↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第十一章 谷底Ⅳ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/193

第八十六話 これが産業革命だ!

水車の建設は、翌朝から始まった。


最初に働かされたのはエヴァだった。


「そこへ置け」


「ここか?」


「違う! 三歩右!」


「細けえな」


「水路の位置を決めているんだ!」


エヴァは肩に担いでいた太い木材を、リーゼの指示した場所へ下ろした。


どん、と地面が揺れる。


リーゼが嫌そうな顔をする。


「もう少し静かに置けないのか」


「置いただろ」


「地面が揺れたぞ!」


「落としてねえから静かだ」


リーゼは反論を諦めた。


昨日決めた場所では、ノアが岩盤の脇を掘っていた。


支流そのものを堰き止めるのではなく、水の一部だけを横へ分け、水車へ当てた後に元の川へ戻す。


壊れても川そのものは流れる。


水車を止めても生活に影響しない。


そこはリーゼが強く主張した。


「一つの設備が壊れただけで、全部止まるような作りにはするな」


ノアが笑う。


「リーゼ、こういうところは本当に軍人だね」


「軍でも工場でも同じだ。壊れるものは壊れる。だから壊れても全部は死なないようにする」


クロエが横で聞いていた。


「冗長化か」


「その言い方は知らんが、たぶん同じだ!」


クロエが少し笑った。


「お前の世界も悪くないな」


リーゼの機嫌が一気に良くなる。


「そうだろう!」


アスラが横から言う。


「だが、魔術なら予備術式を一枚追加するだけだぞ」


リーゼの顔が戻った。


「今いいところだったのに!」


ティセラは少し離れた場所で、水量と魔力の変化を記録している。


シズクは館と建設地の間を行き来し、食事と飲み水を運びながら、道具がどこへ置かれたかまで記録していた。


「斧はこちらです。縄はその籠。杭はリーゼの横です」


エヴァが振り返る。


「シズク、俺の飯は?」


「まだ昼ではありません」


「腹減った」


「朝食を三人分ほど食べていましたよね?」


「働いてるからな」


「では昼まで働いてください」


「厳しくなったな」


以前なら、ノアとエヴァだけで適当に作っていた。


必要な木を切る。


必要な場所を掘る。


ノアが考え、エヴァが力仕事をする。


それで大抵はどうにかなった。


今日は違う。


リーゼが寸法と配置を決める。


クロエが回転軸の精度を確認する。


アスラが魔力変換設備を置く場所を決める。


ティセラが周辺環境への影響を記録する。


シズクが人と物の流れを整える。


ノアが全体を実際に作れる形へ落とし込む。


エヴァが重いものを運ぶ。


全員の仕事が、少しずつ噛み合っていた。


昼前には、水車の骨格が立った。


館のバルトリとは違う。


こちらは洗濯物を渦へ放り込むための設備ではない。


回転そのものを利用する。


リーゼは木製の大きな輪を見上げた。


「……いいな」


ノアが横へ来る。


「まだ回ってないよ」


「形になったのがいいんだ」


「昨日は文明を一段ずつ積み上げたいって言ってたね」


「そうだ。これだ。木を切って、軸を作って、水を流して、初めて回る。これがいい」


クロエが水車の軸へ取り付ける部品を持ってきた。


「ここから先は、私も入るぞ」


リーゼが少し嫌そうな顔をする。


「何を持っている」


「回転を安定して発電側へ渡す部品」


「小官の世界にはない精度だな?」


「たぶん」


「……見せろ」


クロエが差し出す。


リーゼは悔しそうに眺めた。


だが、今回は拒否しなかった。


「これを、こちらで作れる形へ落とせるか?」


クロエがリーゼを見る。


「性能を落として?」


「ああ」


「何故」


「壊れた時にお前しか直せない設備を作ってどうする」


クロエは少し考えた。


「なるほど」


ノアも頷く。


「僕もそっちがいいと思う」


クロエは部品を一度引っ込めた。


「なら構造を単純化する。精度が低くても動くようにする」


リーゼの顔が明るくなる。


「そうだ。それだ!」


アスラが呆れた。


「高性能なものをわざと低性能にして喜んでいる」


「維持できることも性能なんだ!」


ティセラがその言葉を記録した。


リーゼが振り返る。


「教授、今のは記録していい」


「ありがとうございます」


「何で嬉しそうなんだ」


午後。


いよいよ仮の水路を開くことになった。


ノアが最後の板を外す。


水が横の水路へ流れ込む。


最初は弱い。


それが少しずつ増える。


木製の羽根へ水が当たった。


ぎ。


ぎい。


大きな輪が、ゆっくり動く。


リーゼが息を止めた。


もう一度。


ぎい。


回る。


そして、重さを越えたところから回転が滑らかになった。


ざああ、と水音が変わる。


水車が回り始めた。


シズクが思わず拍手した。


「動きました!」


エヴァも笑う。


「回ってるな」


ノアは水路の脇を確認する。


「漏れも大きくない」


クロエは軸を見る。


「回転は取れる」


アスラも魔術具を見る。


「魔力側もいけそうだ」


ティセラは記録板へ書き続ける。


リーゼだけが、水車を見上げたまま動かなかった。


エヴァが横から顔を覗く。


「泣くなよ」


「泣いていない!」


「顔が泣きそうだぞ」


「感動しているだけだ!」


リーゼは胸を張った。


「これだ! これが産業革命だ!」


クロエが言う。


「まだただの水車だぞ」


「最初の一歩だ!」


アスラ。


「魔術側はまだ何も繋いでいない」


「だから一歩と言っている!」


ノアが笑った。


「じゃあ、次は発電だね」


「そうだ!」


リーゼは水車を指差した。


「明日は、こいつから電気を取る!」


エヴァが聞く。


「取れるのか?」


リーゼは少し止まった。


クロエを見る。


クロエが頷く。


「取れる」


リーゼも頷いた。


「取れる!」


「今クロエに確認しただろ」


「うるさい!」


水車は回り続けていた。


谷底で流れ続けていた水。


昨日までは、ただ川として流れていた水。


今日からは、その一部が人のために仕事を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。