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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第十一章 谷底Ⅳ

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第八十二話 欲しい部屋

館を見直す。


そう決めたところで、リーゼは最初の前提から修正することになった。


「待て。部屋そのものは、余っているではないか」


居間の長机には、館の大雑把な間取りが広げられている。


ノアが一人で暮らし始め、その後エヴァと二人で使っていた館は、最初から普通の人間向けではなかった。


聖者仕様。


障子も大きい。


鴨居も高い。


畳も広い。


梁も太い。


座卓も椅子も大きい。


一室そのものが、人間基準では妙に広い。


シズクが初めて目を覚ました時、自分が小さくなったのではなく、館全体が巨大な何者かのために作られていると感じたほどだった。


だから、七人になった今でも、単純に寝るだけなら部屋は足りている。


むしろ余っている部屋すらある。


リーゼは間取りを睨んだ。


「なら何故、こんなに物が各所へ散っているんだ」


エヴァが答えた。


「広いから」


リーゼが顔を上げた。


「広さを収納の代わりに使うな!」


「置けるから置いてただけだぞ」


「それをやめるという話だ!」


ノアも苦笑している。


「最初は僕とエヴァだけだったからね。空いている部屋に置けば困らなかった」


「二人ならな!」


リーゼは炭を持ち直した。


「では、部屋を増やす前に、今ある部屋を何に使うか決めるぞ」


最初に見たのはエヴァだった。


「お前からだ」


「衣装部屋」


「まだ聞いていない!」


「欲しい部屋だろ?」


「そうだが!」


エヴァの旧個室については、全員もう知っている。


この前掃除したばかりだった。


大量の下着。


大量のコスプレ衣装。


普段着。


以前は着られたが、今では胸が入らなくなった服。


谷底で拾ってきた剣。


短剣。


斧。


その他、本人も由来を忘れかけている物理武器。


そして、その奥からリーゼの拳銃まで出てきた。


寝室と呼ぶ方がおかしい。


「エヴァの部屋は、正式に衣装室へ変更する」


「おう」


「ただし武器は出す」


「何でだ」


「小官の拳銃が武器の山から出てきたばかりだろうが!」


「見つかったからいいだろ」


「よくない!」


リーゼは別の大部屋を指した。


「ここを共用武器庫にする」


ノアが間取りを見る。


「広すぎない?」


「貴様らの武器を全部出したら、そうでもない気がしてきた」


エヴァが腕を組む。


「俺の剣だけでも結構あるぞ」


「何本ある」


「知らん」


「だから武器庫が必要なんだ!」


武器庫には、誰の物か。


普段使うのか。


予備なのか。


拾得物なのか。


最低限分かるようにする。


リーゼはそこまで決めた。


「小官は今の個室を使う。それと、装備保管場所」


エヴァがすぐ口を挟む。


「拳銃用」


「そうだ!」


「今度はなくすなよ」


「誰のせいだ!」


シズクが少し笑う。


リーゼはさらに間取りの一角を指した。


「それと、地図と記録を置く部屋が欲しい」


クロエが顔を上げる。


「大部屋一つ?」


「今後も谷底を調べるなら、そのくらい使う。壁へ大判地図を貼る。測量記録、資源情報、危険区域、施設配置をここへ集める」


ティセラが言う。


「第五管理区域や植物園の参照用資料も置けますね」


「全部持ち込むなよ」


「参照用だけです」


「ならいい」


エヴァが笑う。


「役所みたいだな」


「役所ではない!」


クロエが平然と言う。


「地図がある。記録がある。物資管理もする」


アスラも頷く。


「役所だな」


「貴様らまで言うな!」


シズクが真面目に聞いた。


「では、リーゼがお役人なのですか?」


「小官は帝国航空隊大尉だ!」


地図・記録室。


名前だけは決まった。


次はシズク。


「私は今の部屋で十分です」


「本当に?」


「はい。ただ、裁縫や補修をする場所があると助かります」


それは全員納得した。


今のシズクの個室には、いつの間にか布が集まる。


破れた服。


ほつれた下着。


寝具。


エヴァの衣装。


拾った布。


補修待ちのもの。


乾いた洗濯物。


「大部屋を一つ、衣類作業用にするか」


リーゼが言う。


シズクが頷く。


「洗濯物を畳んだり、補修したりできます。針や糸もまとめて置けます」


エヴァが間取りを覗き込む。


「俺の衣装室の隣がいい」


シズクが即答した。


「持ち込みやすさだけで決めないでください」


「便利だろ」


「私には不便です」


「駄目か」


「駄目です」


次はティセラ。


「教授」


「研究室が必要です」


「それは分かっている」


「標本庫も」


リーゼが止まる。


「一室では駄目か?」


「危険です」


「何が」


ティセラは淡々と指を折る。


「通常試料。魔力反応を示す試料。生体試料。危険植物由来試料。第五管理区域由来試料。比較基準試料。これらを全部同じ部屋へ置くべきではありません」


リーゼは黙った。


言っていることは正しい。


「……研究室。通常試料庫。危険試料庫」


「ありがとうございます」


「教授だけ三部屋ではないか!」


「この館の一室は広いので、通常試料庫は区画分けでも構いません」


リーゼが止まる。


「最初からそう言え!」


「聞かれませんでしたので」


「聖者みたいなことを言うな!」


ノアが笑った。


ティセラ自身の個室は今のままでいい。


本人にとって、寝る場所より研究場所の方が重要らしい。


「教授らしいな」


「褒め言葉として受け取ります」


次はクロエ。


「お前は?」


「電装工作室」


即答だった。


「条件は?」


「乾燥していること。水場から離れていること。精密部品を置けること。金属加工もできること。娘たちのアバター設備へ接続しやすいこと」


リーゼは館の間取りを見る。


聖者仕様の大部屋なら、工作台を何台置いても余裕がある。


問題は広さではない。


湿気。


水。


配線。


安全性。


「この部屋は?」


ノアが指す。


「外壁側。窓も大きい。水場から離れてる」


クロエが少し考える。


「使える」


「決まり」


アスラはすぐ隣の部屋を指された。


「私はそこは嫌だ」


リーゼが見る。


「何故」


「クロエの工作室の隣だろう」


クロエも言う。


「私も嫌だ」


「何故だ!」


クロエ。


「磁場と魔術干渉」


アスラ。


「私も同じだ」


リーゼは少し安心した。


「一応、技術的理由なのだな」


二人が同時に言う。


「それだけではない」


「それだけではないな」


「余計なことを足すな!」


アスラが欲しいのは魔術工房。


床へ大きな術式を描ける。


魔力を溜められる。


事故時に館本体へ影響を広げにくい。


外へ直接出られる。


館の空き部屋の中から、庭へ近い大部屋が候補になった。


リーゼが間取りへ書く。


クロエ電装工作室。


そこから少し離して、アスラ魔術工房。


そこで止まった。


「娘二人のアバター設備は?」


クロエとアスラが同時に答える。


「私が管理する」


「私が管理する」


リーゼは目を閉じた。


「だろうと思った」


電力。


演算。


神経接続。


魔力供給。


遠隔接続術式。


両方の技術が必要になる。


ノアが間取りを見る。


「だったら、真ん中に置く?」


「真ん中?」


「工作室と魔術工房の間にある大部屋を、娘たち用の設備室にする。どっちからも線を引けるようにする」


クロエとアスラが黙った。


珍しく、すぐには反論しない。


クロエが先に頷く。


「合理的だ」


アスラも頷いた。


「それならいい」


リーゼが書く。


クロエ電装工作室。


娘二人のアバター室。


アスラ魔術工房。


三つの部屋は少し離れているが、既存の廊下と床下を使えば接続できる。


シズクが笑った。


「まだ来ていないのに、もうお部屋ができますね」


アスラがすぐ言う。


「ルヴァナ側は壁を補強しろ」


リーゼが顔を上げる。


「何故だ」


クロエが答えた。


「力が強い」


「どのくらい」


「先月、庭の石柱を持ち上げた」


リーゼは黙った。


アスラが満足そうに胸を張る。


「私に似たな」


「そこを喜ぶのか」


クロエも続ける。


「ネイラ側には大きな机」


「勉強机か?」


「分解用」


「何を分解する」


「目についた機械」


リーゼが二人を見る。


「清楚な委員長系の娘だったはずでは?」


「それと分解癖は別だ」


「別なのか……」


アスラも嬉しそうに言う。


「あの子は頭がいい。構造を一度覚えれば戻せる」


クロエも頷く。


「私に似たな」


娘の話になると、二人とも妙に素直だった。


リーゼは間取りを見直す。


「ところで、貴様ら自身の個室は本当に二つ必要か?」


二人の表情が即座に戻った。


「必要だ」


「いる」


「互いの部屋へ泊まりに行くことが多いだろう!」


クロエ。


「相手の部屋へ忍び込むから意味がある」


アスラ。


「最初から同室では襲撃にならん」


「エロ拷問のためだけに、大部屋を二つ専有するな!」


「個室は個室だ」


「重要だな」


「そこでだけ息を合わせるな!」


ティセラが眼鏡を直した。


「そもそも、個室と寝室を同じものとして考えない方がよいのでは?」


リーゼが見る。


「どういう意味だ」


「館は十分広い。各自の個室は、私物を置く、一人で過ごす、着替える、休むための場所として残す。一方で、実際の就寝場所は現在かなり流動的です」


リーゼは黙った。


確かにそうだった。


エヴァは基本的にノアの部屋。


リーゼやティセラがノアのところへ行く夜は、エヴァが別へ行く場合も、そのまま混ざる場合もある。


シズクは自室だけでなくリーゼの部屋へ来る。


ノアとエヴァを覗き、そのまま一緒にいることもある。


クロエとアスラは、それぞれ自室があるのに、互いの部屋へ入り浸る。


「……一人一寝室という考え方が、もう実態と合っていないな」


「はい」


リーゼは頷いた。


「個室は残す。ただし寝床は固定しない」


エヴァが言う。


「最初からそうだったぞ」


「貴様は最初から何も考えていない!」


最後にノア。


「聖者は?」


「今の部屋でいいよ」


「それだけか」


「うん」


全員がノアを見る。


ノアが困った。


「何?」


リーゼが指を折る。


「木工道具」


「物置と軒下」


「水路用の工具」


「水場の近く」


「農具」


「畑の小屋」


「館の修理道具」


「僕の部屋と廊下の箱と、たぶん倉庫にも」


「工作室を使え!」


「分かった」


既存の大部屋を一つ、ノアの工作・修繕室へ変更する。


道具をまとめる。


材料も置く。


水路。


木工。


館の修理。


細かな加工。


全部ここを基点にする。


リーゼは間取りを眺めた。


新築する部屋は、思っていたより少ない。


館が巨大だからだ。


必要なのは、空間そのものではない。


用途を決めること。


物をまとめること。


危険なものを分けること。


仕事をする場所を決めること。


ただし、それでも既存館だけでは足りないものがある。


大型物干し場。


洗濯物集積所。


屋根付きで風の通る共同食事場所。


水力設備。


館外へ出した方が安全な設備。


そういう場所は新しく作る必要がある。


シズクが間取りを見ながら言った。


「館は広いのに、今まで広さを上手く使っていなかったのですね」


エヴァが笑う。


「使ってたぞ。物置くのに」


リーゼが叫ぶ。


「それを上手く使っていないと言うんだ!」


大きな館は、狭くなったわけではない。


ただ、二人暮らしのやり方では、もう広さを扱いきれなくなっていた。


今度は、皆で使うために整理する。


それだけで、同じ館が別の建物のように見え始めていた。

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