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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第十章 谷底Ⅲ

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第七十話 死んでも娘たちは困らないが、戻った本人は面倒らしい

その日の夕方、女たちは露天風呂へ入った。ノアはいない。そこまでは、いつも通りだった。


しかし、湯船の前まで来たリーゼは足を止めた。


「……白い」


湯が乳白色になっていた。昨日までは普通の湯だったはずなのに、今日は底が見えないほど白く濁っている。


シズクも隣から覗き込む。


「本当ですね。昨日までは、この色ではありませんでした」


エヴァだけは気にせず湯へ入った。


「温かいぞ」


「少しは警戒しろ!」


「教授がいるだろ」


その一言で、全員がティセラを見る。


ティセラは少しだけ目を逸らした。


「教授」


「はい」


「何を入れた」


「回復薬です」


「何由来だ」


「聖者由来成分を希釈し、安定化したものです」


しばらく沈黙が流れた。エヴァが手で白い湯をすくう。


「聖者汁風呂か」


「言い方!」


ティセラが真面目に訂正する。


「正確には違います。必要な回復成分だけを取り出して、かなり薄くしています」


「いつから作っていた!」


「少し前からです。最初は私自身で試しました」


「教授!」


「問題はありませんでした」


クロエとアスラも湯へ入った。二人とも少し身体を動かし、効果を確かめる。


「疲労回復にはなるな」


「悪くない」


ティセラの顔が少し明るくなる。


「もう少し濃度を上げてもよさそうですね」


「上げるな!」


しばらく湯に浸かっているうちに、話題は再び忍者世界へ戻った。きっかけを作ったのはエヴァだった。


「そういや、お前ら。エロ拷問にどこまで耐えたかで、忍者の格が変わるって言ってたな」


「ああ」


クロエが答える。


「耐える側だけではない。仕掛ける側もだ」


アスラが続けた。


忍者世界では、単純な戦闘力だけが忍者の実力ではない。相手を捕らえた側なら、どの段階まで逃がさず、どれほど高度なエロ拷問まで進められたか。逆に捕らえられた側なら、どこまで高い段階を受けても情報を渡さず、精神的に屈せず、最後には逃げ帰れたか。それも重要な実績になる。


「感覚増幅も記録される」


クロエが言った。


「何倍まで上げられても耐えたか」


アスラも言う。


「仕掛ける側なら、何倍まで上げても相手を逃がさなかったか」


リーゼが嫌そうな顔をした。


「倍率まで格付けに使うのか」


「使う」


「実績だからな」


エヴァはむしろ興味を持ったらしい。


「他には?」


「エロ魔物だ」


アスラが答えた。


「どの種類を相手へ仕向けたか」


クロエが続ける。


「どの種類を仕向けられても耐えたか」


「産卵型なら、何を産ませたか」


「何を産まされたか」


「卵の大きさや、難度も記録になる」


リーゼは顔を覆った。


「小官は、その格付け表を一生見たくない」


エヴァだけは感心している。


「かなり細かいんだな」


「実力差が出るからな」


クロエが言う。


アスラはそこで少し真面目な顔になった。


「ただし、身体がどう反応したかは本質ではない」


シズクが聞く。


「そうなのですか?」


「身体の反応と、精神的に屈したかは別だ」


クロエが答える。


「苦痛でも快楽でも、身体が勝手に反応することはある。そこで情報を渡したか、相手へ屈したかは別の問題だ」


アスラも頷く。


「最後まで秘密を守って、逃げ帰ればいい。それが忍者だ」


エヴァが少し嬉しそうに笑った。


「そこは分かる」


クロエとアスラが同時にエヴァを見る。


「分かるのか?」


「身体がどうなろうが、口を割らなきゃいいんだろ。それで、最後には帰ってくる」


「そうだ」


アスラの顔が少し明るくなる。


「お前、話が分かるな」


「お前らもな」


リーゼが嫌な顔をした。


「何故そこで三人だけ意気投合する」


エヴァはさらに聞いた。


「産卵型は、実際に耐えるのか?」


そこでティセラが先に答えた。


「産卵型の魔物自体は、私の世界にも存在します」


全員がティセラを見る。


「いるのか?」


「稀ですが。成人課程の学生や討伐者が襲われ、体内に卵を残される事故があります。その場合は学院や討伐組織が魔物を駆除し、被害者には治療を行います」


エヴァが尋ねる。


「教授は?」


「経験ありません」


「卵はどうする?」


「確認できた時点で除去します」


今度はクロエとアスラが同時にティセラを見る。


「除去する?」


「産ませないのか?」


ティセラが逆に二人を見る。


「産む必要がありませんから」


「私たちなら、最後まで産み落とす」


クロエが普通に答えた。


「そこまで耐えても情報を渡さない。それも耐久実績の一つだ」


アスラも頷く。


エヴァが感心した。


「おぉ、そこまで耐えるのか」


リーゼが叫ぶ。


「お前は本当にそこへ食いつくな!」


クロエがアスラを見る。


「こいつには産卵型を仕向けたことがある」


「貴様もだろう」


「私が仕向けた方が高位種だった」


「卵の規格なら、私が貴様へ仕向けた方が上だ」


「途中で逃げられただろう」


「最終段階までは逃がさなかった」


「私はそこから逃げた。それも評価だ」


「だから評価が割れる」


エヴァが楽しそうに笑う。


「いい勝負じゃねえか」


クロエとアスラも、少しだけ楽しそうだった。リーゼは三人を見比べ、嫌そうに顔をしかめる。


「拷問の話で、どうしてこんなに盛り上がれるんだ」


クロエが今度はエヴァへ尋ねた。


「お前は、捕虜になった時どこまで耐えた?」


エヴァは少し考える。


「何を数えるんだ?」


「感覚増幅は?」


「知らん」


「術式や機械による記録は?」


「ねえよ」


「回復処置は?」


「死なない程度にはされたな」


「脱出用の仕込みは?」


「ねえ」


「バックアップは?」


「ねえよ」


「魔術核は?」


「ない」


二人が黙った。


エヴァはその反応を不思議そうに見ながら続ける。


「国が負けて、砦も落ちて、仲間も減って、食うものも寝る時間もほとんどなくなって、その後で捕まった」


クロエとアスラから、さっきまでの笑いが消えた。


「その状態で?」


「ああ」


「拷問を受けた?」


「された」


「性的なものも?」


「あった」


「復活手段なしで?」


「だから、ねえって」


クロエが湯から少し身を起こした。


「待て」


アスラも真顔になっている。


「本当に、生身一つだったのか?」


「そうだが」


「死んだら終わり?」


「普通そうだろ」


二人が顔を見合わせる。


「普通ではない」


「少なくとも、私たちには」


リーゼは二人の顔を見て、少し驚いた。


「さっきまであれだけ拷問自慢をしていた貴様らが、今度は怯えるのか?」


クロエは真顔のまま答えた。


「安全枠がない」


「私なら最悪でもバックアップがある」


アスラも続ける。


「私は魔術核が残っていれば戻れる。死んでも、完全な終わりではない」


エヴァは逆に驚いた。


「そこまで違うのか」


ティセラが興味を持った。


「では、お二人が長期間帰れない場合、娘さんたちの生活はどうなるのです?」


「困らない」


クロエが即答した。


「一定期間、私が帰宅しなければ、電脳側に保存してある私のアバターが起動する」


アスラも言う。


「私も同じだ。魔術側のアバターが出る」


シズクが尋ねた。


「その方が、娘さんたちと一緒に暮らすのですか?」


「ああ。普通に暮らす」


「食事もする」


「家事もする」


「学校や仕事の相談もする」


「約束もするし、必要なら叱る」


クロエが続ける。


「娘たちに、こちらの事情で日常生活を止めさせる必要はないからな」


アスラも頷いた。


「だから、私たちが死んでも、娘たちの暮らしそのものにはほとんど支障がない」


シズクは感心したように頷いた。


「では、とても安心ですね」


「娘たちにとってはな」


クロエが少し嫌そうな顔をした。


「戻った私が面倒だ」


「何がです?」


ティセラが聞く。


「記憶だ」


クロエは額を押さえる。


「私がいなかった間、アバターが娘たちと過ごした全部の記憶を、戻った私へ統合する必要がある」


アスラも顔をしかめた。


「復活した時の記憶整理と同じだ。学校の話、仕事の話、買い物、食事、喧嘩、相談、誰と会ったか、娘たちと何を約束したか。全部引き継がないと、その後の話が繋がらん」


「だから死ぬと面倒なんだ」


クロエが言う。


「娘は困らん」


アスラが続ける。


「戻った私が面倒だ」


リーゼがゆっくり聞き返した。


「つまり、貴様らが『死ぬと面倒』と言っていたのは、復活そのものだけではなく、その間にアバターが生きた日常まで、自分の記憶として引き継がなければならないから?」


「そうだ」


「かなり面倒だぞ」


リーゼは額を押さえた。


「死生観がおかしくなるわけだ……」


クロエはそこで、改めてエヴァを見た。


「だから、お前は違う」


アスラも見る。


「私たちは、どこまで拷問を耐えたかを自慢できる。最悪の場合でも、戻る手段がある」


エヴァが眉を寄せる。


「何だ。俺だって耐えたんだから自慢していいだろ」


「違う」


クロエが即座に否定した。


「私たちには安全枠がある」


アスラも続ける。


「お前には何もなかった」


「それでも耐えたのか」


「ああ」


「国が負けた後で?」


「ああ」


「ほとんど寝てもいない状態で?」


「まあな」


二人がまた黙った。


やがてクロエが低い声で言った。


「……お前の方が怖い」


アスラも頷く。


「これは格が違う」


エヴァは本気で不思議そうだった。


「そうか?」


「そうだ」


「私たちの拷問耐久記録と、同じ棚へ置くな」


エヴァが笑った。


「でも、耐えたのは一緒だろ」


クロエは少し考えた。


「それはそうだ」


アスラも頷く。


「精神的に屈していないならな」


「じゃあ、やっぱ仲間じゃねえか」


エヴァが嬉しそうに笑った。


クロエとアスラも、少しだけ笑う。


リーゼは三人を見ながら頭を抱えた。


「何故、最終的には三人で拷問耐久の話で盛り上がるんだ……」


ティセラが白い湯を手ですくいながら言った。


「文化は違っても、耐えて帰ることを評価する点では共通しているのでしょうね」


「教授まで綺麗にまとめるな!」


しばらくして、クロエがもう一度エヴァへ聞いた。


「本当にバックアップはないんだな?」


「ないって言ってるだろ」


アスラも確認する。


「魔術核も?」


「ねえよ」


二人はまた黙った。


リーゼは、その顔を見てとうとう笑った。


「貴様ら、本気で怯えているではないか」


「当然だ」


「安全枠なしで、あれをやるのはおかしい」


エヴァが眉を寄せた。


「お前らに言われたくねえな」


リーゼは湯船の縁へ額を押しつけた。


「小官の世界、やはりかなり平和なのではないか……」


ティセラが頷く。


「少なくとも、この中では比較的」


リーゼは顔を上げた。


「比較的でいい! もう相対評価でいい!」


ティセラが穏やかに続ける。


「その分、大尉は皆の文化を理解しやすいですが」


リーゼの顔が引きつった。


「それを言うな」


「今後も比較役として非常に――」


「うがあああっ!」

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