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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第九章 分かつ河Ⅰ

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第五十七話 世界を分つ谷で、二人の忍者は互いの手足から狙う

世界を分つ谷には、巨大な石橋が架かっていた。


谷の両岸を繋ぐ古い橋で、その遥か下には分かつ河が流れている。


もっとも、橋と呼べる形が残っているのは、もう半分ほどだった。


石橋の中央では、砕けた石が次々と崩れ落ちている。その上で向かい合っている二人の女が、ここまで橋を壊した張本人だった。


一人は銀髪のダークエルフ、クロエ。


褐色の肌、長く尖った耳、細い腰と長い手足を持つ、すらりとした身体つきだった。その細身の身体に対して乳房は非常に大きく、尻も丸く豊かに張っている。


身体を覆う紫色の忍装束は布ではない。術によって皮膚表面へ専用の膜を形成したもので、必要なら町娘、商人、侍女、旅人など、潜入先に合わせて姿を変えることができる。


ただ、どの姿でも、何故か乳房は一房ずつ包まれ、乳輪と乳首とヘソと尻と股間の線も分かりやすい。


何故そういう形なのかと聞かれても、クロエには答えられない。師も先代も、そのまた前の世代も同じような忍装束を使っていたため、忍びとはこういう格好をするものだと思っている。


クロエの武器は、背中に背負った太刀だった。


向かいにいるのは、青い肌をした魔族の女、アスラ。


長い紫髪、尖った耳、黒い眼球の中に浮かぶ白い瞳を持ち、口を開けば舌の先まで細く尖っている。こちらも細身で手足が長く、それでいて非常に大きな乳房と豊かな尻を持つ。


アスラの忍装束も布ではなく、自身の紫髪の一部を術で変質させ、身体の表面へ這わせたものだった。やはり変装用に形を変えることができるが、何故か乳房は一房ずつ包まれ、乳輪と乳首とヘソと尻と股間の線も分かりやすい。


こちらも理由など知らない。昔からそうだった、それだけである。


アスラは両手の鉤爪を構えた。


「まず脚だな」


クロエが背中の太刀を抜くと、アスラも口の端を上げた。


「奇遇だな、私も同じことを考えていた」


「両腕を落としてから脚だと思っていたが、先に脚でもいい」


「首は最後か?」


「貴様は首だけでも魔法陣を出すから面倒だ」


「貴様こそ、頭だけ残しても喋るだろう」


二人にとって、腕や脚を切り落とされる程度では、まだ戦闘不能とは言えなかった。


クロエは重傷を負うか電力を使い果たすと、身体が充電モードへ移行する。その状態で切断された腕や脚、首が近くにあれば、本体と切断部の断面から神経ケーブルが伸び、互いを探して勝手に接続する。


アスラも同じだった。ただし、こちらは電力ではなく魔力を消耗すると回復魔法陣が現れ、切断面から伸びるのも神経ケーブルではなく肉触手である。


だから二人は、相手を本気で無力化しようとすると、とりあえず手足をもいで肉ダルマにしようとする。


そして、落とした手足を遠くへ飛ばす。


そこまでやって、ようやく安心できる。


「行くぞ」


クロエが地面を蹴った。


太刀が横へ走り、アスラの左腕が宙を舞う。


アスラは腕を失ったことなど気にも留めず、残った右手の鉤爪を振るった。クロエが身体を捻ったが避けきれず、右脚が腿から切断される。


「一本ずつだな」


「数えるな」


片脚になったクロエは倒れず、銀髪を石橋へ突き刺して身体を支えた。一方、石の上へ落ちたアスラの腕からは、すでに細い肉触手が伸び始めている。


クロエがその腕を蹴り飛ばそうとした。


「させるか」


アスラが片手で印を切ると、小さな魔法陣が腕の下へ現れ、切断された腕だけが数歩離れた場所へ移動した。


「部位だけ転移させるな」


「貴様が蹴るからだろう」


「だったら自分で持っていろ」


「戦闘中に自分の腕を抱えて走る馬鹿がいるか」


本気で互いを切り刻もうとしているのに、口喧嘩だけは普段と変わらない。


クロエの銀髪が広がり、橋へ設置されていた監視器や警報器へ突き刺さった。


「電脳忍法――潜脳ダイブ


瞳の奥を青白い文字列が流れる。


クロエは機械を読む。そこを流れる信号へ入り込み、制御を奪い、必要な情報を自分の神経へ直接流し込む。


そして、アスラの魔法陣さえ、一つの規則を持った情報構造として解析する。


「右から八番目、甘い」


魔法陣が一つ崩れた。


「十五番目もだ」


もう一つ消える。


アスラは、それを見て笑った。


「相変わらず、見つけた穴へすぐ入るな」


「穴を残している方が悪い」


「だから今回は、その入口に仕込んである」


アスラが印を変えた瞬間、クロエの肩が大きく跳ねた。


侵入させた信号を逆に辿り、アスラの術がクロエの神経系へ流れ込んでいる。


「勝手に人の神経へ入るな!」


「貴様が先に私の術式へ潜った!」


「術式と人の神経を一緒にするな!」


「以前は随分喜んでいただろう」


クロエの動きが止まった。


「……何だと?」


アスラは楽しそうに笑う。


「以前、捕らえた時だ。神経へ術を流すたびに声が変わっていただろう」


「貴様!」


「出力を上げたら脚まで震わせて――」


「お前だって、魔核の周りを責めた時に喜んでただろうが!」


今度はアスラが止まった。


「喜んでいない!」


「もっと深くしろと言ったぞ」


「尋問を続けろという意味だ!」


「誰が信じる!」


「貴様こそ、もっと流せと言っただろう!」


「言ってない!」


自分がどう反応したかは徹底的に否定するくせに、相手がどう反応したかは驚くほど詳しく覚えている。


しかも、第三者が相手へ同じことをすれば、本気で怒る。


以前、クロエが別勢力に捕らえられて拷問を受けた時、当時敵対していたアスラは施設へ乗り込み、守備兵を倒してクロエを連れ出した。


逆に、アスラが人間側の対魔部隊へ捕らえられた時は、クロエが助けに来た。


「私が貴様をいたぶるのはいい」


クロエが言った。


「そこは同意する、私が貴様をいたぶるのもいい」


「だが、他の奴がやるのは気に入らない」


「ああ」


「何でだ?」


「知らん」


本人たちにも、理由は分からない。


嫌いで、敵で、殺したい。


だが、他人に殺されるのは許せない。


それで二人の中では成立していた。


「まあいい、今日は私が殺す」


クロエが太刀を構え直す。


「断る、今日は私が貴様を殺す」


アスラの周囲へ何重もの魔法陣が広がった。


銀髪が橋へ走り、紫髪が宙へ舞い上がる。


二人は同時に最大出力を叩き込んだ。


「死ね!」


「貴様がな!」


轟音とともに、残っていた石橋の中央が吹き飛んだ。


クロエとアスラは、互いの攻撃を受けて正反対の方向へ弾き飛ばされる。切断された腕と脚、砕けた石材も巻き込まれ、すべてが谷の中へ落ちていく。


霞の向こうには、分かつ河。


落下を始めた二人は、一瞬だけ互いの顔を見た。


「お前のせいだ!」


「貴様だろうが!」


その怒鳴り声も、やがて深い谷の中へ消えていった。

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