第六十七話 文明の高さより、伸びた方向がおかしい
翌日は、作業場で流れ着いた品を仕分けることになった。金属片、布、革、歯車、軸、壊れた器具、用途の分からない部品。その中には、リーゼにとって見慣れた構造のものもあった。
「これは軸だ。こっちが軸受けだな。かなり摩耗しているが、寸法を取り直して作れば使える」
リーゼが部品を並べると、クロエが横から覗き込んだ。
「精度が低い」
「貴様らの機械と比較するな」
「事実だ」
「事実だから腹が立つ!」
ティセラは別の歯車を手に取った。歯の形を見て、回転方向を確かめる。
「これは回転速度と力を変換するためのものですか?」
「そうだ。大きさを変えれば回転数も変わる」
「私の世界なら、その部分は魔術式で制御できますね」
「教授までそちらへ行くのか!」
アスラも歯車を眺めた。
「その程度なら術で直接回せばいい」
「貴様もだ!」
ノアは少し離れたところで作業しながら笑っていた。
「でも、文明全体の高さというより、何を重点的に伸ばしたかの違いなんだと思うよ」
ティセラが頷く。
「私の世界では、魔法を測定し、再現し、教育できる形へ整えました。医療や都市設備にも魔術が普通に組み込まれています」
「私の側は、情報、機械、神経接続だ」
クロエが続けた。
「私の側は、魔術を身体、移動、戦闘、通信、生活へ直接組み込んでいる」
アスラも言う。
ノアは最後に自分の前世を説明した。
「僕の前世は魔法なしで、科学や工学、医学、情報技術を広く伸ばした。だから、ティセラたちの世界や忍者世界とは、生活水準そのものならかなり近いと思う」
リーゼは腕を組んだ。
「小官のところは?」
ノアは少し考えた。
「方向としては僕の前世に近い。でも、年代としては少し前かな。蒸気、電気、電話、鉄道、飛行機があるところまで来ている」
「少し前、か」
リーゼは少し複雑そうだった。しかし、ティセラはむしろ別の点に興味を持ったらしい。
「ですが、大尉の世界は非常に比較しやすいですね」
「何がだ」
「文明全体が、極端に一方向へ偏っていません」
リーゼが眉を寄せる。
「戦争は続いているぞ」
「ええ。それはかなり大きな問題です。ただ、生活文化や社会制度まで極端というわけではない」
クロエも頷く。
「機械を見せれば、ある程度は理解する」
アスラも続ける。
「軍事の話も通じる」
ノアは笑った。
「僕の前世の技術も、かなり想像してもらいやすい」
シズクも加わる。
「私より、新しい道具にもずっとお詳しいです」
最後にエヴァが言った。
「俺の戦争話も通じるしな」
リーゼの表情が止まった。
「待て」
ティセラは穏やかな顔で続ける。
「つまり、皆の世界の説明を最も理解しやすい立場です」
「嫌な予感しかしない」
「異文化間の比較役として、とても優秀ですね」
「小官の負担を考えろ!」
クロエが不思議そうに首を傾げる。
「理解できるならいいだろう」
「理解するたびに疲れているんだ!」
アスラも頷いた。
「だが、毎回ちゃんと理解している」
「そこを褒めるな!」
エヴァが笑う。
「じゃあ、リーゼんところが一番普通ってことでいいんじゃねえか」
リーゼは一瞬だけ黙った。それから、少し胸を張る。
「……相対的に、だな」
「戦争中だが」
「相対的にだ!」
ティセラが頷いた。
「少なくとも、今ここにいる人々の中では、かなり基準にしやすいと思います」
リーゼの顔に、ほんの少しだけ安堵が浮かんだ。
その直後、ノアが言った。
「だから、これからも一番いろいろ説明することになりそうだね」
リーゼの顔から安堵が消えた。
「うがあああっ!」




