表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第九章 分かつ河Ⅰ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/193

第六十話 谷底の館に、二人の女が運び込まれる

夕方、別々の場所へ出ていた者たちが館へ戻ってきた。


先に帰ってきたのはリーゼとティセラだった。二人は銀髪の女を連れており、リーゼは玄関をくぐるなり、「寝かせる場所を空けろ、また妙な奴を拾った」と声を上げた。


「また、とは何です?」


後ろからティセラが言う。


「ここへ来てから何人増えたと思っている」


「リーゼも、その一人ですが」


「それは今関係ない!」


二人は銀髪の女を居間へ運び、敷物の上へ横たえた。川辺で地面いっぱいに広がっていた銀髪は、運んでいる間に少しずつ元の形へ戻っている。消えていた紫色の膜も、ところどころ皮膚の表面へ現れ始めていた。


リーゼがそれを見る。


「やはり戻るのか」


「何を条件にしているのかは、まだ分かりませんね」


「起きたら聞くことが山ほどある」


「尋問にはしないでくださいね」


「質問だ!」


しばらくして、今度はエヴァとシズクが帰ってきた。


エヴァの腕には、青い肌の女が抱えられている。


玄関へ入ったエヴァが、居間に横たえられている銀髪の女を見つけ、足を止めた。


「何だ。そっちも拾ったのか」


リーゼはエヴァの抱えている女を見て、しばらく黙った。


「待て」


「何だ」


「何故、貴様まで女を拾って帰ってくる」


「流れてた」


「こっちもだ!」


シズクも奥の女へ気づいた。


「こちらの方も、耳が尖っていますね」


ティセラが頷く。


「私たちが見つけた方です。そちらは青い肌なのですね」


「はい。それに、目も舌も少し変わっていました」


「後で詳しく聞かせてください」


「まず寝かせろ」


リーゼに言われ、青い女も少し離れた場所へ寝かされた。


青い女の腹の前に出ていた魔法陣は、館へ戻る途中で少しずつ薄くなり、いつの間にか消えていた。身体には、紫髪の一部が再び這い始め、少しずつ衣服らしい形を作っている。


シズクはそれを見て言った。


「こちらも戻ってきています」


「さっきは全部、髪になってたんだよな?」


エヴァが聞く。


「はい。ただ、どうして戻るのかまでは分かりません」


さらに少し遅れて、別の場所で作業をしていたノアも戻ってきた。


玄関先から居間を覗いたところで、見知らぬ女が二人寝かされていることに気づく。


「……今日は二人?」


「二人だ」


エヴァが答えた。


ノアは中へ入らなかった。


戸口から少し離れた軒下へ移り、柱のそばへ腰を下ろす。居間に集まっているリーゼ、ティセラ、エヴァ、シズクからも、寝かされている二人の女からも距離を取ったままだった。


戸は開けてあるので、互いの声は十分に届く。


リーゼが戸口の向こうへ顔を向ける。


「また外にいるのか」


「うん。二人ともまだ事情が分からないし、僕が近くに長くいる必要もないから」


「話くらいは聞こえるな?」


「聞こえるよ」


ノアは軒下から二人の女を見る。


「二人とも、同じ日に流れてきたの?」


「少なくとも、見つけた時間はかなり近い」


リーゼが答えた。


並べてみると、奇妙な共通点が多かった。


銀髪の女は褐色の肌、青い女は長い紫髪と青い肌をしている。顔立ちも種族も違って見えるが、どちらも尖った耳を持ち、細身で手足が長く、それに対して乳房と尻が非常に大きい。


さらに、身体を覆い始めている紫色の衣装も妙に似ていた。


シズクが二人を見比べる。


「青い方を見つけた時も、このような格好でした」


リーゼも銀髪の女と見比べた。


「こちらも同じだ。何故か乳房を一房ずつ包み、乳輪と乳首とヘソと尻と股間の線まで分かりやすい」


エヴァが軒下のノアを見る。


「聖者が前に言ってたチチブクロって、こういうのか?」


ノアは柱にもたれたまま答えた。


「乳房を左右別々に包むってところだけなら近いけど、それだけで同じもの扱いしないで」


「じゃあ違うのか」


「たぶんね」


シズクは青い女の装束を見る。


「私の知っている忍びの格好とは違います。でも、鉤爪を持っていましたし、動き方も普通の旅人には見えませんでした」


リーゼが振り返る。


「動いたのか?」


「途中で意識が戻りました」


「何をされた?」


エヴァが笑った。


「俺たちの周りに、光る輪っかを大量に出してきた」


「魔法陣です」


シズクが訂正する。


ティセラの目が変わった。


「魔法陣?」


「はい。私たちの左右や後ろ、頭の上にも、一度に何枚も出しました」


「それで、どうしたのです?」


シズクがエヴァを見る。


エヴァは何でもないことのように答えた。


「蹴った」


ティセラが止まる。


「何を?」


「魔法陣を」


「蹴った?」


「回し蹴りでまとめてな。ぱりんって割れた」


ティセラはエヴァを見たまま黙った。


リーゼも眉間を押さえる。


「小官も一応聞くが、何故割れた?」


「知らん」


「そうだろうと思った!」


軒下からノアの声がする。


「魔法陣って、蹴って割れるものなの?」


「普通は割れません」


ティセラが即答した。


「だよね」


「でも割れたぞ」


エヴァが言う。


「そこが一番分からないんだよ」


シズクが話を続けた。


「何度か術を使った後、この方は倒れました。その時、身体を覆っていたものが全部、紫色の髪へ戻ったんです」


ティセラは青い女を見る。


「今はまた身体を覆い始めていますね」


「はい。それと、意識を失ってから、お腹の前にだけ別の魔法陣が出ました」


「攻撃する時と同じものですか?」


「分かりません。ただ、攻撃する時のものは私たちの周りに出ていました。後から出たものは、この方のお腹の前から動きませんでした」


エヴァが付け加える。


「その頃、落ちてた腕が勝手に戻ってきた」


「腕?」


リーゼが聞き返す。


シズクが頷く。


「切れていました。身体と腕の切断面から肉のような触手が伸びて、それ同士が繋がると、腕が身体へ引き寄せられました。その後、傷も少しずつ閉じています」


ティセラはすぐに紙へ書き留める。


「腹部に現れた魔法陣と関係があるように見えましたか?」


「そうかもしれません。ただ、同じ頃に起きていたというだけで、私には分かりません」


「それで十分です。本人へ確認できますから」


今度はリーゼが、銀髪の女について話した。


「こっちは、小官の計器へ髪を突っ込んだ」


軒下からノアが聞き返す。


「髪を?」


「ああ。目を覚ましかけた途端だ」


ティセラが説明を引き継ぐ。


「数本の髪を細く硬く変え、計器の内部へ直接入れていました。リーゼが操作していないのに、針も動いています」


「何をしてたの?」


「分からん」


リーゼが答える。


「ただ、『ネットワーク』という言葉を何度か口にした」


軒下にいたノアの表情が変わった。


「ネットワーク?」


リーゼは、その反応を見逃さない。


「聖者は知っているのか?」


「僕の前の知識だと、機械同士を繋いで情報をやり取りする仕組みなんかを、そう呼ぶことがあるよ」


ノアはそれ以上近づかず、軒下から銀髪の女を見る。


「その人は、何て言ってたの?」


「『ネットワークがない』だ。その後、小官の計器へ入れていた髪が勝手に抜けた」


「何か繋がる先を探してたのかな」


「その可能性はあります」


ティセラが答える。


「ただし、現時点では推測です」


さらに、川辺でその後に起きたことも説明する。


「完全に意識を失った後、身体を覆っていた紫色のものが消えました。それから銀髪が地面へ大きく広がり、日の当たる方向へ向きを変えています」


リーゼが続けた。


「髪からは電気らしい反応も出ていた。日が当たっているところの方が強いようには見えたが、何をしているのかまでは分からん」


軒下からノアが言う。


「光と電気が関係してる可能性はありそうだね」


「ああ。だが、それ以上は本人に聞かんと分からん」


「それと、こちらも脚が切れていました」


ティセラが言う。


シズクが驚いて銀髪の女を見る。


「この方もですか?」


「はい。こちらは肉の触手ではなく、神経か細い紐のようなものが両方の切断面から伸びました。それが繋がると、脚が本体へ引き寄せられ、そのまま接合しています」


しばらく、全員が二人の女を見比べた。


ノアだけは軒下にいるので、皆と同じ輪の中にはいない。


それでも、開いた戸越しに二人の姿はよく見える。


「……ちょっと似てるね」


ノアが言った。


ティセラも頷く。


「そうですね。仕組みは違いますが、観察できた現象には対応しているように見える部分があります」


リーゼが指を折る。


「銀髪の方は髪を機械へ繋いだ。青い方は魔法陣を使った」


シズクも続ける。


「こちらは切断したところから細い紐のようなもの、青い方は肉の触手です」


「意識を失った後は、どっちも服が消えた」


エヴァが言う。


ティセラはすぐに補足した。


「ただし、それらが同じ理由で起きたとは限りません。今のところは、似た現象が見られたというだけです」


「教授らしい答えだな」


エヴァが笑う。


「断定する材料がありませんから」


さらに気になることがあった。


二人が見つかった場所は同じではない。


リーゼとティセラが銀髪の女を見つけた支流と、エヴァとシズクが青い女を見つけた流れは離れている。それなのに、二人が見つかった時刻はかなり近かった。


ノアが軒下の地面へ指で簡単な線を描いた。


皆のいる居間へ近づく代わりに、柱の外側の土へ一本の線を引き、途中から二股に分ける。


「もし二人が同じところから流されてきたなら、上のどこかで流れが分かれて、別々の場所へ出てきた可能性もあるね」


リーゼが戸口からその線を見る。


「だが、そもそも二人が同じ場所から来たかどうかも分からん」


「うん。まだ仮定だね」


ティセラも頷く。


「外見や装備に共通点があるからといって、同郷とは限りません。まず本人たちから話を聞くべきでしょう」


シズクが二人を見る。


「どこから来たのか、どうして流されていたのか、それから、お二人が知り合いなのかですね」


エヴァが腕を組む。


「仲間かもな」


リーゼは、銀髪の女に残っている脚の傷と、青い女の肩に残った傷を見る。どちらも、かなり新しい。


「仲間ならいいが」


「何だ?」


「二人とも、落ちる前か流される途中で手足を切られたらしい」


エヴァも傷を見る。


「そういや、こっちは腕だったな」


「こっちは脚だ」


軒下からノアが言った。


「同じ何かに襲われた可能性もあるし、お互いにやった可能性もあるね」


シズクは二人を見比べた。


「後者でしたら、同じ部屋へ寝かせない方がよさそうです」


「それだ」


リーゼはすぐに決めた。


二人は別々の部屋へ運ぶことになった。


銀髪の女はリーゼとティセラが様子を見て、青い女についてはエヴァとシズクが確認する。


ノアは運ぶために近づくこともせず、必要なものがあれば軒下から場所を教えたり、外で準備できることだけを手伝った。


皆が館の中を行き来している間も、ノアは基本的に軒下にいた。


今の時点で分かっていることは、ほとんどない。


二人とも、谷底の上のどこかから水に流されてきたらしい。


二人とも、見たことのない技や術を持っている。


二人とも、身体の一部が切断されても、近くに残っていた部位を再び身体へ繋いだ。


そして、妙に似た忍装束らしきものを身につけている。


それだけだった。


二人が同じ場所から落ちてきたことも、その上を流れる大河に固有の名があることも、谷底の住人たちはまだ知らない。


翌朝、二人がほとんど同じ時刻に目を覚まし、顔を合わせるまでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ