレ衣装。


第五管理区域などで使う防護服は、通常の洗濯物へ混ぜずに管理する必要がある。


一方、クロエとアスラの忍装束は、普通の衣類とは事情が違う。


クロエの装束は身体表面に形成されるフィルム状のもの。


アスラの装束も、自身の髪などから形作られる。


脱いで籠へ入れ、洗って干すようなものではない。


リーゼは二人を見る。


「貴様ら、服の洗濯物だけは少ないのだな」


クロエが頷く。


「忍装束はな」


アスラが笑う。


「羨ましいか?」


「少しだけな!」


エヴァがすぐ言う。


「でもシーツは出す」


リーゼが振り返る。


「そこを補足するな!」


問題は、バルトリの洗濯能力ではなかった。


水流式の設備そのものは、大きな布までかなりの量を一度に洗える。


問題は、その前と後だった。


館のあちこちから汚れ物が出る。


各自が適当な籠へ入れる。


あるいは部屋に置いておく。


誰かが見つけて運ぶ。


洗濯場へ持っていく。


洗う。


洗ったものを一時的に置く場所がない。


干す場所も足りない。


乾いたものと濡れたものが同時に来る。


補修が必要な衣服がその中へ混ざる。


二人なら、人の記憶だけでどうにかなった。


七人では、すでに怪しい。


娘二人のアバターが常時こちらで生活するようになれば、さらに増える。


リーゼが腕を組んだ。


「なるほど。洗濯場が小さいのではない」


シズクが頷く。


「はい」


「館が狭いわけでもない」


「はい」


「物がどこから出て、どこへ行くか決まっていないのが問題か」


「そうです」


リーゼの目が少し変わった。


エヴァが嫌な予感を覚える。


「大尉、その顔は何だ」


「流れを決める」


「やっぱり」


「まず、各自の部屋から汚れ物を一か所へ集める。そこから種類を分ける。洗濯場へ運ぶ。洗浄済みを別の場所へ置く。干す。乾いたら畳む。補修が必要ならシズクの作業室へ回す」


クロエが言う。


「物流だな」


リーゼの顔が明るくなった。


「そうだ!」


エヴァが呆れる。


「洗濯で元気になるなよ」


「共同生活とは物流だ!」


ティセラが記録板へ書き始めた。


リーゼが一度止めかけ、今度は許した。


「それは記録していい」


「ありがとうございます」


「何で嬉しそうなんだ」


館の一角にある、今までほとんど使っていなかった大部屋が洗濯物集積所になった。


聖者仕様なので広い。


人間用の洗濯籠を何十個置いてもまだ余るような空間だが、今回はそこへ大型の仕分け台を置いた。


汚れ物。


寝具。


通常衣類。


補修待ち。


別洗浄。


札も大きくした。


エヴァが見上げる。


「軍の補給所みたいだな」


「読めればいい!」


「俺、字が違うんだけど」


リーゼが止まる。


クロエも。


アスラも。


シズクも文字体系が違う。


話は通じても、文字は別だ。


ノアが言った。


「絵も付けようか」


結果。


寝具には寝台の絵。


衣類には上衣。


補修待ちには針。


別洗浄には大きな印。


シズクでも分かるようになった。


「こちらの方が分かりやすいですね」


リーゼが少し悔しそうだった。


「文字だけで統一できない共同体、面倒だな」


クロエが言う。


「表示規格を作れ」


リーゼが顔を上げた。


「それだ!」


エヴァ。


「また仕事増えたぞ」


集積所の次は、物干し場だった。


既存の場所では、もう足りない。


特に問題なのが、聖者仕様の寝具である。


シーツが大きい。


毛布も大きい。


何枚も同時に干せば、それだけでかなりの場所を使う。


ノアとエヴァが二人で暮らしていた頃なら、順番に干せばよかった。


今は毎日何組も出る。


シズクが言った。


「屋根が欲しいです」


リーゼが頷く。


「雨でも干せるようにする。ただし壁は要らない」


「風は通したいです」


「なら、屋根だけ大きく張る」


ノアが館の外を見た。


「館の横から伸ばそうか」


聖者仕様の館に合わせて柱を立てる。


高い。


太い。


屋根も大きい。


その下に、寝具用の長い竿を何本も渡す。


普通の人間では届かない高さもあるため、クロエが滑車式の昇降竿を提案した。


「下で掛けて、上へ上げればいい」


シズクが目を輝かせた。


「便利です」


リーゼも頷く。


「採用」


アスラが言う。


「魔術で浮かせれば」


「誰でも使えるようにする!」


「もうそれが口癖だな」


「共同設備とはそういうものだ!」


夕方には、最初の洗濯物が新しい物干し場へ並んだ。


巨大なシーツ。


毛布。


普段着。


下着。


巫女装束。


軍装の一部。


エヴァの派手な衣装。


風が通り、大きな布が一斉に揺れる。


シズクはその光景を見上げた。


「すごい量ですね」


ノアが隣へ立つ。


「二人の時は、こんな場所いらなかったな」


「洗濯物が少なかったのですね」


「少ないというより、どこから出るか分かってたんだ」


エヴァが後ろから言う。


「今はどこでシーツが駄目になるか分からねえしな」


リーゼが叫ぶ。


「共同体の問題点みたいに言うな!」


クロエが真面目に言った。


「実際、発生地点は分散している」


「分析するな!」


シズクが笑った。


洗濯物の量は増えた。


だが、シズク一人が館中を回って集める必要はなくなった。


各自が持ってくる。


自分で仕分ける。


洗濯済みのものも、決めた場所へ置く。


乾けばそれぞれが持っていく。


ノアが言った。


「これならシズクの仕事も少し減るね」


シズクが物干し場を見る。


「はい。誰のものか分からない布を持って、館の中を探さなくて済みます」


リーゼが新しい札を一枚取り付けた。


『各自、自分で仕分けること』


その下に、ノアが簡単な絵を加える。


エヴァが見た。


「俺も?」


「当然だ!」


「シズクに持ってけば」


シズクが微笑んだ。


「自分でお願いします」


「駄目か」


「駄目です」


大量の洗濯物が風に揺れる。


館は以前から大きかった。


狭くなったわけではない。


ただ、人が増えたことで、今まで一人か二人の記憶と手間でつないでいた生活の流れが、見える形になった。


人数が増えたことを一番分かりやすく示しているのは、もしかすると地図でも部屋割りでもない。


毎日何枚も並ぶ、この巨大なシーツなのかもしれなかった。

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