第五十話 教授は、神と悪魔と世界の果てを同じ表へ書く
「宗教について」
ティセラが言うと、シズクの姿勢が少しだけ変わった。
神社。巫女。祭り。穢れ。祟り。供物。生贄。
シズクの地域では、信仰が日常と切り離されていない。
ティセラ。
「神は観測されたことがありますか?」
シズクが固まる。
「……神様を?」
「はい」
「観測?」
「魔力反応。物理的顕現。神託の再現性――」
シズクが明らかに引いた。
「神様を、そんなふうに調べるのですか?」
「研究対象であれば」
リーゼ。
「教授」
「はい」
「そこは小官も少し怖い」
「何故です?」
エヴァ。
「俺は面白そうだと思う」
シズク。
「エヴァは黙っていてください」
ノアの前世。多数の宗教。神を信じる人。信じない人。だが、神が科学的に確認されていたわけではない。
リーゼの地域。教会。宗教。信仰。倫理。だが、航空機の設計に神託は使わない。砲撃計算にも。
ティセラの地域。神学。魔法科学。精霊学。異界研究。全部、研究対象。神と呼ばれる存在が、本当に神か、高位魔法生命か、精霊か、異界存在か、学者同士で普通に揉める。
シズク。
「神様を疑ってよいのですか?」
ティセラ。
「分からないことを分かったことにする方が問題です」
シズク。
「……やはり教授の世界は怖いです」
エヴァの地域。神も、悪魔もいると考えられている。
エヴァ本人は。
「出てきたら殴ってみれば分かる」
リーゼ。
「神を殴るな!」
ティセラは整理した。
同じ「神」という言葉でも、同じ存在を指すとは限らない。
逆に。
ノア。
「同じものを、地域ごとに別の神として呼んでる可能性もある」
ティセラ。
「あります」
次。
世界の果て。
シズク。神の大瀑布。神聖。禁忌。
エヴァ。魔界大穴。近づかない。背を向ける。
リーゼ。世界壁。国家事業で越える。
ティセラ。牙塔。研究する。登る。そして落ちる。
ノアの前世。世界に物理的な端はない。球体だから。
ティセラが、四つを並べる。
「もし同じ巨大地形なら」
指を動かす。
「シズクさんの地域は神聖視した」
「はい」
「エヴァさんの地域は恐れて避けた」
「ああ」
「リーゼさんの地域は国家の力で越えようとした」
「当然だ」
「私たちは観測しようとした」
ノア。
「社会の性格がそのまま出てるね」
エヴァ。
「俺のところが一番賢かったな」
リーゼ。
「何故だ!」
「近づかなかった」
シズクが考える。
「結果だけなら」
リーゼ。
「認めるな!」
ティセラ。
「私は登って落ちました」
ノア。
「リーゼは飛んで落ちた」
シズク。
「私は落とされました」
エヴァ。
「俺は捨てられた」
沈黙。
リーゼ。
「……誰一人、まともな方法で谷底へ来ていないな」
それだけは、五人とも、否定できなかった。




