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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第八章 教授Ⅱ

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第五十五話 教授は、聖者が一人になる場所まで観察してしまう【一般公開版】

館の増築が始まった。


「まだ増やすのですか?」


ティセラが聞いた。


「増やす」


ノアは丸太へ印を付けている。


「今でもかなり大きいと思いますが」


「僕にはね」


「では何故?」


ノアは館を見る。


最初。エヴァ。


次。シズク。リーゼ。ティセラ。


「また誰か落ちてくるかもしれない」


ティセラは、少し黙った。確かに、全員、偶然ここにいる。次がないとは言えない。


増設するもの。客室。ティセラの研究室。医療用の小部屋。資材庫。漂着物の一時保管用土間。浴室周辺も広げる。


「私の研究室まで?」


「必要でしょ」


「かなり」


「なら作る」


リーゼが図面を見る。


「窓は二つ。魔法実験をするなら換気が必要だ」


ティセラ。


「遮蔽結界も欲しいですね」


ノア。


「壁も厚くしよう」


シズク。


「また部屋が増えますね」


エヴァ。


「次は何人来るかな」


リーゼ。


「楽しみにするな!」


その日、ティセラはノアの行動を追った。


木材。工作。畑。水路。結界。工具。保存蔵。


昼食。


また工作。


ノアが、自分だけで谷底生活のすべてをしているわけではない。しかし、ほぼ全部に少しずつ関わっている。


午後。


ノアが、館とは反対方向へ歩き始めた。


ティセラは首を傾げた。


生活圏から外れる。水場からも離れる。畑からも。保存蔵からも。ただし、結界から大きく離れない。



林の中。午後の陽射しが木漏れ日となって落ちる、館からも水場からも離れた一角。


ノアは足を止め、後ろを振り返った。


「ティセラ」


木の陰から白衣の裾が見えている。


しばらくして、ティセラが姿を現した。


「気づいていましたか」


「途中からね」


「ここで何をするのです?」


「一人になる」


「何故です?」


「館にいると、誰かに影響を与えるかもしれないから」


ティセラは眼鏡を押し上げた。


「休息ですか?」


ノアは答えにくそうに視線を逸らす。


その反応だけで、ティセラは理解した。


「ああ」


「分かったなら戻って」


「観察は?」


「私生活です」


「生理現象でしょう?」


「そうだけど、観察しないで」


ティセラは少し考えた。


「何故、相手へ頼まないのです?」


「皆、自分の都合があるから」


「断られたら?」


「自分でどうにかする」


「それだけ?」


「それだけ」


ティセラは、しばらくノアを見る。


「意外です」


「何が?」


「あなたの身体特性を考えると、周囲の女性へ欲求を押しつける方が、生物としては自然です」


ノアの顔が少し真面目になる。


「だからしたくないんだよ」


「逆に?」


「僕の身体が、そういう方向に相手を引っ張るから。だから自分の欲求まで相手へ負担させたくない」


ティセラは紙へ書いた。


『強い身体的欲求と対人的抑制が同時に存在』


ノアが覗く。


「今書く?」


「忘れるので」


「せめて館で書いてよ」


「では、先に戻ります」


「そうして」


歩き出してから、ティセラが振り返った。


「観察対象との適切な距離について、再検討します」


「ぜひそうして」



館へ戻ると、エヴァが木材を運んでいた。


「何してた?」


ティセラ。


「聖者の私生活を観察しようとして、拒否されました」


ノア。


「ティセラ!」


リーゼが即座に振り向く。


「教授! 私生活だ!」


「認識を改めました」


シズクが小さく聞く。


「どこで?」


「場所を聞くな!」


エヴァだけが声を上げて笑った。

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