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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第七章 教授Ⅰ

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第五十一話 教授は、谷底にもう新しい常識ができ始めていると記録する

数日、かかった。紙が増えた。ティセラの記録。リーゼの機械図。ノアの前世知識。シズクの昔話。エヴァの戦場経験。


最後。


ティセラは、全てを机へ並べた。


リーゼ。


「結論は?」


ティセラ。


「分かりません」


リーゼが机を叩く。



「ここまでやって!?」


「研究とはそういうものです」


「その言葉、便利すぎるぞ!」



ティセラは続けた。


「ただし、分かったことはあります」



第一。

シズク。エヴァ。リーゼ。ティセラ。四人が、別世界から来たという証拠はない。

巨大な一つの世界。遠く離れた地域。そこから、同じ谷底へ落ちた。その可能性は十分にある。


第二。

地域差は、文化だけではない。

人体。生態系。魔力。出生。性別。宗教。社会構造。全て違う。


第三。

文明は一列に並べられない。


シズク。ノアの前世の、古い日本に似た社会。しかし、鬼がいる。狐や狸が化かす。子供が自然に現れることがある。子供の性別が変わる。

男。両性。女。信仰と現実の異類が、生活の中で混ざっている。


エヴァ。身体。生存。強さ。弱い者は、早く成熟し、多く子を残し、老いる。強い者は、子ができにくい。ほとんど老化しない。月経すら女性共通のものではない。人間。獣。軍馬。魔物。全て高強度。高捕食圧。馬まで。人を食う。


ノアが小さく言う。


「世紀末生態圏」


ティセラ。


「その名称は採用しません」


エヴァ。


「俺は好きだぞ」


「だから採用しません」



リーゼ。帝国。王国。共和国。鉄道。電気。工場。銃。大砲。飛行機。ノアの前世でいう、第一次世界大戦期ヨーロッパに近い世界観。機械によって、人間の能力が急激に拡張された文明。



ティセラ。多種族。魔法科学。魔宝石。体系化された術式。高度な研究機関。そして、何故か学院が何でもする。



リーゼが紙を見る。


「そこは結局、説明できなかったな」


ティセラ。


「普通に繁栄しています」


エヴァ。


「そこが分からないんだって」


シズク。


「私もまだ少し」


ティセラが不満そうになる。



ノア。前世。科学。情報。工業。核兵器。人工衛星。コンピュータ。無人機。遠隔攻撃。自動化。リーゼの文明を、さらに先へ。人間を機械で強くする段階から、人間そのものを危険な場所から外す段階へ。



ティセラは書く。


『発達方向が異なる』



ノア。


「どれが一番進んでる、とは言えないね」


「はい」


そして、ティセラは最後の一枚を出した。


五人。


ノア。エヴァ。シズク。リーゼ。ティセラ。


地上での肩書。


元王族。巫女。帝国航空隊大尉。王立魔法学院教授。そして、前世の記憶を持つオーガ。


谷底では。畑。水。料理。洗濯。魔物。建物。怪我。設備。食料。生存。そちらが先。


ティセラ。


「性についても同様です」


リーゼ。


「まだそこへ戻るのか」


「まとめです」



シズク。性別境界がもともと曖昧。女性を好きになることにも、そこまで大きな意味を持たせない。


エヴァ。性別より強さ。そして本人が選べること。


リーゼ。最も固定的な男女観を持つ。だが、谷底へ来てその規範も、すでに変化し始めている。


リーゼ。


「何故そこで小官を見る」


シズク。


「裸で館を歩いていましたし」


「言うな!」


エヴァ。


「聖者と寝る時はもっと――」


「それ以上言うな!」



ティセラは書く。


『谷底共同体では、出身社会の規範より、本人の意思確認を優先する傾向』



ノアは、そこだけ少し真面目に言った。


「それは、そうしてほしい」


エヴァ。


「ああ」


シズク。


「私も」


リーゼは、少し黙って。


「……異論はない」


ティセラが頷いた。


「つまり」


四人を見る。そして、外にいるノアも。


「私たちは、地上の文化をそのまま持ち込んでいるわけではありません」


シズク。


「混ざっている?」


「はい」


ノアの水路。ティセラの魔法。リーゼの機械。エヴァの戦闘。シズクの生活。


シズクが、途中で聞いた。


「私は生活だけですか?」


沈黙。



リーゼ。


「覗き」


シズク。


「リーゼ」


エヴァ。


「洗濯」


「エヴァまで」


ノアが外で笑う。



ティセラも、少しだけ笑った。


そして、最後の一行を書く。


『谷底では、出身地とは異なる新しい共同体規範が形成され始めている』


エヴァが、横から覗いた。


「難しく書いたな」


「研究記録ですから」


「要するに」


エヴァは、椅子へ背を預ける。


「同居人だろ?」


沈黙。



シズク。


「そうですね」


ノア。


「間違ってはいないかな」


ティセラは、しばらく考えた。


「……否定できません」


リーゼ。


「数日かけた研究を一言で終わらせるなあああっ!」


館へ、いつもの声が響いた。


世界の形は、まだ分からない。


四人が、本当に同じ世界から来たのかも、分からない。


けれど。


今、同じ場所にいる。

それだけは、もう誰にも疑いようがなかった。

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