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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第八章 教授Ⅱ

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第五十六話 教授は、興味だけで聖者を選ぶ【一般公開版】

ティセラは、三日考えた。


きっかけは、単純だった。ノアを、もっと知りたい。前世の記憶。オーガの身体。異常なフェロモン。治癒作用を持つ体液。谷底の土地への影響。そして、他者へ強い作用を与える身体を持ちながら、本人はそれを利用することを避ける。


研究対象として、非常に興味深い。少なくとも、ティセラ自身はそう整理していた。


夕方。


新しく作った研究室。


まだ棚は半分。机も仮置き。リーゼが設計した二号洗濯機は、今日も外で試運転している。工房は、木工区画と、金属工作、魔法区画へ少しずつ分かれ始めた。便所も増えた、客室の壁もほぼ完成した。


谷底は、わずか数日でまた少し変わった。


ノアは、軒下で工具を研いでいる。


ティセラは、そこへ行った。


「聖者」


「何?」


「あなたと性交してみたいのですが」


がりっ。


砥石が、変な音を出した。


ノアが、ゆっくり顔を上げた。


「……何て?」


「聞こえなかった?」


「聞こえた」


「では」


「どうして?」


ティセラは考える。


「興味があります」


「僕に?」


「あなたの身体に」


ノアが微妙な顔になる。


「もう少し言い方ない?」


「好意があると言えばよいですか?」


「あるの?」


「特には」


「即答だね」


ティセラには恋愛感情はない。嫌いでもない。信用している。一緒に暮らしていて。居心地も悪くない。ただ、それを恋愛だとはまだ思わない。


「興味だけでは駄目ですか?」


ノアは少し黙った。


「駄目とは言わない」


「では」


「でも今日はしない」


ティセラが瞬きをする。


「何故?」


「今日、僕の近くに長くいたから」


「それが?」


「今の判断が僕の影響かもしれない」


ティセラは、少し考える。確かに、今日も増築作業で、かなり長い時間ノアの近くにいた。


「では、離れれば?」


「うん」


「どのくらい?」


「何日か」


「実験ですね」


ノアが笑う。


「そう言えばティセラは納得するんだ」


「はい」


その日から、ティセラは必要な作業以外、ノアへ近づかなかった。


一日。まだ興味がある。


二日。変わらない。


三日。むしろ、自分の意志だという確信が増した。


夕方。


ティセラはまた、軒下へ行った。


「聖者」


ノアが顔を上げる。


「まだ興味があります」


「好意は?」


「特に変わりません」


「そこは変わらないんだ」


「はい」


ノアは笑った。


「分かった」


「では?」


「今日はいいよ」


「随分簡単ですね」


「三日考えたんでしょ?」


「はい」


「ならティセラ自身の判断だと思う」



その夜、二人は何度か確認した。


やめるか。続けるか。今も自分で選んでいるか。


ティセラは、その確認の多さの方へ途中から興味を持った。


「また聞くのですか?」


「聞くよ」


「さっきも答えました」


「今は?」


ティセラは少し考える。


「続けたいです」


「なら分かった」


ティセラは一度、隣室へ戻った。


戻ってきた彼女は白衣を羽織り、眼鏡を指で押し上げた。エヴァへ相談した結果らしい。


「メガネの白衣のお姉さん、だそうです」


ノアはしばらく呆然としていたが、やがて笑った。


「君も大概だな」


「観察対象の好みを反映しました」


「研究じゃなくて、ティセラがしたいことをしてね」


「これも私がしたいことです」


「それならいい」


ティセラは室内を一度見回し、机の上の記録用紙を伏せた。


「今夜の詳細は記録しません」


「どうして?」


「私生活だからです」


ノアは少し驚き、それから嬉しそうに笑った。


扉が静かに閉じた。


翌朝。


ティセラは、いつも通り食卓へ来た。


リーゼが、一度見て、もう一度見た。


「教授」


「はい」


「昨夜」


「聖者と性交しました」


リーゼが机を叩いた。


「聞く前に言うな!」


シズクが身を乗り出す。


「どうでした?」


「お前も聞くな!」


ティセラは考える。


「非常に興味深かったです」


エヴァが笑う。


「またやるか?」


「追加観察には価値があります」


リーゼ。


「研究計画へ入れるな!」


ノアが外の机から言った。


「ティセラ」


「はい?」


「次は、研究だからじゃなくて」


少し考える。


「ティセラがしたい時にしてね」


ティセラは、不思議そうにノアを見る。


「今回も私がしたかったのですが」


ノアが止まる。シズクが笑う。エヴァも笑う。リーゼだけ頭を抱えた。


「何か違いますか?」


ノアは少し考え、笑った。


「いや。それならいい」


その日の午後、ティセラは新しい研究室へ入った。


自分の机。自分の棚。魔宝石。標本。紙。


外では、二号洗濯機の水音。


工房から、リーゼの声。


畑から、シズクとエヴァの声。


さらに遠く、ノアが増築用の木材を削っている。


ティセラは、記録用紙を開いた。


『谷底生活観察』


その下へ。


『観察期間、延長』


さらに。


『終了予定、未定』


眼鏡を直す。


外から。


リーゼの声が響いた。


「教授! 二号機から水が溢れているぞ!」


ティセラが立ち上がる。


「今行きます!」


紙をそのまま机へ置いた。


研究室を飛び出す。


外では、シズクが笑っている。


エヴァも。ノアも。リーゼだけ、本気で困っている。


ティセラは、もう、それを観察するためではなく、一緒に止めるために水場へ走っていった。

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