第四十九話 教授は、聖者の前世では兵士すら要らなくなり始めたと知る
「僕の前世は」
ノアが言った。
「リーゼの時代から、さらに百年以上くらい先だったと思う」
リーゼがすぐに食いつく。
「飛行機は?」
「音より速いものもある」
リーゼが止まる。
「大砲は?」
「もっと遠くへ飛ばせる兵器がある」
「どれほど」
「大陸を越える」
さらに止まる。
「通信」
「世界の反対側とも、ほぼ瞬時」
リーゼが、もう少し怖そうになっている。
ノアは言葉を選ぶ。
「それで」
「まだあるのか」
「一発で都市規模を破壊できる爆弾も作られた」
沈黙。
エヴァ。
「都市?」
「うん」
「城じゃなく?」
「街ごと」
ティセラ。
「術者は?」
「いない」
「魔法では?」
「ない」
「一つの兵器で?」
「そう」
シズクが小さく聞いた。
「人も?」
「……たくさん死ぬ」
誰も何も言わない。
リーゼ。
「作ったのか」
「作った」
「使ったのか」
ノアは少し間を置く。
「使われたこともある」
リーゼまで完全に黙った。
「名前は?」
「核兵器」
リーゼがゆっくり復唱した。
「核兵器……」
だが、終わらない。
「その後」
リーゼ。
「まだあるのか!?」
「人を危険な場所へ行かせない方向にも進んだ」
エヴァ。
「どういう意味だ」
ノア。
「人間が乗らない飛行機」
リーゼが立ち上がる。
「待て」
「うん」
「飛行機に操縦士が乗らない?」
「乗らない」
「誰が操縦する!」
「遠くにいる人」
「どれくらい遠く!」
「自国にいながら、他国で飛ばすこともできる」
リーゼ。
「……撃ち落とされたら」
「操縦してる人は死なない」
「乗ってないから?」
「うん」
ティセラ。
「遠隔使い魔?」
「役割は似てるけど、魔法じゃない」
さらに無人機。人工衛星。コンピュータ。遠隔誘導。自動監視。機械同士の通信。機械が敵を探す。機械が映像を送る。機械が他国へ入り込む。
ノア。
「僕が生きてた頃でも、人間が全部不要になったわけじゃない。でも、危険な場所から人間を外せるなら外そう、という方向には進んでた」
エヴァ。
「戦争だろ?」
「うん」
「戦士は?」
「必要な役割が減っていく」
エヴァが、本当に嫌そうな顔になる。
「気持ち悪い」
リーゼ。
「何がだ」
「殺すなら、せめて自分が殺してるって分かる距離にいろよ」
「貴様の倫理を基準にするな」
「でも気持ち悪いだろ」
リーゼは、反論しかけやめた。
シズク。
「相手を見なくても」
ノア。
「うん」
「顔も」
「うん」
「名前も知らなくても」
「そうなることはある」
ティセラは、紙へ三つ書く。
エヴァ。人間そのものが兵器に近い。
リーゼ。人間が機械で能力を増幅する。
ノア。機械から人間そのものを外し始める。
リーゼが両手で頭を抱えた。
「小官の飛行機から」
顔を上げる。
「百年で何が起きたんだ!」
ノア。
「色々」
「色々で済ませるなあああっ!」
エヴァが腕を組む。
「やっぱり俺のところが一番まともだな」
シズク。
「馬が人を食べるので違うと思います」
ティセラ。
「私もそう思います」
リーゼ。
「当然だ!」
ノア。
「僕も」
エヴァ。
「お前ら、その馬の話いつまで引っ張るんだよ」




